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『長崎乱楽坂』 吉田修一 新潮社 - 2004年06月06日(日)

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史上初の芥川賞&山本周五郎賞のダブル受賞者である吉田修一さんの最新作は掲載雑誌からもわかるように(『新潮』)純文学的な作品である。
舞台は吉田さんの出身地である長崎。デビュー作の『最後の息子』の中にも長崎を舞台とした作品はあったが、長編作品(本作)では初めてのこころみである。

“二刀流作家”吉田さんは本作で強い郷愁感を読者に投げかけてくれた。
たとえば、“子どもの頃の懐かしさ”“故郷をいとおしく思う気持ち”など”・・・
率直な意見としたら彼のより高い才能をもっと開花させるにはエンターテイメント作品の方に力を注いで欲しいのだがそれはまた機会をあらためて述べたいと思う(笑)

描かれてる時代は昭和、やくざの家に生まれた駿は物語のスタート地点ではわずか七才。
まさに栄枯盛衰の一家のありさまを少年の成長とともに描いている。
なんと言っても長崎弁と文体の融合が見事である。

彼の作品の特徴は、エンターテイメント作品では“少しクールな人物像”を描き、純文学作品においては“ひたむきな人物像”を描いている。
個人的には純文学作品によくありがちな、“中途半端な終り方と結局何が言いたかったのか?”と思えても仕方ない部分があるようにも思えるが私なりに推測したいと思う。

本作はミステリー的な要素もある。
ここが他の純文学作家との大きな違いかな・・・
物語を終始支配してるといって良い、“離れの幽霊”の存在である。
はたして誰であったのだろうか?
亡くなった父親?それとも哲治?

途中で長崎を離れたがった主人公・駿が結局故郷を離れずにとどまった点に吉田さんのこだわりを強く感じた。
正直、なんとも不思議な作品であると思う。
一般的な見方で言えば、母親千鶴に対する愛情の変化に着眼して読むのが一番かなと思う。
それが1番の主人公の成長の証しであるから・・・
いろんなことが大人になるにつれてわかって来る過程ってやはり読者も自分の過去と照らし合わせてしまうから不思議なものだ。

吉田さんの代表作のひとつである『パレード』なんかと同様、本作も機会があれば読み返さなくてはと思う。
きっと読めば読むほど味が出てくるのであろう。
本作が魅力的であるか否かを読者に強く委ねているというのははたして曲解であろうか?
吉田さんの“奥の深さ”を強く心に刻めただけでも大きな収穫だったと思いたい。
評価7点。 
 
2004年54冊目 (新作39冊目)


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