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| 2002年03月25日(月) ■ |
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| 出版理念 |
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児童書の出版を手がけている出版社の理念を見ると、さまざまなものがあるが、おもな4社の出版理念を比べてみようと思う。私は偕成社のものが一番心に残った。
<偕成社文庫> 「文化は人類存在の唯一の証しであり、その根源はわたしたちひとりひとりの心の深奥に発する。本を通しての心の営みが文化を支える重要な柱であるとの認識は、児童出版をもって文化の進展に寄与しようとするわが社出版理念の原点である。
第二次大戦後30年、わたしたちの生活は一応の向上を見た。テレビ、新聞、雑誌などのマスメディアは盛況をきわめ、教育の普及も世界の最先端にある。だが、一歩内実に立ち入ったとき、わたしたちはそこに真の精神の躍動と豊かな実りの芽を見出すことができるであろうか。子どもたちも、テレビ、雑誌、マンガの氾濫と、受験戦争との両極にはさまれて、たくましい知的好奇心をのばし豊かな心を育てる人間形成の基本に欠けるところが大きい。わたしたちは読書万能をとなえるものではないが、いまこそ声を大にして、本を通しての知的触発と精神練磨の重要性を強調したいと思う。
こうした見地からわたしたちは良書を入手しやすい形で常時提供するという出版社本来の義務をはたすため、偕成社文庫の発刊に踏み切った。
(中略)わたしたちは偕成社文庫を一時的脚光を浴びる出版でなく、地味ながら永遠に子どもたちとともにある事業として維持推進することをここに誓う。」
<岩波少年文庫> 「(中略)私たちがこの文庫の発足を決心したのも、一つには、多年にわたるこの弊害(注:子供向けとして、大幅な省略やいい加減な翻訳をしたこと)を除き、名作にふさわしい定訳を、日本に作ることの必要を痛感したからである。翻訳は、あくまで原作の真の姿を伝えることを期すると共に、訳文は平明、どこまでも少年諸君に親しみ深いものとするつもりである。
この試みが成功するためには、粗悪な読書の害が、粗悪な感触の害に劣らないことを知る、世の心ある両親と真摯な教育者との、広汎なご支持を得なければならない。私たちはその要望にそうため、内容にも装丁にもできる限りの努力を注ぐと共に、価格も事情の許す限り低廉にしてゆく方針である。私たちの努力が、多少とも所期の成果をあげ、この文庫が都市はもちろん、農村の隅々にまで普及する日が来るならば、それは、ただ私たちだけの喜びではないであろう。」
<講談社・青い鳥文庫> 「(中略)本の世界も森と同じです。そこには、人間の理想や知恵、夢や楽しさがいっぱいつまっています。
本の森をおとずれると、チルチルとミチルが「青い鳥」を追い求めた旅で、さまざまな体験を得たように、みなさんも思いがけないすばらしい世界にめぐりあえて、心をゆたかにするにちがいありません。
(中略)その1さつ1さつが、みなさんにとって、青い鳥であることをいのって出版していきます。この森が美しいみどりの葉をしげらせ、あざやかな花を開き、明日をになうみなさんの心のふるさととして、大きく育つよう、応援を願っています。」
<岩崎書店、金の星社、童心社、理論社・フォア文庫> 「わが国が、いちばん苦しみ、もっともまよっていたとき、ただひとつ、確かな希望の灯がともされました。いちばん巨きな未来をもった人間・少年少女たちに対する熱い期待です。自分の足で立ち、自分の頭で考える「新しい日本人」の誕生によせる祈りです。いわば自律的な精神の形成こそが、わが日本の第一の課題でありました。
(中略)もしも今、わが少年少女たちが、親子の断絶とか、競争社会の重圧とか、さまざまな灰色の壁に直面しているとしたら、私たちは、かのゲーテにならって、「生活の樹は緑だ」と、ささやきかけずにはいられません。この《本の宝庫》には、そんなささやきにも似た心の糧や知識の実を、緑濃き森からの贈り物のように、とりそろえるつもりです。」
この4つの児童文庫は、各自の基準による作品選びはもとより、安い価格、読みやすい形などなど、共通した部分が多いのだが、外国文学について言えば、最も忠実に作品を伝えようとする姿勢は、偕成社と岩波のものであろう。しかし、岩波が本の日本中への普及ということを目的とするのに対して、偕成社は、本を通しての知的触発と精神練磨の重要性を唱えている。本の普及=本を通しての知的触発と精神練磨の重要性ということにもなるだろうが、私は、偕成社の最後の「一時的脚光を浴びる出版でなく、地味ながら永遠に子どもたちとともにある」という言葉に、大いに胸を打たれたのである。
「本なんか売れやしない」という言葉をよく聞くが、売るための本なのか、知的触発のための本なのか。いわんや、未来を担う子どもたち向けの本となれば、けして売るためだけの本ではないはずだ。こういった出版社各社の考えが、本には実によく表れている。内容はともあれ、本の作り方の細かい配慮なども、よく見ると理念の生かされている出版社ほど、細かい気配りがされているものである。
そういえば今日は、祖父の命日であった。
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