与太郎文庫
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1971年11月04日(木)  職人芸 〜 掛ける、書ける、欠ける、描ける、懸ける、架ける 〜

 
 Ex libris Web Library;郊(楷書体)
http://kanji.jitenon.jp/kanjic/1401.html
 「郊」の部首・画数・読み方・筆順
 
http://d.hatena.ne.jp/adlib/19711104
 
【0】
 
 凸版印刷に勤務していた当時、次長に「きみ、宋朝体かけるか?」と
声をかけられた。新聞用のレイアウトで、見出しの《郊外の家》のうち
「郊」が文字盤から欠けているので、それらしく手がきで補うためだ。
 
 そこで「まぁ、書けると思います」と答え、それらしいものを描いた。
 むかし、高校入学時に、みずから「名人芸ですから」と言ったことが
あるので、こんどは「職人芸」に相当するはずだ。
 
http://d.hatena.ne.jp/adlib/20041114 政商 〜 右向くカリスマ 〜
 ↑19711104(木)11:15 ↓《諫争 19550605 山脈 第九号》
http://d.hatena.ne.jp/adlib/19550605 名人芸/発禁始末
 
 いちおう用は足せたが、念のため「先輩職人」の上司に確かめてみた。
「ちょっと甘いな」たしかに、毎日々々溝引きの筆を使っていないから、
素人目にデッサンが正しくても、玄人目にはエッジが甘いと見える。
 
 おそらく音楽なら「ピッチが甘い」という傾向の事例であろう。
 しかし、いくら正確な周波数でも、耳になじまなければ不自然である。
 歌謡曲のベース伴奏譜で、しばしば矛盾が感じられるような難問だ。
 
【1】
 
…… 1973年、ナイトクラブ「ベラミ」のピアニストがアルバイトに来
ていたスナック「キンコンカン」を見つけ、いくぶん本格的(?)に歌
いはじめた。http://d.hatena.ne.jp/adlib/20031017 カラオケ記念日
 
 かねてよりの疑問だったが、テレビで西城 秀樹と五木 ひろしだかが
《想い出のサンフランシスコ 19620202 Columbia》をハモろうとして、
ハモれないことがあった。三者三様のキーで収拾つかなくなったのだ。
 
 こういう場合、バックバンドがどちらかのキーに移調すれば、多数決
で解決するのではないか、と訊ねてみた。いつもママに“お住っさん”
と呼ばれているピアニストは、即座に否定した。業界の慣習らしい。
 
 もちろんクラシックのオーケストラでも、そんなことは不可能である。
 むかし、将棋の内藤 国雄九段が、キーを半音下げてくれと言ったと
かの伝説があるが、カラオケなら簡単でも、実演ではありえない。
 
…… 半音下げるには、伴奏オーケストラの全譜面を(移調して)書換
える必要がある。新曲の発表時と同じ写譜代(ざっと百万円)がかかる。
http://twilog.org/awalibrary/search?word=%E7%A7%BB%E8%AA%BF&ao=a
 
【2】
 
…… 石井宋朝体の制作にあたったのが、若き日の橋本和夫氏であった。
橋本和夫氏は1935年大阪生まれで、1955年にモトヤへ入社した。1959年
に写研へ入社し、石井宋朝体の制作にあたったそうだ。60年代から90年
代の約30年間にわたり、本蘭明朝Lとそのファミリー、紅蘭細楷書とそ
のファミリー、曽蘭隷書などの監修にあたるとともに、これらの書体の
和字書体の設計も担当した。1997年写研を退職後は、株式会社イワタの
依頼に応じて、書体設計の監修を行っている。
 石井宋朝体について、橋本氏は次のように述べている。
 
>>
「そのようにして、石井茂吉先生の指導・監修を受けながら、写研に
入って始めた書体が、石井宋朝体です。途中で石井先生が亡くなられ、
悲しい空白もありましたが、この書体の完成までには六、七年かかりま
したね。僕が写研で始めたのが二四歳でしたから、終わったときは三〇
歳になっていました。(中略)石井宋朝体は、宋朝体の概念をふまえな
がら、石井書体の思想が加味されて、それは優雅な宋朝体が生まれまし
た。写植文字のデザインを勉強するために上京し、五、六年で大阪へ帰
る予定でしたが、結局、僕は定年までの三五年余り、写研に勤めること
になりました」(字游工房『文字の巨人』インタビューより)
<<
 
 橋本 和夫 レタリング 1935‥‥ 大阪 /1955 モトヤ入社 1959 写研入社
http://imadakin1.seesaa.net/category/19017900-1.html
 今田 欣一《今宋 20130614 文字の厨房[航海誌]》
 
【3】
 
 この問題は「名人・達人・職人」を考察する前提となるが、実際に、
書いたり描いたり奏したりしない人たちが、好んで論じたがるようだ。
 ゴルフや麻雀について、グリーンやテーブルなしに語るようなものだ。
 
 つぎの番組で、むしろ(与太郎は)縁なき衆生だったかと自覚した。
── 《プロフェッショナル 仕事の流儀 20160613 22:25-23:15 NHK》
http://yo-mu-wa-inko.com/fujitasigenobu-syotaidezaina-2405
 
…… 書式とやいわむ、書体(文体)とやいわむ。
http://twilog.org/awalibrary/search?word=%E6%9B%B8%E4%BD%93&ao=a
── 《SWITCHインタビュー 達人達 NHK》
 
【4】
 
 素人が、玄人のいないのを見計らって、みずからの才能を誇示する例
は少なくない。たいがいは笑って済ませられるが、あまり思いあがると
ウンザリして気の利いたジョークも思いつかなくなる。
 
 いちばんは、音楽が“わかる”という手合いだ。譜面は読めなくても、
良しあしが分るそうだ。とくにヒットしそうな曲は、ピンと来るそうだ。
 最近、プロの音楽家までが偽ベートーヴェンを賞賛して大恥をかいた。
 
 せんだって、文章の巧拙が“わかる”という言語学者も出現した。
(これまで彼女がどんな本を読んできたか、すこしづつ分ってきた)
 |
…… 「あんたの文章は下手や」と、悪女 K子が電話で云ってきた。
「中高の先生には絶賛された」と云っても承服せず「小学校の作文では
市長賞を獲った」で黙りこんだ(父の代作だった、のオチも聞かずに)。
https://twitter.com/awalibrary/status/690559321621471232
 
【5】
 
 いちおう、楽譜が読めるのに、おかしなことを云う人もいる。
「ジャズのレコードを聴いていると、スィングする姿が目に浮かぶんや」
 それはまぁ、瞼の母みたいに、他人には見えないはずだが。
 
 いわゆるタレントが、名だたる展覧会に入選するのは、何といっても
話題性であり、集客力であり、ひいては悪徳画商の食いっぷちになる。
 こういう人たちは、さらに獲物を求めて、書画骨董に立ち向かう。
 
 あまり公表されないだけで、実態は惨憺たるものにちがいない。
 もっとも安全確実で、おすすめは食いものに行き着く。
 なんら才能がなくても、旨いか不味いかは、子供でも分るからだ。
 
 壁にかかった絵画などの“水平”がわかる人たちも、自信たっぷりだ。
 与太郎が最初に勤務した看板屋の社長は、常日頃これを自慢していた。
 きわめつけは、何が描いてあるのか、分らない、と主張する人々だ。
 
【6】
 
……(1959)ゴリの義兄が祇園で開業し、店内に飾る油絵を頼まれた。
 与太郎は、カンバスにペインティング・ナイフで暗黒色を塗りつけ、
H状の三本線を白いまま塗りのこした作品を仕上げた。(略)
 |
 数日後に、ゴリが困った表情で、この作品を返してきた。
「家族会議でな、どうもこの絵は何を描いたんか、分らん云いよるんや。
おふくろは“竹”やないか云うたが、ほかの者は見当がつかんそうや」
 
 与太郎は「やっぱり素人衆には向かなんだか」と笑って引きとった。
── Fontana, Lucio《Concetto spaziale Attesa & Attese 1959 Milano》
http://d.hatena.ne.jp/adlib/19600318 グリル・キタの客
 
【7】
 
 与太郎の「竹」に対して、フォンタナは「川」である。
 いやむしろ、二年前にヴァイオリンの「H」が出現していたのだ。
http://d.hatena.ne.jp/adlib/19571009 《山脈・第十四号》
 
 さらにその前年、偶然のごとく、二つの「||」が登場していた。
── 《山脈11 19560600 同志社高校文芸部》(パステル)表紙デザイン
── 《ホザナコーラス発表会11 19560600 同志社栄光館》(パステル
 |
http://d.hatena.ne.jp/adlib/20150729 WANTED!
 それに気づかないまま「川」や「シ=海−毎」から「空」につづく。
 さらに、チェンバロを経て、幻のサパー・クラブに至る(全20年間)。
 
…… 未完の三部作《わたしたちのうつくしい川・海・空 1961 》
http://d.hatena.ne.jp/adlib/19641008 Cemballo Recital
 左;Elle Patio 19771206 /右;CHEMBALLO 19641008
 

https://www.mozilla.org/ja/firefox/new/(Ctrl+F)
http://awalibrary.blog.so-net.ne.jp/
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http://www.enpitu.ne.jp/tool/edit.html(与太郎文庫)
http://www.enpitu.ne.jp/usr8/bin/day?id=87518&pg=19711104

 
(20160713)
 
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