ジンジャーエール湖畔・於
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台風がきている
ちょーたのしい!!!
たくさんの洗濯物を抱え傘をさして玄関に立ちつくす
(洗濯機は外にある)
真夜中の洗濯とはなんて近所迷惑なキチガイ行為なのかとおもうけど、こんなに雨が激しく降っているのだからこちらの騒音はもはや上書きされるしかない
柔軟剤入りの洗剤をスプーンですくう腕が横なぐりの雨に濡らされて
傘をさすことにもう意味なんてないことに気がついた
なまあたたかい風に背中おされて見守った
洗剤。そのひと粒ひと粒がやたらはっきりとスローモーションで反射しながら洗濯物のうえに優しく降りる、チラチラ
とっても静かなこの世の時間
スタートボタンが押されると
〈ノアの箱舟クリーニン号〉と命名されたかつて電化製品だった友人がうなりをあげて青天の霹靂をめざして航海にでるのです
ハローキティのハンカチ
HELP!と書かれたビッグTシャツ
紺色のタンクトップ
チェックの枕カバー
バルーン形のスカート
しましまのくつ下
おおきなバスタオル
区民プール用の競泳水着
タオル大小各種
パイル地のパーカー
買い物トートバック
a n d m o r e …
スカイブルーの小窓からのぞくと
わたしたった一人に帰属するそれらのものたちはすでに洪水のなかにクルクルしてる
ピンクの靴下と水色のブラジャーひねくれあってねじりあって踊ってた
ジャブジャブ!グルグル!ゴーゴーゴー!
窓から目を離すと現実のわたしはびしょぬれで
さかさになった傘は2メートル先に転がっている
〈ノアの箱舟クリーニン号〉の中の洪水とその世界の外であるここにどんな違いがあるのだろうか(いやない)
上も下も関係ない
右も左も 天と地も 大人も子供も 男も女も
もうあまり関係がない というか分けられていることがどうでもよくなる
わたしがわたしであることをうまく思い出せない
全身ずぶぬれで 台風のなかに立っている
ただそこに居るということ以外はなにもわからない
息してるということしか感じられない
廊下は水に沈み階段は滝となり
スプラッシュマウンテンの豪胆な魂のようです
世界はいま
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