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2003年11月19日(水) よるのパレード/3

 アーチ上の入り口を抜けると、そこは両側にショップの立ち並ぶアーケードになっていた。まだクリスマスまで一ヶ月もあるというのに、通路の中央に巨大なクリスマスツリーが飾られており、眩い光を放っている。
 二人は華やかに彩られたショップのウィンドウを眺めながらそぞろ歩いていたが、中央あたりへきたところで手塚がぴたりと足を止めた。
 もしやまたきぐるみか、とリョーマが手塚の視線を追うと、そこにはきぐるみではなく、色とりどりの風船を持った女性がにこやかに立っていた。時折、子供連れやカップルがその風船を買ってゆく。
「部長…まさかとは思うけど、風船欲しいの…?」
「いや」
 よかった、とリョーマは内心ほっとしたが、なおも手塚は風船を持った女性を凝視している。
「あの人がどうかした?」
「あれだけたくさん風船を持っていると、見事だと思わないか」
「……まあ、ね…」
「俺もちょっと持ってみたいな」
 リョーマは冗談だと思いたかったが、手塚の目は真剣だった。放っておくと本当に風船を持たせてほしいと頼みにいってしまいかねない雰囲気である。
「な、何言ってるんですか!」
「駄目か」
「駄目に決まってるでしょ!売り物なんだから」
「そうだな」
 やや残念そうに手塚は頷き、再び歩き始めた。諦めてくれて安心もしたが、風船を持っている手塚の姿もちょっと見てみたかったと、一瞬リョーマは思った。が、すぐにその恐ろしい想像を頭の外へと追い出す。今は、余計な苦労を買う必要は無いはずだった。


 アーケードを抜けると、突然視界が開け、手塚は眩しそうに少し目を細めた。遠く、正面には西洋のおとぎ話に出て来るような城が見える。
「なんだ、中はそんなに混んでないんじゃん」
 いくらか拍子抜けしたように、リョーマは呟く。入場口付近の様子から、もっと混雑している事を予想していたのである。それだけ敷地が広いのだろうと、その点に関してはリョーマも素直に感心した。
 手塚もまさかこれほど広いとは思っていなかったらしく、足を止めて再び案内図を広げ始める。
「越前、お前どこに行きたい」
「んー…やっぱジェットコースターかな」
「よし」
 とりあえず、現在地から一番近いジェットコースターへと二人は歩き出した。
「ねえ、ここ抜けた方が近いんじゃないの」
 案内図をざっと見て大体の構造を頭に入れたリョーマは、途中土産物などを売っているショップを通り抜けようと、手塚を促した。店内は、キャラクターグッズが所狭しと並べられており、女性客が歓声をあげながらぬいぐるみなどを手にとっている。
 リョーマは特別に興味をしめさず前だけを見てスタスタと歩いていたが、ふと気がつくと隣から手塚が忽然と消えている。
「あれ、部長?」
 慌てて振り返り、リョーマはぎょっとした。手塚が、レジ横の棚の前で一点を凝視して立ち止まっている。
「部長、今度はどうしたの!」
「見ろ、越前」
 手塚が喜々として(と言っても、知らない人が見れば限り無く仏頂面に近いのだろうが)手に持っているそれは、水色と白の二色がねじられた、棒付きキャンディだった。
「げっ…」
「すごいな…こういうものは、映画や漫画にしかないのかと…」
 ひどく感心したように、手塚はしげしげとキャンディを眺めている。近くにいた女性客が「ちょっと見て、あの人可愛い〜」と笑いあっているのが聞こえ、リョーマは一刻も早くこの場を逃げ出したい気持ちでいっぱいだった。が、手塚はまだキャンディに気を取られている。
「あーっもう!」
 業を煮やして、リョーマはツカツカと手塚の傍らによると、その手からキャンディをひったくり、そのまま目の前のレジへ出した。
「これ下さい」
「350円になります」
 二人のやりとりを見ていたはずの女性店員は、しかし完璧な営業スマイルで対応した。袋に入れようとするのを断り、リョーマは傍らに突っ立っている手塚の眼前に、キャンディをそのまま差し出した。
「ハイ」
「何だ」
「アメなら、俺がいくらでも買ってあげるから」
「…から?」
「知らない人に、ついて行ったりしちゃ駄目っすよ?」
 背後からひときわ高い笑い声が聞こえた。レジの女性店員も堪え切れずに目を伏せている。手塚は憮然として、キャンディを受け取った。
「…わかった」
 

「…部長…」
「何だ」
「ごめん…俺が悪かったっす…だから…」
「…」
 ジェットコースターへの道程を並んで歩く二人に、すれ違う人がちらちらと視線をよこす。リョーマは俯いて手塚に懇願した。
「頼むから、アメはしまって下さい!」
 手塚は、ショップで渡されたアメを、胸の前に掲げるようにしてずっと持って歩いているのである。
「…嫌だ」
「もう、さっきからさんざん謝ってるじゃないすか!いい加減拗ねるのやめてよ」
「拗ねてない。ただ持って歩きたいだけだ。せっかく越前にもらったものだしな」
「部長〜…」
 手塚はフンと顔を背けると構わずにそのまま歩き続け、ジェットコースターの前に着くまで、リョーマは周囲の視線に耐え続けなければならなかった。
 
 
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ちなみに、風船は実際に頼んだ事があります。
うまく躱されました。


hidali