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No-Mark Stall *




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ネガティブチャット。 | 2008年05月17日(土)
欲しかったのはその場所だった。
欲しいのはその場所。

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眼下の小さな中庭を見下ろしながら、彼女は憂鬱そうな溜息をついた。
「なに、お姫さま。溜息なんかついちゃって」
「あの薔薇色の空気をどうやったら壊せるのかしらと思っていたところ」
色目こそ地味だが質のよい清楚なドレスを纏った娘は、その細い腕をすっと伸ばして一点を差した。
バルコニーに寄りかかる彼女を更に囲うかのようにその上に立った青年は、指し示された先にああと頷く。
「まあ、仕方ないんじゃない?」
「そうね、仕方ないわね」
「それより美味しいケーキとお茶は要らない? ひとの幸せ羨むより自分の幸せ見つけることに労力費やした方が建設的だよ」
「あいにく後ろ向きに生きるのが信条なので。でもケーキは食べたい」
「そんな根暗じゃ誰ももらってくれないよ。ケーキ欲しいならそっち見てないでこっちおいで」
用意したテーブルをこつこつと叩きながら呼び寄せようとする彼に、ちらりと視線を投げた娘はふいと顔を背ける。

「もらってほしかったひとにもらってもらえなかったのでもういいです。あー、この卑屈な感情、こねたら泥団子かなにかにならないかしら。あの幸せの塊にぶつけて泥を塗りたい」
「なんか君のひねくれ方面白いよね」
「いつも言われるの。君って妹みたい、君って面白いね、君って見た目地味だけど楽しい子だね、そんな感じに三言目めぐらいで恋人選外通告よ」
「え、それってそういうことなの?」
「だってあなた、いいなぁって思った子にそういうこと言う? 面白いとか地味とか妹みたいとか、お友達宣言みたいな台詞」
「地味と妹みたいはともかく、面白いってのはアリじゃない?」
「一度でいいから可愛いとか言われてみたいわ」
「かわいいよ」
「そんなお世辞じゃなくて本気で」
「別にお世辞のつもりじゃないけどなあ」
「もう少し気分盛り上げてくれないと、正直女友達が私に言うのとさして変わらないわ今の台詞」
「俺男だけどね」
「そうね。それで女だっていうなら今すぐ部屋の中戻って脱いでもらうわ」
「また過激だね」
「正直なところ、大体の友達の胸はもんだわ」
「……いやホント、過激だよね」
「あそこの桃色空気纏った男に言ってやりたい。残念だったわねその乳は先に私が触った!」
「女の子ってみんなそうなの?」
「この前五人くらいでお泊り会したら誰の胸が一番柔らかいかとかそういう話になって、ちょっとノリで」
「お酒入ってたでしょそれ」
「ちょっとだけね。ちなみに一番は」
「もう勘弁してください」
「男の子ってそういうことしないの?」
「嫌がらせか。しないよ。誘ってる?」
「失恋して勢いでとかそんな惨めな展開はイヤだわ」
「失恋して弱ってるところに付け込んでオトすってのは割と常道だと思うけど」
「正直お酒と変わらないわ。ケーキちょうだい」
「恋も酒も同じとはまたちょっとひとの心を抉るようなことを言うね?」
「なあに、好きな子でもいるの?」
「教えたら協力してくれるの?」
「ええ、尽力するわ。同じ境遇に引きずり落としてあげる」
「ひどい」
「今ちょっと破れかぶれなの。五年越しに地道に積み上げてきた感情に行き場がなくて」
「敗因は消極的すぎたことだと思うけどね」
「ひとの傷を抉らないで。まだかさぶたも出来てないのに」
「ぶっちゃけ俺の心もざくざく切り刻まれてるんですよね、誰かのおかげで」
「あら、あの恋人たちに横恋慕?」
「違うよ。まああのふたりが原因であることには変わりないけど」
「ふうん、あの男結構モテたのね。ご愁傷さま」
「……まあ、まだ時間はあるしね」
「そうね、新しい恋に出会えるといいわね。失恋祝いのお茶会には夕食まで付き合ってあげるわ」
「その言葉そっくりそのまま君に返すよ。もう少し周りみてみたら?」

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後半力尽きたというか止まらなくて会話文。
written by MitukiHome
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