日々妄想
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ジェイド誕生日話の元設定話。 別名義サイトで書いた一発書き小話を二つです。深く考えたら負けです
ガイが小さくなりました
「ヴァンデスデルカ!!ヴァンデスデルカでしょう!!」 その声の主に、ヴァンは瞠目する。 破顔して、ヴァンの名を呼びながら駆け寄ってくるその姿は。
「これはどうした事だ」 努めて冷静を装って問いかけるラスボスに、ルーク達は一斉に無言で青い服を纏う軍人へと視線を送る。 この微妙すぎる空気を全く気にかけることなく、快活に笑うと 「私の薬が原因のようですね」と悪びれもせずに言ってのけた。 世界の命運をかけた闘いが始まるはずだったというのに、今、ラスボスであるヴァンが胸に抱くのは5歳の幼いガイである。 しかもクスンクスン泣いている。 ヴァンの姿を目に捉えると、皆の制止の声をふりきってヴァンの向かって一生懸命駆けて、駆けて、そして、こけた。 それはそれは見事に。しかも手をつくこともなく、顔からこけたのだ。 刹那、キーンと耳鳴りが聞こえるくらいの静寂がエルドラントに満ちた。 そして次の瞬間、うわあああああん、と火がついたようにガイが泣き出したのだ。 「ガイラルディア様、大丈夫ですか」 幼少の習性とは恐ろしいもので、再現されたホドの光景の後押しもあり、ばっと光の速さでヴァンはガイに駆け寄った。 「いたいー、ヴァン、いたいよぉぉ」 「だ、大丈夫です。大丈夫ですから。今から治癒術をかけてさしあげますから、ほら、泣かないで」 背を丸めてあたふたとするヴァンを、どうしたものかとルーク達はその様子を見守るしか術はなかった。
「ガイが泣き虫っつーのは、本当だったんだな」 「泣き虫っつーよりは、すっごい甘えん坊だよね。髪切る前のルーク以上じゃん」 「子供ですのよ、仕方ありませんわ」 「あの頃の兄さんが戻ってきたようだわ」 「いやいや、微笑ましい光景ですねえ。ヴァン総長を神聖視しているオラクルの皆さん達に見せてあげたいくらいですよ」
治癒術をかけて傷は治ったが、それでもガイは泣き止まない。 仕方ないので幼いガイを抱きかかえてあやしながらの、問いかけが前述のものであった。 その姿はまるで親子のようで微笑ましいのだが、妙な怒りのオーラをヴァンが纏っているために、皆必死で沸き起こる笑いの衝動を抑えて頬を引きつらせている。 「最終決戦前にグミを食ってたら、ガイが急にボンって音と煙に包まれて、んで煙がなくなったらそこには」 「幼いガイラルディア様がいらしたというわけか」 「恐らくグミ袋に私の実験用の薬が混じっていたようですね」 「管理不行き届きすぎぬか、死霊使い殿…っっつ、ガイラルディア様、髭を引っ張らないでください」 「おひげー!ヴァンのお髭柔らかいー」 泣き止んだガイがご機嫌な様子でヴァンの髭を引っ張ったり、僧衣の飾りを弄り始める。 「…………」 「………プッ」 「…………ここは、後日、改めて仕切り直そうではないか」 「構いませんよ、こちらも戦力ダウンになっていますしね。さあ、ガイ、こちらに」 「やだっ、ヴァンデスデルカが知らないおじさんについていっちゃダメって言ったもん」 手を差し出したまま固まるジェイドの背後で、我慢できずにブブーっと盛大にルークとアニスが吹く。 「ちょ、ダメだよ、ルー…クっ」 「アニスだって…わらって……クックク」 「ガイラルディア様、あちらには私の妹のメシュティアリカがおりますので、安心してください」 チラリとガイはティアを見るが、すぐさまヴァンの胸に顔をうずめて「やだ、ヴァンがいい」と一蹴する。 「……参ったな」 「薬の効能はそう長くは続きませんよ」 「ならば、元に戻ったら直ぐ様そちらに戻すことを約束しよう。では、とりあえず行きましょうか、ガイラルディア様」 「うん!ねえ、ホットケーキ作って!ヴァンのつくるお日様ホットケーキ食べたい」 「ちょっ!!ガイラルディア様、しーっ、それはシーッ!!」 幼いガイの口を塞ぐと、脱兎の如く駆けていくヴァンの背を皆で無言で見送る。 「総長がホットケーキだって」 「しかもおひさま?なんだそれ」 「チョコペンでニコニコお日様をかくの。ああ、昔の兄さんが戻ってきたわ」
数時間後 「俺、どのツラ下げて戻ればいいんだ」 見事に身体は戻ったが、その時の様子を詳細に聞くと、ガイは手で顔を覆って、しくしく泣いた。 目の前にはホットケーキが数枚積まれている。 「ガイラルディア様、それは私もです」 幼いガイにせがまれてエプロンどころか三角巾までつけたヴァンが沈痛な面持ちでこぼした。
もう世界なんてどうでもよくなってしまったヴァンであった。
地下のアッシュ 「俺達の総長に隠し子が!!!」「神はいないのか!!!」 一斉に剣を放り出しておいおい泣き出したオラクルに戸惑っていると、扉がシュンと音を立てて開かれる。 「お、いたいた。アッシュー、師匠との闘い延期になった」 「延期だと!何ぬかしてやがる!運動会じゃあるまいし!」 「仕方ねーじゃん。ガイがちっちゃくなってさあ」 「はあ?ガイに何があった!はっきり説明しろ」 こんな感じで元気。
終
そしてその前
「うっひょー、ちっちぇー」 ちいさくなったガイをルークは脇に手を差し入れて、抱え上げる。 「かりぃー」 抱え上げてぐるぐる回して、満足して大理石の床に下ろすと、次は自分が腰を落として片膝をつく。 「俺が屈んでおんなじくらいか」 掌を自分の髪の天辺に触れながら測る。 「ルーク。ガイはあなたのおもちゃではありませんのよ」 「あーあ、ありゃ相当浮かれてるね」 「ルーク、いい加減になさい」 「背の低い劣等感から開放されてご機嫌なんでしょう。放っておきなさい」 ナタリア達の諌める声は右から左に流れたが、最後のジェイドの言葉だけはしっかり耳に残ったらしく、ルークはくるりと振り返る。 「うるせー、いっつも見下ろされてきた俺の気持ちがわかるかっ」
事の起こりは、セーブポイントで決戦前という事で体力気力を回復すべく皆でグミを口にした。 その時、何故かガイが小さくなったのだ。 ジェイドの試験薬のせいらしいが、張本人は涼しい顔をして「おやおや、大変な事になりましたねえ」と他人事であった。 小さくなったガイは、記憶もそのまま幼少児のものになっているらしく「え?え?お兄さん、お姉さんは誰?」と言った具合だ。
ルークのはしゃぎっぷりに驚いてなすがままであったガイが漸く状況に慣れてきたらしい。 少しもじもじしながら、こわごわとルークの髪に触れる。 「あかい…かみ」 「へっ、ああ、まあ、赤いな」 「赤い髪の人、ぼく、初めてみた。綺麗だね」 髪を一房掴んだまま、少しはにかみながら、幼い口調で話す。 「そっか、ルークの赤毛は珍しいもんね」 「キムラスカでも希少ですもの。マルクトならば尚更ですわね」 「…ルーク、あなたどうしたの!震えているじゃない」 幼いガイの肩をがしっと掴んで、ルークは俯いたまま肩を大きく震わせている。 「………ぃぃ」 小さく震える声に、女性陣が聞き漏らすまいと近寄る。と、同時にルークは顔をがばっとあげる。 「かわいいなぁぁぁ!!ガイ、お前はこれからずっとこのままでいろ!これ、命令な!」 「ルーク!馬鹿な事を言わないの!!」 「そうですわ。ガイとあなたは、命令とか、もうそのような関係ではなくなったのでしょう」 「ナタリア〜、突っ込むところが違うよ」 「だってさ、今まで俺はガイの世話になってきたわけだろ。これからは俺がガイの面倒をみてやるんだ。 風呂もいれてやるし、ごはんも食べさせてやるし、歯も磨いてやるし、寝る前は本を読んでやるし、おねしょも隠してやるし」 立ち上がって女性陣に対して力説するルークに、アニスがニヤニヤと笑う。 「へー、おねしょ、かくしてもらってたんだ」 「ちがっ、こ、こ、言葉のあやって、やつだ!!」 「薬の効能時間は限りがありますよ。それよりも宜しいのですか。あの先にはヴァンがいるはずですが」 その言葉にばっと弾かれたように階段をみると、一段一段のぼっているガイがそこにいた。 「うわああああ、ま、まずい!つーか、ジェイド、あんた見てないで止めろよ!!」 「子供はどう扱ってよいのか」 と笑って肩をすくめてみせる。 「まて、まてええ、ガーイ!!そっちはだめだああああ」 ルークの絶叫がエルドラントで再築されつつあるガイの屋敷に轟いた。
終
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