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『Separation』 市川たくじ アルファポリス - 2003年09月12日(金)

本作を含めて短期間の間に市川さんの小説を3冊読んだ。
恋愛小説というジャンルを考慮すれば私にとって異例というか異変である(笑)
山本文緒以来になるだろう。

両方読まれた方ならお分かりだと思うが、山本文緒と市川拓司の小説は180度違ってくる。
前者が“リアルさ”を売り物としていて、後者は“ピュアさ”を売り物としている。
まさにピュアな恋愛小説に“酩酊”すると言った感じである。

3作品読んでちょっと総括的な話となりますが、市川さんってとっても繊細さが売り物だと思う。
繊細だけど計算しつくされてないので読者には受け入れやすいのでしょうね。

本作は2編とも悟と裕子が登場する。
設定は違うがそれぞれ切ない話となっているが、執筆された順から考慮して後編の「VOICE」から先に読んだ方がベターかもしれません。

表題作の「Separation −きみが還る場所」は平凡に暮らしていた夫婦の妻の方がある日突然身体が若返って行く変化を描いた作品である。
バードマン牧師の話が物語のキーポイントとなっているが、基本的には愛し愛されることの素晴らしさを読者に再認識させてくれるストーリーである。

後編の「VOICE」は逆にうまく結び合えなかった2人がとっても印象的な作品となっていて、印象度はこちらの方が高いかもしれません。(好き好きでしょうが・・・)
こちらは“恋愛は結果じゃなくって過程なんだよ”と教えてくれる秀作であるが読み手によってはもどかしく感じるかもしれません。

どちらも同じ名前の登場人物を起用してSF的要素のある作品である。
同じように切ないが話の内容は全く別物である。
2つの甲乙つけがたい作品を書く筆力は凄いのひと言に尽きる。
恋愛中の方には表題作の方がいいかもしれないが、そうでない方は後編の方がいいかもしれません。
昔の恋人などの楽しくて切ない記憶を呼び起こしてくれる作品だと確信しております。

市川さんの作品に男の本音や女の本音を求めても無理な話だ。
それは他の作家に任せたら良い。
彼に求めるのはそれぞれ(男女)のいい部分を最大限に描写してもらいたい。

市川さんの読者ってそれを十分に堪能して“なおかつ余韻を楽しもうとする贅沢な読者”なんだと確信した。

評価8点


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