Miyuki's Grimoire
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2005年04月20日(水) フェスティバル・エキスプレス

ドキュメンタリー映画『フェスティバル・エキスプレス』を観に行った。ninoさんのダイヤリーにも書いてあったけれど、『フェスティバル・エキスプレス』というのは1970年のミュージック・フェスティバルの名前で、当時人気のあったいくつものバンドが列車を借り切って東から西へカナダを横断しながら町から町へコンサートを行なったもので、その時の様子を収めたフィルムがつい最近発見されて映画化となった。冒頭にグレイトフル・デッドの「ケーシージョーンズ」がかかっていて、すぐにコンサートの様子が映し出されるが、ライブの映像は全体の半分くらいで、そのほかは列車のなかでのミュージシャン達のジャムセッションや裏方の様子、当時を振り返る関係者のインタビューなどで構成されている。見ているだけで、その当時の空気をじかに感じ、それぞれのミュージシャン達がいかに希望に燃えて、パッションを持っていたかを知ることができる。

80年代、90年代と、夏になるとアメリカやイギリスではたくさんのミュージック・フェスティバルが行なわれ、ビッグネームが名を連ねる豪華キャストのコンサートをよく観に行った。どれも広大な野外の会場で、観客動員が5万から時には10万人を超すような規模のものもあった。当時はそうしたコンサートはウッドストックが原点だと思っていたけれど、『フェスティバル・エキスプレス』を観て、わたしが観て来たもののエッセンスはこれだったんじゃないかと思えた。ツアーが長くなると、ミュージシャン達はたいてい家が恋しいと言う。彼らも人間だから、時には良い演奏が出来ないときもある。裏では人を避けて疲れた顔をしていることもあった。ビッグになればなるほど、自分の名前と自分自身とのギャップにストレスを感じ、音楽を楽しむことを忘れてしまうミュージシャンも多かった。

そんななかでわたしが大好きだったのは、悩みながらもいつも音楽については純粋なパッションを語ることができる人だった。音楽は音そのものの中に、それを演奏している人の人生が表れる。わたしは常に、音のなかにその人のパッションを感じ取ろうとしていた。けれど、本当に音のなかのパッションに感動できることは正直言って少なかった。『フェスティバル・エキスプレス』の、輝くような音楽への喜びのエッセンスと比べたら、90年代のコンサートは同じものを求めながらもずいぶんと商業的かつお約束的になり、一部のミュージシャンを除いては、ちっともパッションなんか感じられなかったように思ってしまう。90年代後半に入って、わたしは音楽の仕事に対してある種の疲れを感じ、音楽に関してなにかを語ることができなくなっている自分に気づいた。とても空虚感を感じていた。

それにしても、70年代というのは、なんて純粋で、熱い時代だったんだろう。どんな時でも音楽がある限りミュージシャン達は心から幸せで、心から楽しみ、自由で、そして音楽に感動していた。リアルタイムでは経験していないけれど、この映画を観ると、本当にいい時代だったな、と思う。

ジェリー・ガルシアはまだ28歳で、すでにものすごいカリスマ性を放っている。観客の間に暴動が起きても、彼がステージに上がって一言呼びかけるだけで、ピタッと空気が静まってしまう。ジャニス・ジョプリンも27歳で、酒もタバコもガンガンだけど、その笑顔は本当に天使のように天真爛漫で、可愛くて、歌い出せば世界が震えるような愛を滲み出させる。映画をみながら、彼らが本当は愛し合っていたんじゃないかと思ってしまった。ふたりが列車のなかでジャムをしているシーンには至福の時が流れ、この時は永遠に止まり、やがてどこかの楽園に行くつくんじゃないかとさえ思える。ジャムをしながら「はじめて会ったときからお前を愛してたよ」というジェリーに、大笑いしながら「ウソばっかり!」というジャニス。この酔った勢いの会話に、わたしはふたりの天才の間に存在しているお互いへの絶対的受容、つまり愛、の波動を感じずにはいられなかった。

若い頃は、ジャニスの歌はよくわからなかった。でも、いま聴くと、彼女の歌いたかった愛が伝わってくる。彼女の心の温かさや、包み込むような母性に心がふるえて、涙が出てしまう。ジャニスがステージに出た途端に、その場の空気が変わり、人々はみな歌に聴き入る。このフェスティバルは彼女のためにあったような気もする。すべての瞬間を楽しみ、輝き尽くして生きた彼女は、いつ死んでも後悔はなかっただろう。彼女はある時地上に降り立ち、生きる喜びと愛を歌って、そして希望だけを残してパッと去った天使、だったのかもしれない。『フェスティバル・エキスプレス』の2ヶ月後にジャニスは他界し、そしてジェリーの顔から笑顔が消えた。そのジェリーもいまは亡き人となり、時代はもうとっくに21世紀を迎えているけれど、あの時のパッションを封じ込めた音楽とフィルムは残り、永遠のいまに生き続けている。切ないような気持ちもするが、これでいいような気もする。きっと、ジャニスもジェリーも、いまは別の次元でふたりで生きているんだろうな、なんて想像して。。


miyuki