戯言、もしくは、悪あがき。
散る散るミチル
ミチルは果てた
充電切れたら
今夜も寝逃げ

2016年06月20日(月) 「各駅停車」「まがりかどで」

「各駅停車」


忘れ去られるものの声で
 、
呼んだ

空は微動だにしなかった

9つ目の駅で各駅停車は動きをやめ
待ち合わせでもないのにひたすら留まっていた
急行も後続列車もやって来なかった
扉は、ずっと開かれていた

歌は私に通りすがり、またすぐに消えてしまった

空は微動だにしなかった

通りすぎぬように各駅停車を選んだものの
動かないならどうしようもない

目的地が胸にあるからこそ
たどりつけない旅だった
遠足のように先を歩いてくれる先生はなく
場違いに元気な号令の声もない

ちい、と

すずめの声を聞いた気がしたが
すずめの声を聞いたことなど一度も無い気もした

私がこの駅から離れられないように
すずめは空に繋がれている

扉は、ずっと開かれている

仕方が無いのでホームに降り立ち無人売店でごまかしの買い物をした
500円分の菓子を買おうと思ったが
300円で事足りてしまった

あんぱんの袋を破ると射撃のような音がしてすずめが3羽空から落ちた

私は電車に乗り込むと窓越しの3羽を見ながらあんぱんを食べた

鳴き声は無かった

空は微動だにしなかった

各駅停車も動かなかった

私は

忘れ去られるものの声で
 、

呼んだ


目的地だけが息づいていて、
だからこそたどりつけないのだった




「まがりかどで」


目をつぶりました ふたつめのかどで
街が急に知らん顔したので
地図を持たない指のさきが
闇のふちにあたって ひゅうとしました

目をつぶったわたしはひとり
メリーゴーランドの軸になって
こうまたちのめんどうをみます
こうまは勝手に回っているので
わたしも勝手につなを握って
ならない口笛で拍子をとります

遠心力でこうまたちは
ぐんぐん上へと浮かびながら
ひらひらゆれる尾っぽのさきで
見えない果てを描いてゆきます
わたしはわたしで2本の足に
しっかと力を入れるのですが
どこが地面かも忘れてしまって
気づくとやっぱり浮かんでいます

こんなときにはなにかすてきな
うたがあったとわたしは思い
けれどもやっぱり音にはならずに
のどから風はひゅうとこぼれ
それはどうやらなまあたたかく
春が来たかとこうまははしゃぎ
ぶるんぶるんとつなをふるわせ
おかげで風はそれはきれいな
ヴィブラート を帯びてゆき

わたしたちはひとつの楽器になって
空で鳴りつづけるのでした

そうしてはたと気がつくと
わたしはふたつめのまがりかどで
ほんのすこし目を回しながら
ぼんやりひとり立ち尽くしていて
ひとしごとを終えたわたしのことを
街もどうやら許してくれて
わたしも地面を取り戻して
のどをひゅんひゅん言わせながら
また歩きはじめるのでした



2016年6月18日 Jazz喫茶映画館にて朗読


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