さくら猫&光にゃん氏の『にゃん氏物語』
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2003年09月18日(木) にゃん氏物語 葵03

光にゃん氏訳 源氏物語 葵03

朝遅く陽が高くなってから それほど特別な支度もしないで出かけた
車は混み合う中 左大臣家の車は連なって どこへ見物の場所を
取ろうか迷うばかりである
身分の高い女車が多く止まっていて 下々の者の少ない場所を選び
じゃまになる車は除けさせた

そのような中で外見は網代車の少し使い古したものにすぎないが
御簾の下の様子は趣味がよく上品で ずっと奧のほうに乗った人々の
わずかに洩れて見える 袖口 服装の色合い 童女の上着の汗衫
わざと目立たないようにして貴女と思わせる車が二台あった

「この車は他と違います 除けさせられる車ではない」
と言い その車は手を触れさせない どちらの側も若い従者がいて
祭りの酒に酔って気が立ち 争っているので誰も止められない
前駆の大臣家の老家従など 「そんなことするな」と言っても
とても止められるものじゃない

斎宮の母君の御息所が 物思いの気晴らしに こっそり出かけた
物見車である 素知らぬ顔でも左大臣家の者は皆 自然と分かった

「それくらいの者に そんなにいばらせないぞ」
「大将殿を 笠にきているつもりなのだろう」
などというのを聞き 源氏の供人も混じっているだろうから
気の毒に思いながら 仲裁するのも面倒なので 素知らぬ顔をした

とうとう 前のほうに大臣家の車を立て並べられ 御息所の車は
葵夫人の女房が乗った車の奧の方に押しこまれ 何も見えない

御息所はそれを残念に思うより こんな忍び姿を自分と知られて
罵られているのが ひどく悔しい
車のながえを据える台も 脚は皆 折られてしまい 他の車の胴へ
場違いに 先を引きかけて中心を保たせているので体裁が悪い

どうして こんな所に出かけてきたのだろうと 御息所は思うが
いまさらどうしようもない 見物を止めて帰ろうとするも
他の車を避けて出ていく隙間もない そんなうちに

「見えてきたぞ」と言う声がした

それを聞くと 恨めしい人の姿が待たれる 恋する人の弱さである
源氏は御息所の来ていることは知らない 振り返って見る事もない
前から評判があったので女達は 趣向を凝らした物見車に乗りこんで
素知らぬ顔でいながらも 源氏の好奇心を惹くように見せている
源氏が微笑みながら流し目で目を止める所は恋人達の車があるようだ

左大臣家の車は一目で分かる ここは源氏も真面目な顔をして通る
行列の中の源氏の従者が この一団の車に敬意を表して通った

御息所は無視されていて このことによっても堪らなく思った

影をのみみたらし川のつれなさに身のうきほどぞいとど知らるる
ちらっとだけ清らかな姿を見ただけで そのつれなさにかえって
我が身の不幸が いっそう思い知らされます


さくら猫にゃん 今日のはどう?

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