日々妄想
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| 2010年11月22日(月) |
ジェイド誕生日おめでとう小話 |
別名義サイトでガイがグミを食べて小さくなった話を書いたのですが、その設定で。
CPなし。ジェイドとピオニーとルークとガイ
蒼と白で統一された長い回廊を二人で並んで歩く。 「嫌な予感がしないか?」「俺は陛下の私室の扉叩くたびにその予感に襲われている」 ルークはガイの肩をポンポン叩いて 「お前、ほんっっっとうに苦労してんなあ」と同情の視線と言葉を送る。 部屋付きメイドは今日は下がらせているようで、二人は誰に案内されるわけでもなく自ら扉を叩く。 名乗る前に中からご機嫌な様子で「ルークとガイラルディアだろ、入れ」と声がかかる。 その言葉に益々予感が確信になっていくのを二人で感じて、顔を見合わせる。 同時にため息をついてから扉を開く。 そして、そこには。
「ほーら、小さなジェイドだぞー」
まるで自分の甥っ子を紹介するように、少年の両肩に手をおいて、二人に紹介をする。 ご機嫌な様子のピオニーとは対照的に、絶対零度の表情で無言で立っている少年。 髪は短いし、胡散臭いと称される笑顔もないが、赤い瞳で興味なさ気に一瞥をくれる少年は確かにジェイドその人であった。 「ほら、ガイラルディアが小さくなって世界は救われただろ。なんだったか、おひさまホットケ」 「うわあああああ、もうそれ思い出させないでください、お願いですから」 ピオニーの言葉を遮って慌てふためくガイの様子をみて、ルークは気の毒そうにため息をこぼす。このネタで毎日のようにからかわれてんだろうなあ。 「そのグミ面白いなあ、って思ってさ。ジェイドのところから一個くすねたんだ」 とてもとても皇帝陛下のする事じゃありませんよ、とルークとガイは胸のうちだけで突っ込んでおいた。 「よくあのジェイドが食べましたね」 ガイの疑問にピオニーがしれっととんでもない事を言い放つ。 「ここ数日ハンパない仕事量与えて、徹夜明けで思考が鈍っている時に「グミでもくえ」って無理やり食べさせたら簡単にいったぞ」 ひぃぃぃぃ、と声にならぬ悲鳴をあげてガイとルークは二人で手を取り合う。 「薬の効能はどれくらいだった?」「覚えてない、気づいたら目の前にホットケーキが」「俺、絶対ジェイドが戻った時に居合わせたくない」「それはおれもだ」 とひそひそと声をひそめて話す二人に、ピオニーがとんでもないことを言い出す。 「そしてお前たちを呼んだのは、小さいジェイドの話し相手になってやってくれ。俺はどうしてもはずせない用事があってな」 「えっ」「は?」 二人同時に声をあげる。 「メイド達よりも、気心しれたお前たちの方がいいとおもってな」 「気心って。この時代のジェイドと俺達は全く関わりがありませんよ」 「戻った時の事だ。あいつ、絶対怒るからな」 からからと笑ってみせると、じゃ頼むな、と言って部屋を出て行く。 パタンと閉められた扉をじっと見つめ、ピオニーの尻拭いを押し付けられた事に、二人は深く深くため息を同時に零す。 ただそう絶望視していても仕方ない、そう考えたルークが先ほどから抱いていた疑問を口にする。 「なあ、あのグミでガイは5歳ちょい前くらいに戻ったけど、こっちのジェイドはもっと大きいよな」 「そうだな。大体10歳ってところかな」 「何が違うんだろ。元の年齢かな」 彼らのよく知る方のジェイドが耳にしたら、にこにこ笑顔で意趣返しが待っていそうな事をルークは言い放つ。 「さあ、どうだろう。あの後、趣味で研究をすすめていたようだから、ジェイドが口にしたのは改良品かもしれないぞ」 「ジェイド・バルフォア。赤いのと、そっちの黄色いの。名前は」 二人の会話を遮るように、これ以上にない簡潔な自己紹介をし、そしてそっけない口調で二人に自己紹介をしろとせまる。 それに、はっと気づいて、慌てて笑顔を取り繕いながら 「ガイラルディア・ガラン・ガルディオスだ、よろしくな、ジェイド」 「ルーク・フォン・ファブレだ。えーと、なんか照れるけど、よろしくな」 と手を差し出す。 差し出された手に一瞥をくれるだけで、少年ジェイドは手を差し出さずに問いかける。 「ガルディオス伯爵家縁の者と、ファブレという名とその赤い髪、キムラスカの公爵家の息子、というところかな」 所在なさげな手を下ろして、まあそんなところです、と少年の雰囲気に圧倒されて二人は応える。 「そう、じゃ、ガイラルディアにルーク。煩いからおしゃべりなら向こうでやってくれないか。 今の僕と未来の僕との差異を見つけてあれこれ騒がれるのは、煩わしい以外のなにものでもないからね」 無表情のまま冷たく言い放つと、手近な椅子に腰をおろして本をひらいて読み始める。 その勢いにおされた青年二人は「はい、すみません」と叱られた子どものような有様であった。
ジェイドの指す向こうで二人は身体を寄せ合って 「おれ、あの胡散臭い笑顔を懐かしいと思う日がくるとは思わなかった」 「それは俺もだ」 とこそこそと愚痴りだす。 愛想の欠片もなく一貫して他を拒絶する態度に、二人は戸惑いを隠せないでいる。 その二人の背に向かって 「キムラスカの貴族があいつの私室に出入りできるって事は、両国は友好関係にあるの」 と問いかけられる。 おおっ、なんか知らないが急に向こうが歩み寄ってきたぞ、と二人は笑顔で振り返る。 「ああ、そうだ。ピオニー陛下は即位後から両国の和平に向けて積極的にはたらきか」 「へえ、あいつがね」 ガイの説明を遮って、皮肉げに、どこか小馬鹿にしたように言い放つジェイドにルークは戸惑う。 「陛下とジェイドって昔から仲良いんじゃないの?」という疑問をルークは口にする。 「僕とあいつが?さあ、どうだろう」 そう言うと、もう話は終わりだ、とばかりにページを捲りはじめる。 意識は目の前の文字を追うことに注がれ、ルークとガイの存在は忘れ去られたようだ。 少年ジェイドの言葉に不安そうに顔を曇らせるルークとは逆に、ガイは込み上げてくる笑いを必死に抑えている。 ぐいっとルークの腕を掴んで部屋の端に引っ張っていくと「仲良いよ、あの二人は」と確信に満ちた様子だ。 それにルークは首を傾げる。 「ただジェイドは昔から、『ツンデレおじさん』なだけだって事さ」 その言葉に益々??なルークに、ガイは笑って見せる。
するとその時、扉が叩かれる事なく開かれる。三人の視線が一斉にそこに注がれる。 「おーい、用意できたぞー」 カラカラとワゴンをこの国の皇帝が押している。慌ててガイが駆け寄って「俺がやります」とかわる。 じゃあのテーブルまで頼む、とピオニーは少年ジェイドに笑顔を向ける。 「お、良かった、まだ小さいままだな。ほら、こっちこい」 手をふって招くと、少年ジェイドはこれみよがしに嘆息してから本を閉じる。 ワゴンの上に半円型のカバーをとると、そこにはホールケーキがあった。 「え?」 思わず驚きの声を漏らしたガイに、ピオニーが笑う。 「今日はこいつの誕生日なんだ」 「え、そうなの?ジェイド」 ルークが緑の双眸をまん丸にして問いかけると、言いにくそうに「ま、まあ、そうだけど」と初めて子どもらしさをのぞかせる。 「で、実は甘いもの好きなんだよな。さ、ろうそく立てて祝ってやろうぜ」 ピオニーの言葉にガイは頷くとケーキにろうそくをたてる。 少年の年齢でいいのか、それとも実年齢の方が良いのか迷うが、用意されていたろうそくをとりあえず全て立てておく。 マッチを擦って、火を灯していく。 「火を消す前に願い事考えておけよ」 とピオニーがジェイドの背を軽く叩く。ジェイドは眉を顰めるが、すぐさまケーキに向き直ると、僅かの間じっと見つめてからふーっと火を消す。 パチパチと皆が手を叩いて「おめでとう、ジェイド」と声をかける。 「生まれた日というだけで、めでたくはないと思うけど」と皮肉に返すが、ルークも先ほどのガイの「昔からツンデレおじさんなだけだ」の言葉が漸くわかってきたらしく、気にした様子もない。 取り分けましょう、と使用人生活の長かったガイが手際よくケーキナイフを入れて取り分けていく。 ジェイドのケーキの上には「ジェイド誕生日おめでとう」とチョコペンで書かれたプレートがのせられている。 「子どもじゃあるまいし」と言い放つジェイドに「えー、今お前子どもだろ。なあ」とピオニーが鷹揚に笑う。 しぶしぶという風にジェイドはそのプレートを手にして口にする。 美味しい、と初めて笑顔をみせた時、ボンと煙と音が少年ジェイドを覆う。 煙が消え去った時にいるのは、当然、ジェイド、その人である。 手にしたプレートをみて、それから顔面蒼白になったルークとガイに視線を送り、最後に部屋の主を見据える。無言で。 部屋の空気が硬化したのをガイ達は感じた。 だが「やーい、お前もとうとう俺と同じ年齢だな」とからかう言葉を真っ先に口にしたピオニーを、ルーク達は深く深く尊敬し、これから先におこるブリザードをどう避けたものかと考えを巡らせた。
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