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『生まれる森』 島本理生 講談社 - 2004年07月01日(木)

《bk1へ》
島本理生は“5年後10年後にどんな作品を書いているのか?”とっても興味深い作家である。

島本さんの3作目の作品となる本作は芥川賞の候補作にもあがったが、惜しくも賞を逃したので、知名度的には受賞された金原ひとみ綿矢リサには叶わないが、その質感の高さは読んでみた方なら自ずとわかるはずである。

内容的には年齢の高い結婚している男性と付き合って別れ、その後自堕落な生活をしていた女子大生である主人公が人とのふれあいによって自分を取り戻して行くひと夏の物語といったらいいのかな。
とりわけ少女から大人の女性へと変身して行く過程がとってもわかりやすく書かれている点が良い。

女性特有の痛み・悩みから脱皮して成長するひと夏の人とのふれあいを見事に表現している点は若い女性が読まれたら必ず良い“処方箋”となることであろう。


島本さんは現在21歳、現段階での刊行作品3作とも読んでみたが、本作を読んで過去のタイトル名ではないが、リトル・バイ・リトル(徐々に)成長の姿が確かめられる点が嬉しい

もちろん金原ひとみのように大胆さを武器としていない。
ただ安定感というか安心して読める点では一日の長があるような気がしてならない。
個人的な意見だが、長いスパンでは島本さんの方が活躍出来るのではないだろうかと思う。
島本さん自身が本作の主人公のように過去の辛かったことや楽しかったことをバネとして文章も成長して行くのだろうと大いに期待したい。


敢えて難点を書かせていただいたら、文章が読み易過ぎて個性がないとの指摘があっても不思議ではないかもしれないな。
あと本作の内容的にはやはり堕胎を扱ってる割には事の重大性があんまり現れてない点が不自然に感じられる点であろうか。
これは年齢が高い人が読めば読むほど感じる事だと思う。


読後光が見えて元気が出るという点では瀬尾まいこの作風に似てるような気がする。
いや瀬尾まいこをより純粋にした作風といったら良いのかな。

ひたむきで純粋な恋を出来るって若い時の特権であるように思える。
それを味わえただけでも読んだ収穫があったと思いたいな。

今後も島本さんの作品は“素直な気持ち”で読み続けたいなと思う。

評価8点  
2004年64冊目 (新作46冊目)


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