穴掘り

ダーリンと付きあいだして、早1年9ヶ月。
こんな遠い街に、ダーリンと二人きりの生活を始めて、1年4ヶ月位になります。
もう、まるで産まれた時からずっと一緒にいるような錯覚に陥ってしまっています。
ダーリンに出会う前の、私を形作ってくれたもの達を、忘れもしないし、否定する気もさらさらないけれど、まるで、今の私のすべてを、ダーリンに創ってもらったような気がするほどに、私はダーリンでいっぱいです。

こんな私の神様のようなダーリンと別れたら、私はいったいどうなってしまうのだろう。

時々そんな風に考えて、私は呆然としてしまいます。
想像できないのではなく、脳がショートしてしまうのを止めるため、思考を停止してしまうのです。

どこかの国の囚人は、昔、5m程の穴を掘れと命令されて、何日もかけて掘り進めて、やっと掘れたと達成感で満たされている時に、今度はその穴を埋めろ、と命令されたそうです。
埋めたらまた掘り、掘ったらまた埋め。これを、刑期が終わるまで延々繰り返させられていたそうです。
なんて非生産的な行動。
確かに、罪を償うには、うってつけかもしれません。
自分の労働力なんて無視された状態で、無意味な作業を続ける事ほど、苦痛なことって、なかなかないですよね。
自我を、全否定されるのですから。

でも、この刑罰に似た事が、日常でも繰り返されています。
恋愛。
恋愛は、「別れてしまったらこの刑罰のように無意味だ」なんて事ありませんが、同じような気分には陥るでしょう。

少なくとも、私がそうであったように。

一生懸命、掘り進めたものが、たった一言で意味のないもののように思えてしまう。今まであんなに喧嘩して、あんなに傷ついて、それでもなんとかしようとがんばっていたものが、「別れ」という名の元に、がらがらと崩れ去ってゆく。いや、崩れてくれれば穴も埋るけれど、その穴を埋めるのは自分。思い出だとか、感傷だとかに静かに土をかぶせて行く作業をしなければならないのです。
ただ、この刑罰と違うのは、その穴は、無意味に掘られたものではなく、少なくとも掘っている最中は、宝探しのように何かを見つけようとしていたという事。


ダイヤモンドが見つからなくたって、人から見れば、ガラクタに見えるものでも、自分にとっては宝物のように大事な物を、見つけてきたはず。
私は、そこに、宝物があると信じなくては、こんなに掘り進める事なんてできない。
毎日、気づかなくても何かしらの、自分にとっての大事な「宝物」を発見できるからこそ、今までこうやってダーリンと付き合ってこられたのです。
ダーリンと私の恋愛という穴を、掘り進めてこれたのです。
これから、一生同じ穴を掘り進めるのか、また違う穴を掘り進める様になるのかは、わからないけれど、今は、この愛しい穴を掘り続ける事に精一杯なのです。
2002年08月06日(火)

宝物 / リカ

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