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2003年12月13日(土) よるのパレード・4

「日本人って並ぶの好きだよね…」
 二人が最初の目的地に着くと、アトラクションの前にはすでに長い列が出来ていた。菊丸なら「いつもはもっと混んでいる」とでも言うかもしれないが、リョーマにとっては信じられない長さの列だ。
「お前だって日本人だろう」
「そういう意味でなくて」
 対する手塚は、文句をこぼすでもなく黙々と列に従って動いている。改めて二人きりでこうしていると、会話が面白いほど続かない。手塚もリョーマも、お世辞にも雄弁とは言えないし、だからある程度予想はしていたが、わざわざこんなところまで来て黙っているのもどうかという気がする。
 尤も、手塚はと言えば園内の様子を見ているだけでもそれなりに時間が潰せるらしく、時折あたりを見回しては、一体何を納得しているのか、小さく頷いていた。
(部長、俺とこんなトコにいて楽しいのかな)
 もともと菊丸に誘われたのだから、手塚にしても四人で行動するつもりでいたに違いない。大石達がいれば話す事もあっただろうが、リョーマと二人きりではそうもいかない。リョーマは手塚といるだけでももちろん楽しい。けれど、手塚はどうだろうか…。
「越前」
 リョーマがあれこれと考えていると、突然手塚がリョーマの方を向いた。
「あ、何?」
「お前…大丈夫か?」
「何が?」
「ジェットコースター」
 一瞬、手塚の質問の意を汲みかねたリョーマは、しかしすぐに思い至って軽く口を尖らせた。
「馬鹿にしてんの?こんなとこのジェットコースターなんか全然平気ッス。絶叫マシーン好きだし…」
「いや、そうじゃない、あれだ」
「…アレ?」
 手塚が指差した先には、白い看板が立っている。リョーマは軽く目を細めると、看板の文字を声に出して読んだ。

『…〜など、ご気分のすぐれない方は御遠慮下さい。また、身長が130センチ以下の方は御乗車になれませんので…』

「…。俺、どこも悪くないけど」
「その次だ」
「それって、もちろん冗談だよね?」
「何がだ」
「いくら俺が小さいからって!130センチ以下のわけないじゃん!」
「そうか?だが、一応測ってみた方がいい。看板に目盛りがついているし」
「ちょ、ちょっと!」
 手塚は嫌がるリョーマの頭を押さえ付けるようにして看板の前に立たせると、真剣な面持ちで看板に書かれた目盛りと比べた。後方に並んでいたカップルが忍び笑いを漏らすのが聞こえ、リョーマはそちらを睨んだが、手塚はまるで気にしていない。それどころか、大真面目に頷いて見せた。
「大丈夫のようだな」
「さっきからそう言ってるっすよ!」
「そうか、すまん」
 まるですまなそうに聞こえない口調で手塚は謝り、軽くリョーマの頭に手を乗せた。
「やっぱり馬鹿にしてる…」
――ていうか、子供扱いだよな――
 どんな状況であれ、手塚に触れられれば嬉しいのは確かだが、ここまであからさまな子供扱いではそうも言っていられない。
 何か文句のひとつでも、と開きかけたリョーマの口は、だが中途半端な形で止まってしまった。
 リョーマを見下ろしている手塚の顔が、穏やかに笑んでいたからだ。
「―っ!」
(これで無意識なんだから、タチ悪い…)
 おそらく赤くなっているだろう顔を見られないように、軽く俯いて視線を地面に向ける。こんな風に不意打ちをされると嬉しいには違いないのだが、少し悔しい気もした。
(そのうち、アンタの方が俺を意識するようにしてやる)
「…ところで部長」
「何だ」
「そろそろやめてほしいんだけど…」
「ああ」
 何が気に入ったのか、ずっとわしわしとリョーマの頭を撫でていた手塚は、そこでやっと手を下ろしてくれた。もったいない気もしたが、いつまでも頭を撫でられているのも格好がつかない。
「縮んだらどうすんの」
「ひっぱってやろうか」
「…」
 ホントにタチ悪い、と呟いたリョーマの目の前で、列がゆっくりと動きだす。二人はその流れに沿って白い建物の中に吸い込まれた。


hidali