カエルと、ナマコと、水銀と
n.446



 落涙

=落涙=
うわごとを繰り返すあなたの隣で息をひそめる私は、薄ら目を開き、不揃いに靡くカーテンの隙間から月光か、もしくは街灯の光が漏れているのを見つめている。冷え切った手足を温めるには体温が足りない。乾燥した瞳には、涙を流すだけの水分がない。小さな呼吸を意識的に、「ねぇ」という口の形で漏らす、無言。きちんと閉めたはずの蛇口から、水滴が垂れる音が断続的に続くから、私はまどろむことさえできない。どこか別の部屋から、何か機械が振動音を発する。それが、ずっと鳴っていたものなのか、いま、鳴り始めたものなのか、分からない。あなたはずっと、こうして、何かを呟きながら夢を見続けている。長い夜だ。いくらか時間が経ったのだろうか、そう見やった時計は、止まっている。時を刻む音が聞こえないのに気づく。あなたの夢は、きっと、何かを失っていく夢だ。あなたは、咽び泣くように、何事かを呟いている。


2009年03月15日(日)
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