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人物紹介


無理してない
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K先輩と映画を観た日の翌日。
バイトの帰りに私は先輩に電話をすることにしました。
あの後、先輩が途中の駅で別れて遊びに行ってしまったことをOに話しました。
彼女は

「どっちにしても、別に亞乃が嫌だからって訳じゃないと思うよ」

と言ってくれましたが、せっかくの慰めも私には一時の気休めにしかなりませんでした。

たった半日。数時間のデートの間に、何度もドキドキするような事がありました。
その先輩の言動は、どれをとっても私に好意があるように感じました。
勘違いしていいのなら、それは先輩に守ってもらってるような物凄い幸福感でした。
でも、自信が持てない私には最後の先輩の行動がどうしても引っかかりました。
最初から約束が会って言えずに、近くの駅まで送ってくれたのか。
約束などなく、あの駅で急に思いついたのか。
そのどちらかによって、自分が先輩にどう思われているかが分かるような気がしました。

会ってすぐに電話をするような女は、それこそしつこくて嫌われそうだという不安より、先輩がどう思ってるかを悩みつづける方が私にとっては苦痛でした。
だから、きっと心配してるだろうから、礼儀としてちゃんと帰りましたという報告をするんだという口実をつけ、先輩に電話をかける事にしたのです。

電話を掛けると、出たのはK先輩本人でした。
私は、電話をする間際になって、先輩が不機嫌な声を出したらどうしよう?とかなり怖気づいていました。
ドキドキしながら「もしもし」と言うとすぐ、

「おー。ちゃんと帰れたか?」

とK先輩から明るい声が返ってきました。
名乗らなくても、声でまた私だって分かってくれた。
それだけで、気持ちが物凄く軽くなりました。
これなら、どうして途中で行ってしまったのかを聞ける。
そう思った私は、それでも遠まわしに

「はい、無事帰りました。先輩もちゃんと家に帰ったんですか?」

と言いました。

「子供じゃねーんだから」

先輩に笑いながら言われて、私は物凄い変な聞き方をしてしまった事に気付き、「あ、すみません」と謝りました。

「あの後さ〜、ちょっとトラブって友達の所に泊まったんだよ。
 バンドの事とか色々あってさ。送ってやれなくて悪かったな。」

と、先輩は言いました。
昨日は家に帰ってないんだと知って、何故か分からないけどショックでした。
きっとあの後、バンドの仲間の所に行ったのだろうと想像はついたものの。
泊ったって、男友達?トラブルって、喧嘩したとか?
一瞬の内に色んな疑問と悪い方向の答えが頭を駆け巡り、

「いえ、私は大丈夫なんですけど。先輩の方は、それで大丈夫だったんですか?」

と思わず聞き返していました。

「あぁ、まぁ前からモメてはいたんだけど。色々とあってな。」

色々と・・・
その言葉に少し引っかかりました。
本当は先輩のことだから喧嘩になって怪我とかしてるんじゃないか?ということを聞きたかったのですが、なんとなくそれ以上は聞いてはいけない気がして、

「そうなんですか・・大変だったんですねぇ」

とだけ言いました。
先輩は何だか本当に悩んでいるみたいで、その後、少しだけ内情を教えてくれました。
そして、

「面倒臭せーから、俺が辞めちまおうと思って」

と言い出しました。
その言い方が、K先輩らしくて思わず私は笑いそうになりましたが、ふとそんな時に私と会ってて、先輩は無理をしたのでは?という疑問が湧いてきました。

「あの、もしかして、昨日の約束って無理したんじゃないんですか?」

私が聞くと

「いや、無理してないよ。俺、あの映画観たかったし」

という答えが返ってきました。
そっか。そんなに「映画が」観たかったんだ。
私はほっとしつつも、少しだけ凹みました。

「そんなに映画観たかったんですか?」

極力明るく笑いながら素直な感想として言ったつもりでした。
でも、後から考えたら無理して言ってるのがバレバレだったのかもしれません。

「え?」

と先輩に聞き返され、自分が嫌味っぽい事を言ってしまったのだと思いました。

「あ、変な聞き方ですね。すみません。
 あの、本当はバンドの方に行かなきゃいけなかったんじゃないかと思って・・」

慌てた私は、今さっき先輩に無理してないと聞いたにも関わらず、また同じような質問をしてしまいました。
でも、先輩は意味を察してくれたようで

「ああ。そっか。バンドの事は気になってたけど約束は無かったよ。」

と答えてくれました。

「なら、いいんですけど」

と私が言うと、

「映画誘ったの俺だろ?お前の方こそ無理したんじゃないのか?」

と、逆に聞き返されてしまいました。
私がしつこく質問したことで、何かあるんじゃないかと誤解されたのかもしれないと思い、慌てて私は言いました。

「いえいえ、私は全然。先輩に会えるのに無理なんかしません」

思いのほか、強い口調で思わず本音が入ってしまい、顔が赤くなるのを感じました。

「そんなにムキにならなくても・・・いや、それなら良かったよ。」

後から思えば、電話の向こうで先輩は戸惑っていたようでした。
でも、その時には、告白めいた事を口に出してしまった恥ずかしさで、頭に血がどんどん上ってきて、自分でも訳の訳の分からない状態になっていました。

先輩が私を誘うのに気を遣ったりして欲しく無い。
なんとかして、そうじゃない。私は嬉しいんだって伝えなきゃ。

そんな想いで頭が一杯になっていて、自分の口を止めることが出来ず、

「ほんと、誘ってもらって本当に嬉しかったです。有難う御座いました」

と半ば興奮気味に言ってしまいました。
言ってしまってから、慌てました。
こんな事言われたら、先輩はひいてしまうかもしれない。
頭の中で、もうダメだ・・どうしよう?どうしよう?と繰り返していました。


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「恋愛履歴」 亞乃 [MAIL]

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