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2003年11月10日(月) よるのパレード/1

 一年二組の教室に珍しい訪問者がやってきたのは、秋も深まった十一月初旬のある昼休みだった。
「おっちびー、いるかー?」
 ガラリと教室の扉を行儀悪く足で開け、驚く生徒達を後目にずかずかと教室に入ってきたのは菊丸だった。
「菊丸先輩」
「よっ!へえー、おチビの席こんな後ろなんだ。黒板見えんの?」
「…余計なお世話っすよ」
 ムッとするリョーマを気にも留めず、菊丸はリョーマの前の席にどっかと腰を下ろした。
「なんか用っすか」
「久しぶりに会ったっていうのに冷たいにゃ〜」
「昨日、学食で会ったでしょ」
「はりゃー、そうだっけ?まあいいや、ところでおチビさ、来週の土曜日ヒマ?」
「土曜日…?」
 突然の事にリョーマはきょとんとした顔をしたが、菊丸はなおも話を続けた。
「第三だから、テニス部の練習ないよな?」
「はあ、まあ…。特に予定はないですけど。でも、なんで?」
 菊丸はリョーマの机に頬杖をつき、満面の笑みを浮かべて、リョーマの顔を見た。
「よーし、じゃあ決まり。来週の土曜日、おチビは俺達と遊園地に行く!」
「はあっ?何ソレ!」
 驚くリョーマの眼前に、チケットらしきものが勢いよく差し出された。パステルカラーのかわいらしいそれには、誰もが知っている有名なテーマパークの名前が入っている。チケットをひらひらと振ってみせながら、菊丸はその大きな目を丸くした。
「あれ、まさかおチビ知らないの?アメリカにもあるだろ」
「知ってますけど、俺が言いたいのはそこじゃなくって」
「チケットの金はいらないよん、俺の父さんが会社からもらってきたやつだから」
「だーかーらー!何で俺が、菊丸先輩と遊園地に行かないといけないんですか!」
 噛み合わない会話に、リョーマがどん、と両手の拳で机を叩いた。その音に、周囲のクラスメイトがびくっと反応する。極普通の中学一年生にとって、三年生はただ三年であるというだけでも近付き難い存在であるものなので、リョーマの不遜な態度に恐々としている。もちろんリョーマは、そんな事を気にした事は一度たりともなかったが。
「なんだよー、俺とじゃ不満?」
「そういうわけじゃ…。でもどうせ誘うなら不二先輩とか、大石先輩とか」
「ああ、もちろん大石も行くよ。チケット四枚あるから。不二にも声かけたんだけどさー、その日は家族で食事に行くから…ってふられちゃったんだよん」
 弟君相手じゃ俺に勝ち目はないよなーと軽快に笑う菊丸とは反対に、リョーマの表情はますます訝しげになった。菊丸の笑顔の裏に、何かが隠されているような気がしてならないのである。
「どうすんの、行くの、行かないの?」
「…」
「まあ、嫌なら無理にとは言わないけどな。あーあ残念だにゃー、せっかく…」
 いくらかわざとらしい調子で言うと、菊丸は一度言葉を切って、いかにも思い出したというようにつけたした。
「…手塚も行くのにぃ〜」
「…えっ?」
(部長が、遊園地…)
 似合わねえ!とリョーマは心の中だけで叫んだが、どうやら顔に出てしまったらしい。固まっているリョーマを見て菊丸は苦笑したが、それについては追求しなかった。
「だから、四枚あるって言ったじゃん?手塚に声かけたら行った事ないって言うし、せっかくだからここらでデビュー!て思ってサ」
 菊丸はその時の手塚の様子を微に入り細に入り喋り続けたが、テーマパークに佇む手塚の姿を思い描いていたリョーマの耳には、ほとんど入ってこなかった。
「…で、おチビも手塚と卒業前につもる話もあんじゃないかなあ、って思ったんだけど。仕方ない、残念だけど誰か別の…」
「ちょ、ちょっと待って!」
 大袈裟な動作で椅子から立ち上がり、そのまま教室を出て行こうとする菊丸の学生服のすそを、リョーマは両手でがっちりと掴んだ。その手を見下ろして、菊丸はニヤリと人の悪い笑みを浮かべる。
「んー?にゃにー?」
 思わずとった行動をリョーマは後悔したが、もう遅い。ここまできたら負けを認める以外になかった。
「だ、誰も行かないなんて言ってないし」
「じゃあ行く?」
「…行く」
 へへっと勝ち誇ったように菊丸は笑うと、リョーマの頭にポンとチケットを乗せた。
「よーし、んじゃ土曜日、駅で集合な。遅刻すんなよ、手塚に怒られんぞ」
 ひらひらと手を振りながら教室を出て行く菊丸の背中を見送って、リョーマは改めて手の中に残されたチケットを見つめた。どうもうまくのせられた気がしないでもないが、それでもリョーマの胸は高鳴った。
(部長に会うの、久しぶりだな…)
 
 その日の部活は、リョーマは練習に身が入らずイージーミスを連発して、竜崎に散々怒られた。

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久しぶりに書いたと思ったら…
あ、「遊園地」は誰もが知っててアメリカにもあるアレですが
名前は出せないので(笑)、脳内で変換して読んで下さい。


hidali