与太郎文庫
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1977年10月12日(水)  中村 玉緒:古くさいのもきもののきめて

 
http://d.hatena.ne.jp/adlib/19771012
 
 【なかむら・たまお】女優。勝新太郎夫人。中村雁治郎
(成駒屋二代目)を父に、兄・扇雀は当代随一の名女形。
(Interviewer:Yoshihuji, Ken'ichiroh)
 
── ひところ横浜にお住まいでしたね犬を連れた玉緒さんの姿を 私
の友人が何度か見かけたそうですよ
玉緒 家の前が すぐ公園でしたからねいい街でしたねえ 生れてはじ
めて京都を離れたでしょ 知りあいもすくないし心ぼそい時期でしたけ
ど 街の人がいい人ばっかり たとえばゴミ屋のおじさんがとっても親
切だったり(笑)
── 堀割りや伝馬船など いい雰囲気がありましたね
玉緒 わたしの好きだった伊勢崎町だと洋服なんかが 東京のものと 
ちょっと違うのね 似たような柄でも一色多いみたい ですから 東京
へ移ってからも洋服屋さんだけは横浜に残してあるの 
── 京都では嵐山でしたか やっぱり犬を連れて散歩されたのは(笑)
玉緒 犬もそうだけど まだ子供が小さかったでしょ 散歩は毎日しま
したね その家を建て増しする間 一年ちょっと岡崎でお家を借りたこ
とがあるんですよ 岡山のさるお金持が“売りもせん貸しもせん”いう
て空家のまま放っとかれたのを雁治郎の知りあいが見つけてきたんです 
勝の名前いうて“ちょっと変ったひとですけど”(笑)頼んでみたら 
意外にあっさり貸したげる いうことで 
── ご主人のお客さまも多いし 大きなお家でないといけませんね 
玉緒 たまに がら〜んとした日もありますけどね それで 先だって
北海道へロケに行ったときのこと“玉緒さーん”いうて車から降りてく
る方がみえましてあのときの家主さんご夫婦なんですよ 岡山の方が 
ぐうぜん北海道に遊びに見えたんですね“いつぞやは ご無理申しあげ
まして”あらためて ごあいさつしたようなことです 
── 京都の岡崎というと美術館のあたりですか 
玉緒 そうです 動物園もすぐそばで もともと息子さん夫婦の新居に
予定されていたんですって ところが息子さんが古い家はいやや いう
て売ってしまわれた それが今 喫茶店になってるらしいんです 玉緒
が経営してる店や いう噂で 俳優さん仲間でも本気にしてる人が今で
もいるみたい“こないだ あんたの店でコーヒー飲んだげた”(笑)い
われます
── きょうのお芝居(山本周五郎原作《釣忍》)はご主人の演出です
ね ときどき見にこられますか
玉緒 いいえ舞台稽古だけで 忙がしいみたいですね 先日も四時に来
るいうて5分前に“来られません”いう連絡で そんなこと知らん若い
俳優さんが カチカチになって あとで“勝センセ どの席でした”な
んて聞くの“きょうは見てもらえへんかった”いうと“そうでございま
したか”(笑)
── 成駒屋の娘ということで 舞台女優になるのは お父さまのすす
めがあったからですか
玉緒 いいえ はじめから そんな気はだれにもありません 歌舞伎い
うたら男の世界で 女は役にたちません 子役のようなことはやらされ
ましたけど 女に生れたら歌舞伎の御曹子の奥さんになるのが だいた
いの筋書ね(笑)としごろになって映画にちょっと出たり年に一回か二
回やっているうちに だんだん数が多うなったんです
── 今しがたの舞台でも やはり成駒屋の風格でしたよ 
玉緒 むかし 三木のり平せんせに“目と鼻はまちがいなく成駒屋だけ
ど 口だけどうして違うんだ”いわれました(笑)もともと舞台に出る
つもりがなかったし芝居もあんまり観てないし 楽屋の道具も持ってな
いくらいで 苦労しました 
── テレビの場合とまた違うんですね
玉緒 いま花登筐せんせの《さわやかな奴》で染屋の娘を演ってます 
染屋の職人はそろばんが出きんから お父さんの腕がよくても値切られ
る 娘のわたしが商売はじめて問屋とかけあうわけ 頭のええ娘で そ
のうち女社長になってしまう こういう役はセリフが多くてたいへん 
ボンボンしゃべらなあきません おとなしい女の役でですと“はい”い
うて次のセリフまて間があるでしょ この方は ずっとラクなんです
(芙)
── 歌舞伎の奥さんとは少し違った(笑)けれども 多忙なご主人の
多忙な主婦として ふだんはどんな奥さんですか 
玉緒 いつもジーパンですねん(笑)主人は“玉緒がきたないとオレが
苦労させてるみたい”なんていうし 子イ共も大きくなるし たまに大
島も着てみせないかん思いますけど(笑)毎日が忙がしいと気持にゆと
りがなくなるんですね せいぜい努力して“お母さんきれいやなあ”い
われたいです 汚れてないから昨日と同じもの着る いうのはいけませ
んね 高価なもの着ることもないけど エプロンにしても 一日に二枚
三枚とりかえてみるとか 明日なに着よか いう気持が必要でしょうね
── 私たちが知ってる玉緒さんはいつもさもの姿ですから きょうは
きものの話を聞かせてください
玉緒 お仕事で ずいぶん各地を回ってますけど 一般の奥さまかたの
センスがよくなっていますね それだけおしゃれになられた といえる
し 生活にゆとりができたんでしょうね
── きものと帯を それぞれ薄い色で合わせるのが 流行ってるみた
いですね玉緒 関東風というんでしょうか 関西では 昔から薄いきも
のに濃いめの帯というふうに 濃淡とコントラストが基本てすね わた
しは仕事ですから両方着るんですけど どっちが好きかといわれれば 
やっぱり関西風です 京都風かな 
── 洋服といちばん違うのは 柄と柄を合わせる点でしょうか
玉緒 洋服でおかしな組合せが きもので似合うことがありますね た
とえば 紺に茶なんていうと 洋服だとけったいでしょ わたしが好き
なきものは何ともいえないごじゃまぜの色の組合せです それか白に銀
の帯とか 若い役なら朱の帯のように ふたとおりですね
── 最近は紺のきものが若い人に人気があるらしい
玉緒 その場合は 白地に柄の入った帯がいいかしら わたしだったら
 すこしあつくるしいけど朱にします 古くさいけども古さを残したほ
うが きものの味があるようね それでも現実の色や柄は江戸時代のも
のでなく 現代のセンスで選ばれたものだし だから なにもかもモダ
ンにしてしまうのはいけませんね 
── 江戸時代のファッションは歌舞伎や花柳界からあたらしい流行が
はじまったといわれますが現代ではどうでしょう玉緒 映画テレビ舞台
からねえ あまり最近はないみたい むしろ男の方が派手になられて 
ペンダントとか ネクタイなんかはその影響でしょうね
   (52.10.12/大阪・中座にて)
 
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http://d.hatena.ne.jp/adlib/19970621
 かんかん虫の男 〜 奥村家の人々 〜
 
http://episode.kingendaikeizu.net/32.htm
 系図でみる近現代 第32回 扇千景 中村鴈治郎
 
(20070208)
 


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