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「何探してるの」 「いや…プリンを」 「誰かに、プレゼントで?」 「越前に…って、え?」
自分の世界に入っていた手塚は相手も確認せず思わず返事をしてしまい、我に返って振り返り、声の主を確認してあやうく飛び上がりかけた。
「い…乾!」 「やあ」
声の主は、乾だった。
「卒業式以来だね」 「あ、ああ。お前、こんなところで何を」 「何をって、俺がケーキ屋にいたら変かな」 「変というか、その」 「俺だってケーキくらい食べるよ」 「そうか」 「ま、もっとも今日は手塚が見えたからさ。珍しいなと思って」 「…」 「ただ、手塚がケースに貼り付いてると営業妨害じゃないかな。他の客が近寄り難い」 「そうか、気をつける」 「別に気をつけなくてもいいけどね…ところで」
乾は一瞬視線を手塚からガラスケースにうつしたが、再び手塚の顔を見て、聞いた。
「越前にプリンって何?ホワイトデーだから?」 「ち、違う!」
その声の大きさに店員と他の客が一斉にこちらを見た。女性客がいかにも微笑ましいといった様子で二人を見ていて、手塚は顔が熱くなるのを感じた。もっとも、彼女は「越前」を女生徒だと思っているに違いない。
「そんな大きな声出さなくっても。冗談だよ」 「言っていい冗談と悪い冗談が…」 手塚の様子を観察しながら、乾は内心「手塚でもこういう事でからかわれると焦るんだな」とかなり失礼な事を考えていたのだが、もちろん手塚にはわからなかった。冷静な乾と反対に、手塚は落ち着かない様子で、さらに聞かれてもいないのにやや弁解がましく言った。
「ちょっと色々あって…。借り、というか…。今日なのは、たまたまだ」 「ふうん。お礼に、ってこと?」 「…そうだ」 「越前ってプリン好きなの?」 「本人に、そう言われたんだ」 「へえ。それは知らなかったな」
話の方向が少しそれたことに安堵して、手塚は再びガラスケースへ目をやった。
「じゃあそんなにじっと見てないで買えば?」 「それはそうなんだが…でも、本当にこれでいいのかと思って…」 「ああ」
手塚の言わんとすることを乾は了解したらしかった。
「まあ、確かにプリンのイメージからは離れているかもしれないけど、ここのプリンは厳選した卵が使われていて味も濃厚だし、今苺も旬だから、悪くないんじゃないかな」 「……そ、そうなのか」 「ただ、カラメルが少し甘過ぎるかもしれないな。あとは、向こうの通りにある店のプリンもなかなかおいしい。少し値段が張るのが難点だが」 「詳しいな、乾」
乾の言ったことの半分も分からない手塚は、ただ心底感心したという顔で、乾を見た。
「ああそうだ、迷ってるなら駅前にプリンの店があるよ。行ってみるかい」 「プリンの店?」 「結構種類もあるし、値段も手ごろだよ」 「…行ってみる」 「じゃ、行こう」 いつのまにやら乗せられていることに気がつかないまま、手塚は乾と店を出た。駅前ではホワイトデーのため様々な洋菓子屋が臨時で店を出しており、スーツ姿のサラリーマンや学生らしき男性客でそこそこ賑わっていた。それを横目で眺めつつ、二人は目指すプリンの店に辿り着いた。
「これ、みんなプリンなのか」 「そうだよ」 「色々あるんだな…」
明るく照らされたガラスケースの中には、様々なプリンが所狭しと並べられていた。黒ごま、マンゴーなど、プリンと言えば卵しか知らない手塚は目を見張ってそれらを眺めていた。乾は興味深げにしばらくその様子を観察していたが、やがてひとつのプリンを指差して、言った。
「越前にあげるなら、コレなんかどうかと思ってさ」 「ああ…」
手塚は目を細めてその指先にあるカードの文字を読むと、一度顔をあげて乾を見た。そしてわずかに笑みを浮かべ、頷いた。
「そう、だな。これにしよう」 「ね」 「じゃあこれをふたつ……あ」 「どうしたの?」
店員に声をかけようとして突然動きを止めた手塚を、乾は訝しげに見た。
(続く)
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ここだけ読むと全然リョ塚じゃないにゃん(にゃんじゃねえ)
hidali
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