ホームページ
人物紹介


車に乗って
....................................................................................................................................................................
隠れる為に貸してもらった上着を頭から被った状態で、しばらく沈黙したまま車は走っていました。

走り出して少しの間は、陽が当たったり陰ったりする明かりの変化を上着越しに見ながら、今、学校の裏かな?もう通り過ぎたかな?と景色を想像しました。
でも、すぐに、自分は一体何をしてるんだろう?
よく知らない男の人の車に乗ったりして。何がしたいんだろう?
と考えはじめました。

普段の私は、友達がナンパされて車に乗ったみたいな話ですら、
「危ないからやめなよ」と説教するぐらいでした。
Rが他の女子高の友達と一緒に、最近になって大学生と遊び出したと聞き、いつも心配していました。
「別に何にもないよ」とRが言っても、私には理解出来ない事だったし。
本音では、そんなRを変わってしまったと驚いてもいたし。軽いとも思っていました。
周りの友達も、私はK先輩に一途で他に目がいかないと思っていたらしく、私を誘うような事はしませんでした。
私自身も、K先輩以外に恋愛感情が動かない事を分かっていました。
バイト先の男性や、他の男性に興味が無かった訳ではなくて、いいなぁと思う事は勿論ありました。
でも、それは私がお兄さん的存在への憧れが強く、そういう人に構ってもらえるのが嬉しいという感じでした。
結局、私は高校に入ってからも、なんだかんだとK先輩を追いかけていました。
だから、もう、自分に何か諦めが付くまでは。
とことん、K先輩を好きで居つづけようと決めていたのです。

そんな私が、こうして男性の車に乗っているのは、きっとMさんの知り合いだからなんだろうと思いました。
現に、ドキドキという緊張感はあっても、警戒心は全くありませんでした。
それと、多分。ちょっとした好奇心でした。
ここ一週間、気分がクサクサしていて。少し憂さ晴らし的な気持ちもありました。
私の普段の生活には無い事を、ちょっとしてみたかった。
そこへ、たまたまタイミングよく知った顔の大学生が現れた。
そんな感じだったのだと思います。
きっと、待っていたのがMさんだったり女性であれば。
何の迷いも無く車に乗っていたと思います。

車に乗るのは小さい頃から大好きでした。
窓の外の景色をずーっと飽きずに眺めていました。
大きくなるにつれて、親の車にも滅多に乗ることもなくなり。
代わりに通学の電車から窓の外をボーっと眺めるようになりました。
景色を見ていると、嫌な事を忘れられるような気がして。
授業中に窓の外を走る車を見ては、いいなぁ。どっか行きたいなぁと思うことがよくありました。
だから、今日ぐらい。
今日だけは、この男性の親切に、ちょっとだけ甘えてみようか。
その程度の軽い気持ちでした。

借りた上着からは、なんか匂いがしました。
これは、この人の家の匂いかな?
少しすると、そんな事を考える余裕も出てきていました。
夕日が差す温かい車内で横になって。
ちょっとだけ現実を離れた安心感のようなものを感じ初めていました。

その時、「もう、大丈夫だよ」と声を掛けられ、一気に現実に引き戻された気がしました。

↑投票ボタンです。宜しかったら押してやってください。
..................................................................................................................................................................


 < 過去  INDEX  未来 >


「恋愛履歴」 亞乃 [MAIL]

My追加