与太郎文庫
DiaryINDEXpastwill


1952年07月25日(金)  チョンとクネクネ 〜 マンチ先生講義録 〜

 
http://d.hatena.ne.jp/adlib/19520725
 
 五十分間の授業で、興味がわいてくるのは、後半あたりである。
「なるほど、そういうことか」と分って、いろいろ思いめぐらせるとき
は楽しい。後半の数十分は、あっというまに過ぎてベルが鳴る。
 十分間の休憩時間は、実は同級生の雑談でいそがしいから、かならず
しも休憩できるわけではない。「あいつ、お前のこと、こない言うとっ
たで」「ほんまか?」「ほんまや、どうするねん、お前」などと気にな
る情報も入ってくる。その当人の方をみると、屈託もなさそうに他の者
と笑っていたりする。なんであいつが、と考えているうちにベルが鳴る。
 機械的に立って礼をすると、国語の授業がはじまってしまう。
「きみ、何十何頁のとこ、読みなさい」また俺か。
「……と、その人は言った」
「はい、そこまで。みんな、その人とは誰のことや?」
「……?」
「だれも手を挙げんな、きみどや」また俺や。
「えーと、主人公の父の友人です」
「そうや、そのとおり」
 授業が進むうちに、ふと思いつくこともある。
「先生!」と挙手して、おもむろに昨日の新聞を取りだす。
「この、きのうの京都新聞の随筆について、質問してもよろしいか」
「おお、それはボクも読んだ。それがどうしたんか」
「一部、読みあげてみます。 ……、……、……、……、……、 ……。
つまりその、ここでいうチョンとクネクネとは、句読点の一種ですか、
それとも漢字・カナとおなじ文字の一種ですか。先生のご意見は?」
 ここで藤原市太郎先生は、ベルトをゆるめてからズボンをずりあげる。
渾名の由来は“万年ちび”だから“マンチ”と信じられているが、実は
博識に満ちておられるので“満智”が正しいという。図書館学に精通し、
校内でただひとり司書の有資格者でもある。
「うーん、実はボクも、きみみたいに切り抜くまではせなんだが、朱筆
で印をつけといた。この問題はやね、ひとことでは片づかん問題やね。
これを使う人は多いが、教科書では採用しとらん、つまり文法上いまだ
定めがたい要素があるさかいナ。そやからクェッション・マークなども
国語のなかでの取りあつかいは、決ってないのと同じことなんや」
 尊敬すべき先生のうんちくが、延々と繰りひろがるうちに、惜しくも
ベルが鳴ってしまう。
「お前、あんな質問しても、試験に出るわけないやろ」と北岡達朗君が
文句を言ってくる。彼は、試験問題を予想して、自分でつくった問題に
考えこむほどのテスト・マニアであり、並のガリ勉とは別格である。
「試験には出そうもないな」と、一目おくことにする。なにしろ自転車
の乗り方を教わった恩義もあるし、大の親友なのだ。
 
 新聞部に迎えられて、ますます成績が落ちていく。
(元禄子守唄、以下に詳述)
── 《Day was Day 20001231 Awa Library》P44
 
 ◆
 
「由良の戸を わたる舟人 かじを絶へ ゆくへも知らぬ 恋のみちかな」
── 藤原 市太郎 先生《Camp Song Book 》寄書
 
── 【由良川】京都府北東部、丹波半島に源を発し、福知山盆地を経
て若狭(わかさ)湾に注ぐ川;146km。古来水運に利用され、重要な内陸
水路であった。 ── 《新世紀百科辞典 19781005 学習研究社》P2035
── ゆらのと【由良の門】京都府舞鶴市の北西、由良川口。川底が
深く福知山まで船運がある。(歌枕)
── 《広辞苑 19711118 岩波書店》P2263
 
── うたまくら【歌枕】
1 和歌に詠み込まれる歌語。歌題、名所、枕詞、序詞などを含む。
2 特に、和歌にしばしば詠み込まれる特定の地名。名所。
3 和歌に詠み込まれる名所、枕詞などを、解説あるいは列記した書物。
  「能因歌枕」「歌枕名寄」など。
4 転じて、歌に詠まれた名所を見物すること。
  *伎・独道中五十三駅‐二幕「八つ橋村へ歌枕に参った」
── Kokugo Dai Jiten Dictionary. Shinsou-ban (Revised edition)
 
 ◆
 
── 1953年夏、同志社中学の由良キャン場での記憶より。
 このとき与太郎は二年生だったが、一年落第していたので、三年生と
同期でもある。
 
 昼寝の時間になると、男子生徒はパンツひとつで寝そべって、しばし
雑談したり、ひとりごとを云う者もある。先生たちもくつろいで鼻歌を
歌ったりするひとときである。
── マント・ガイ 〜 最後の副書記長 〜
http://d.hatena.ne.jp/adlib/19390305
 
 ◆
 
 この日付(19520725)は根拠がない。
「先生たちもくつろいで鼻歌を歌ったりするひととき」は、翌年夏で、
藤原先生が、パンツひとつで鼻歌を歌っていた情景に関連したもの。
 
http://d.hatena.ne.jp/adlib/19520725
 チョンとクネクネ 〜 マンチ先生講義録 〜
 
作成日: 2006/03/14


与太郎 |MAILHomePage

My追加