出会いは4月。 同じ専門学校の、同じクラスに所属。 その頃の彼は目が見えないくらい前髪が長かったから 何を考えているか分からない人、という感じで 第一印象はあまり良いものではなかった。 しかし、とにかく不思議なオーラを持つ人だったから 月日を重ねるうちにどんどん目で追う回数が増えていった。 男女関係なく友達と仲良くしている姿を見て あたしもその輪の中に入りたいと思っていた。 この時点で少しだけ彼を好きになっていたんだと思う。 でも彼は人と打ち解けるまでがすごく長い人。 仲の良い友達と喋るときはすごく楽しそうにしているのに その時点ではただのクラスメイトだったあたしに対しては とてもクールで無表情で、会話も少なかった。 だから、ほんのりと芽生えた恋心は徐々に徐々に消えていってしまった。 それでも毎日毎日顔を合わせて何回か会話を交わしていくうちに 少なくとも会話のキャッチボールが出来るくらいにはなっていった。 そして得た情報。 彼は あたしより1才年下で お酒が好きで みんなで集まることが好きで 写真をものすごく愛していて しっかりとした信念を持っていて 音楽が大好きで 日本的なものにすごく興味を持っていて 上昇志向が強くて 男気があるということ。 そんなとき、あたしがとても仲良くしていたクラスメイトの女の子が 彼を好きになってしまった。 その時点であたしは彼を諦めていたから 「ああ、そうなんだ。じゃあ応援しようか」 という程度にしか思っていなかった。 そして、そう思ったとおり、彼と彼女をくっつけるべく奔走した。 飲み会を企画して、彼と彼女が話し合える時間を設けたり 彼女の悩みを日々聞いてあげたり 彼と仲のいい女友達から彼の情報をたくさん得てきたり… そうして、2ヶ月程が過ぎた。 彼女は「好き過ぎて彼と喋れない病」にかかってしまい これは自分を堕落させるだけの恋ではないかと判断し 結果、彼を諦める形をとった。 ただ、彼女がどれだけ彼を好きかということを知っていたからこそ そんなに簡単に諦めきれるものではないということもあたしは知っている。 そして学校は後期に入り クラスが変わって 彼女は彼と離れ離れに、 あたしは彼とまた同じクラスになった。 前期のクラスが異常に仲が良かったので 新しいクラスになかなかなじめずにいた あたしと彼を含めた元同じクラスのメンバーは いつしか多くの行動を共にするようになった。 そうやって彼とたくさんたくさん話をしていった結果、 今までは見えなかった、彼の色々な部分が見え始めた。 強くて、弱い。 明るくて、暗い。 友達が好きで、孤独が好き。 以前はいいところしか見えてなかったけれど そういうダークサイドの部分も含めた表裏一体の繊細な精神。 それが、彼の最大の魅力だということに気が付いた。 とても複雑な彼の成り立ち。 それをもっともっと知りたいと思うようになった。 もっと知りたい、とどんどん話しかけていくうちに 彼と接することであたしは 暖かい何かに包まれているような安心感を得られることに気づいた。 それは、 彼があたしと話すとき 以前は見せなかったとびきりの笑顔を 見せ始めるようになったからかもしれない。 無償の愛にも似た、そのやさしいえがお。 そのえがおで、あたしはどれだけ幸せな気持ちになれたことだろう。 そのえがおがみたくて話しかける。 すると彼もまたえがおで返してくれる。 するとうれしくなってあたしも笑顔になる。 そして気づくと二人ともエガオになっている。 そんなハッピースパイラルに巻き込まれている。 だからあたしは彼に会えないと笑顔が消えてしまう。 そして、ようやく、気づいたのだ。 あたしは彼がこんなに好きだったんだ、と。 だけど、あたしは今の立場からきっと抜け出せない。 彼女へ対する問題もあるし 彼を含めたグループの問題にも発展しそうだから。 あたしが恋に対して臆病になっているのが 一番の理由なのかもしれないけれど。 想っているだけでも、これだけ幸せだから。 想うだけなら、罪にはならないから。 あたしはしばらくこのままで…
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