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■息子誕生記。
2005年10月04日(火)
出産予定日に遅れること2日、ようやく「おしるし」(出血)が
現われて助産院に行くことになった。それが午前0時過ぎ。

眠っている娘・R(2才)を抱き上げると目を覚ました。まだ眠い
はずなのに車に乗せても愚図らず、窓からすれ違う車のライトを
静かに眺めていた。Rなりに何かを察しているのだろうか。

「R、もうすぐトロちゃん(胎児の仮名)が産まれて来るんだよ」

「ぶうぶ(車)、いっぱい!」

やっぱり察していなかった。R、なんて子!

助産院の診察室で横たわった嫁は徐々に陣痛の間隔が短くなり、
唸り声を上げるようになった。男親の無力さを感じさせられる
ひとときである。出産においてはガーゼ1枚の方が役に立つ。
出来ることといえば気力を出して貰うよう励ますしかない。

「嫁、気力出せ。調べたんだけど10月3日の有名人は…えーと、
 大助花子の宮川大助だよ」

「気力出ねー!」

励まし失敗。それどころか助産師達がオオウケしてしまったり
「え、誰?」「夫婦漫才の…」「ああ、あのウマ面の…」等と
混乱してしまったりし、出産作業をも妨げてしまった。

意外だったのがRである。マイペースなので途中で寝るとばかり
思っていたのに、起きたまま僕とじっと出産のさまを見ていた。
ほとんど喋らず僕と一緒に嫁の手を握る。母を心配して真剣に
なっているのだろう。

「ああああああ!」

嫁が一際大きな声を上げた。出産は動物の本能の行為であるから
獣にならなければ産めない、というのをどこかで読んだ。まさに
1キロ四方の全ての生き物を金縛りにさせるぐらいの獣の咆哮。

「うわあああん!だっこ!だっこ!」

とうとうRが耐えかねて泣き、僕に抱きついた。

「大丈夫だよ。ママは頑張っているんだ。トロちゃんと一緒に」

しかし嫁はあまり取り乱すことはなく、助産院院長以下の助産師
達の指示に従い、呼吸する時ときばる時のメリハリがあった。Rの
時はそりゃもう乱れて暴れて、恐ろしい助産師(通称ボブ産婦)に
怒られまくっていたのだが…

「ふやああん、ふやあん」

嫁の体の下から、確かに声がした。

「産まれました!」

「やった…」

「よくやった!R、産まれたぞ!」

「2時45分です!」

皆の声が交錯して、我が子が誕生した。ずっとうつむいていた
嫁が顔を上げた。

「本当によくやったよお前」

嫁は言葉にならぬ笑みを浮かべた。

「模範的なお産でしたよ」

院長も褒めてくれた。これで嫁のボブ産婦への屈辱も晴れた
であろう。僕は白い布にくるまれて泣く我が子を覗く。

「ようこそ。僕がパピーだよーん」

小さくて猿そっくりの愛らしい我が子を抱きしめたかったが、
それはまだ許可が出ないので後のお楽しみである。

「あ、先生、ところで男ですか?女ですか?」

最後の最後まで判明しなかったこの子。院長はにっと笑った。

「そういえば立派なものが付いていたような…見ます?」

「男ですかそうですか!立派ですか!僕に似たんですよ!」

最後の余計なひとことは全ての人に黙殺された。

「R、トロちゃん産まれたよ。弟だよ。分かるかなあ?」

誕生の瞬間まで緊張で固まったまま起きていたRは、ようやく
ニッコリ笑った。トロ…いや、これは胎児名だからその名で
もう呼べない。Rは僕が名付けたので、この子の名は嫁がこれ
から決めるのだ。

「さて、旦那さん」

出産後の処置をこなしていた院長が不意に僕を呼んだ。

「へその緒を切ってもらいましょう」

「えええ!そんなこと僕がするんですか!いや、ちょっと
 びびってますんで、お任せします…」

僕にはとても重要なことに思えるのに、まるでテープカットを
するような軽いノリで言われてしまったので、反射的に腰が
引けてしまった。今思い返すとやっておけば良かったような。

ひとまず嫁がこの子の名前をつけるまで、僕は密かに息子を
ヘソノヲノミコトと呼ぶことにしよう。

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もう仲良し。

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今日もアリガトウゴザイマシタ。

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