ジンジャーエール湖畔・於
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2002年05月12日(日) 謎が謎よぶ恋の薔薇薔薇殺人事件

デパ地下のケーキ屋のショウケースに不気味な、いかんともしがたい
グロテステスクなケーキを発見。
平和な日曜日に。それもよりによって母の日に。
まさに各家庭で感動的な思い出が生み出されるであろうそんなよき日に、
家族や恋人たちでごった返しているデパートの地下、
人を幸せな気分にさせる属性をもつ甘い物が色とりどりに個性を競い合う
洋菓子売り場、それはひっそりと佇んでいた。
テラテラと光る赤い液体をしたたらせ、
タルトの上にちょこんとご鎮座ましましている。
あの皺の寄り具合、ふっくらとした白子のような質感、
上にかけられた鮮血のような真っ赤な液体。
まるで・・・
まるで脳味噌ではないか!

脳味噌ケーキ。いや、脳味噌タルト。
おい、そこのなめらかプリンを買い占めているお嬢さんよ。
君は脳味噌がタルトの上にのせられて洋菓子として売られている
というこの恐るべき事実に気づいているのか?・・・いないのか?
ちょっと、そこの奥さん。
RF−1でサーモンとカマンベールチーズのマリネなんて買っている場合
ではないぞ!おいっ、聞いているのかね、キミ、ちょっと!!
  これは一体・・・
人々は皆、こんなケーキの存在に無頓着だ。
で、一体だれの脳味噌なのだね?板さん。
問うたところ板さんビックリ仰天。
「あっしは無罪でごぜえます。ただのパテシエでごぜぇますよ、旦那」
ふむ。パテシエというのは随分聞き慣れない言葉である。
そんな言葉を持ち出してとぼけてみせている。
完全に私を愚弄しているのだな。
しかし、私にはわかっている。江戸川乱歩を愛読していたお陰だ。
乱歩の小説ではしばしば、白昼堂々大衆の目前で凶行が行なわれる。
それは人体切断ショーの見世物小屋であったり、累々とつらなった
死体や殺人現場を模した悪趣味な鑞人形館だったり。
そういった残酷を売り物とした虚構が演出された場面では、
どんなにむごたらしい事が起ころうとも、人はそれを現実世界の出来事と
考えづらい。
人体切断ショーで本当に人間が胴体を切断されようとも、
鑞人形館に苦痛に顔をゆがめた死体の人形のなかに本物の死体が紛れていようとも、残酷を演出された虚構の世界ではそこによもや現実世界のものが
闖入していようとは考えまい。

今回の脳味噌ケーキもそれと同じ手法であるに違いない。
脳味噌がデコレートされたお菓子なんてあるわけがない。
そういう人々の盲点をついた犯行なのだ。

『名探偵は二度死ぬ』

かくして暴かれた脳味噌ケーキの犯罪。
しかし、弘法も筆の誤り。
それゆえ、河童の川流れ。
されど、猿も木から落ちる。
しかるに、豚もおだてりゃ木に登る。
(仲間はずれを探せ!)

彼が信じた脳味噌ケーキの謎、意を決した小林少女の試食により
ただのムースであったことが発覚。
板さん曰く、
「これは、あっしが考えました母の日にちなんで
カーネーションをかたちどったものでござんす。
えっへへ、すこーし不格好になってしめぇましたがね。」
これには、さすがの名探偵もカックン。
広げた大風呂敷畳むに恥ずかしいやらなにやら。
今までの数々の功績を生み出してきた名探偵も今回ばかりは勇み足。
完全なる敗北であります。
「いかん、怪人二十一面相との約束が・・・」
とそしらぬ顔で小林少女を引き連れて足早に去ってゆきましたとさ。
その後の名探偵はといえば、
神楽坂の自宅からバスに乗って飯田橋のハローワークへ
通う日々だとかなんとか。
いずれにしても、小説は事実よりもベージュ(生成=奇なり)であります。

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本当にあたしゃ見たんだよ、あんた。
こんなへんなグロテスクケーキを。
それでこんな空想。
まったく陳腐な発想で相済みません。
私の脳味噌こそ、カーネーションなんじゃないだろか。
プンプン!!


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