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『ハミザベス』 栗田有起 集英社 - 2004年07月17日(土)

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まず最初に著者の簡単なご紹介をしたいと思う。
栗田有起さんは1972年生まれで本作にてすばる文学賞を受賞
現在まで本作と芥川賞候補となった『お縫い子テルミー』の2作を上梓。
先日第131回芥川賞にも「オテル・モル」でノミネートされた期待の若手作家である。

この方って新しい家族小説の旗手となりえる独特のセンスを持ち合わせている。
少し繊細すぎて(というか基本的には女性読者を対象として書かれてるのであろう)男性読者には若干理解し難い面があるのは仕方ないことであろうか?
しかしながら読者の記憶に残る作品を書ける作家といえるんじゃないかな。

全2編からなる中編集であるが特にそのタイトルのネーミングがコミカルに付けられている。
表題作の「ハミザベス」は母子家庭で育つ主人公が、ある日小さい頃に亡くなっていたと聞かされていた父親の遺産が入りマンションをもらい母親と別居する。
いやマンションだけでなく亡父の愛人だった女性からハムスター(名前がハミザベス)を譲り受けるのである。
そこから様々な事柄が耳に入ってきてそれに対処していく親子愛を描いた作品なのであるが、瀬尾まいこのように強く読者に入り込んでくる力は欠けてるように思えるがさりげなく読者に訴える力は十分に備えられていると思う。

2編目の「豆姉妹」は七歳違いで姿形がそっくりの姉妹を描いてるのであるが、なんと看護婦をしていた姉がSM倶楽部に転職するのである。
主人公がアフロヘアに変身したのがとっても印象的だ。

2編ともそれぞれ親子愛と姉妹愛を軸に淡々と語りながらもお互いをいつくしみ合うという機軸がいい感じである。


栗田さんって他の女性作家の同タイプの作品と比べて少し健気さが不足している点が逆に魅力なんだろうな。
少しさめた感じで物事を捉えてる部分が垣間見られる所が現代的で、女性からしたら等身大に感じるのかも知れない。

このジャンルって同じぐらいの力を持った方が多いのでなんとかもうひと伸びして欲しいなあと思ったりしている。

読み終わったあと階段を一歩だけだけど登ったような感覚を味わえる作品だ。
このわずか一歩が明日へ繋がるということを肝に銘じたい。


評価7点  
2004年68冊目 (旧作・再読作品16冊目)  




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