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2006年01月09日(月) ぼくのじてんしゃのうしろにのりなよ (べかみ)

「ギリギリ、間に合った…かな」
 ブレーキを握ると、古い自転車はキィと掠れた悲鳴をあげて止まった。気温はまだ低いが、全速力で漕いできたため、額は汗ばんでいる。袖で軽くぬぐって、神尾は自転車から降りた。目の前にそびえる立派な門には、これまた豪華な表札がかかっている。「跡部」という文字を横目で見つつ、神尾は自転車を停める場所を捜し始めた。
「このへんに勝手にとめたら、怒られるかな…」
「当たり前だろ、バーカ」
「わっ」
 背後からの突然の声に、神尾は文字どおり飛び上がった。存外に怖がりな神尾は、よく友人達にからかわれる。振り返った先には、この家の主、跡部が軽く腕組みして立っていた。
「遅いぞ、神尾」
「なんだよ、時間通りじゃん」
「俺様との約束だぜ?最低でも十分前に来るのが当然だ」
「あっ…そ」
 跡部のこの尊大な態度はどうかと常々思うのだが、自分がどうこう言ったところで変わるわけではないことを、神尾はよく理解していた。正確には理解「させられた」のだが、最近では大分慣れてきた。それはそれで悔しいが、相手が跡部ではどうしようもない。
「とりあえず、どっかにチャリ置かせてくれよ」
「チャリ?」
「だから、これ、自転車」
 今日は、跡部の家で映画を観ることになっていた。跡部家のリビングには、大型の液晶テレビと高価なサラウンドシステムが完備されていて、ちょっとした映画館並みである。跡部と親しくなってから、二人で会う場所は跡部の家が多い。うっかり外で知り合いに会って、詮索されては返事に困るというのもあるが、手っ取り早く二人きりになれるという直接的な理由が主だ。
 いつもは歩いて来るのだが、今日は少し寝坊をしたため、自転車をとばして来たのである。
「ふーん。それはお前のか」
「?そうだよ」
「…」
 跡部は、その使いこまれた自転車をしげしげと眺めたきり、何も言わない。
「何だよ」
「どうやって乗るんだ?自転車って」
「…からかってんのか?」
 普段から、何かにつけて跡部にからかれたり虐められている(と、神尾は思っているのだが、跡部に言わせると被害妄想という事らしい)ため、神尾はムッとしてわずかに上にある跡部の顔を見上げた。ところが、跡部の方は珍しく真剣な面持ちである。
「からかってねえよ。本当に乗ったことがないんだ。だから珍しくてな」
「…嘘だろ…」
「俺様が、そんな庶民的な物を使うわけねえだろ。移動は大体車だし、必要無いからな」
 たしかに跡部家のガレージには、いつ来ても少なくとも二台は車が停まっている。それも、アルファロメオだのポルシェだのといった、高級車ばかりである。しかも、神尾がここに来るようになってからの数カ月の間に、買い替えた節さえあった(神尾は外国の高級車に詳しくないので、はっきりとはわからなかったが)。
「でもさ、ちょっと友達と出かける時とか、不便じゃねえの?」
「残念だが、俺の辞書に不便って言葉はねえ」
「はあ…お前って、ホント非常識なやつだよな…」
 呆れ返っている神尾と、自転車を交互に見ていた跡部は、やがて何かを思いついたように小さく頷いた。 
「…気が変わった。神尾、今日はそいつでどこか行こうぜ。天気もいいしな」
「えっ?だって跡部はチャリ持ってないんじゃ…」
「だから、ここにあるだろ。お誂え向きに、運転手つきでな」
「運転手…。って、俺かよ!」
「他に誰がいるんだ、アーン?」
「あのなー…」
「少し待ってろ、準備してくる」
「おい!人の話聞けよ!」
 神尾の言葉が終わらないうちに、玄関に向かって歩き出した跡部は、振り返りもせずに屋内へと姿を消した。



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メモ
あとべまつりの勢いで、急に思いついたネタ。
タイトルは某バントの曲名そのまま。

あとべたまの家の車…!無駄にわくわく
メルセデスとかBMWよりもっとこう…
流線形の車の方が似合いそうな気がする。
それこそコルベットのコンバーチブル(白)に乗って
手塚を迎えに来てくれないものか。花形もびっくり。
でもアメ車ってかんじじゃないか…


hidali