KENの日記
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2018年03月21日(水) 忘れられた巨人



図書館貸出を長らく待っていた「忘れられた巨人」の順番が到来し、ハヤカワ文庫版を借りて昨年のノーベル文学賞作家の作品を読むことができました。どちらかというと新しい作品を追うよりも少しずつでも「古典」を読む方に力点をおいているのですが、今回は長崎出身の「カズオ・イシグロ」がどのような小説を書いているのか興味が沸き作品を読んでみました。

「民族や国家にとっての歴史という公的な「記憶」に関する」ストーリーと、そのストーリーを辿っていく「アクセルとベアトリス老夫婦の私的な記憶」が延々と扱われていきます。民族・国家の記憶は「恨みの気持ち」が「復讐」の連鎖を惹起し何時までも平和が訪れません。私的な記憶は「不義への恨み」が嫉妬・誹りの感情を何時までも「棘」のように残り続けます。解決の手段はありません。物語では「クエリグの霧」が記憶を消してくれます。文学だからこそできる解決方法です。しかし「クエリグ」が倒された後に起こると想定される民族・国家間に復讐の連鎖は物語に描かれません。記憶を取り戻した老夫婦の方はクールに別の道を歩んでいくことにあります。

公的にも私的にも「記憶」が消されているので、「物語」は過去の経緯が分からないまま結末(クエリグ退治)に向かってどんどん進みます。ナレーターが過去の歴史を知っているのか、知らないのか、知っていて隠しているのか「読者」は「座り心地が悪いまま」物語を辿るしかありません。最後の章ではナレーターが登場人物の「船頭」に唐突に代わります。そして居心地が悪いまま物語は終了します。読み終わって爽快感がそれほど無いです。ハヤカワ文庫のが普通の文庫より縦長で、我が家にある市販のブックカバーに入らないのは何とかして欲しかったです。




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