嫁と電車の中。運良く座れた。
重そうなおなかを撫で回す嫁。
出産間近なのでもう電車に乗ったりするのは
きついのかもしれない。
「ププッ」
嫁の正面に立っていた外国人男がいきなり笑い出した。
ぎょっとする嫁。
「スミマセン。オナカ撫デル姿ガ可愛クテ…ツイ」
異人さんにとってウチの嫁は珍獣か何かに映ったようだ。
「お…お子さんいるんですか?」
果敢にも会話をする嫁。
嫁は田舎で育ったせいか外国人が珍しいらしく、
街などでみかけるとよく
「あっ!外人!」
と大声で叫んだものである。
1度本人に聞こえてしまってムッとされてしまい
「外人だって『ガイジン』ぐらいの単語は
知ってるわボケ!」
と叱り飛ばしたもんである。また、ボストンに行った時も
「あっ!外人がいっぱい!」
と大声で叫んでいたので
「ここじゃ僕らが外人だボケ!」
と叱り飛ばしたもんである。
その頃と比べたら成長したなあ…
僕は感慨深げに嫁と外人さんを眺めていた。
「3才ノ男ノ子ト、モウ1人ハ奥サンノオナカノ中二イマース!」
この時、嫁の隣に座っていた女性と目が合った。
彼女はニッコリ笑った。この人が奥さんかな?
僕も「お宅も矢継ぎ早でんなあぐへへ」といった意味を込め
ニヘエ、と返した。
「男ノ子、イツモ『パパ!パパ!』マトワリツクネ。
モウ引キ離スノ大変!」
そう言いながら外人さんは「足にしがみつく息子を引き離す」
ジェスチャーをし始めた。
「ヤメナサーイ!ハナシナサーイ!
カイコクシテクダサーイ!」
あまりの熱演を何度もやるので、他の乗客達もチラチラ見ている。
奥さんも苦笑いしてるし…。
いや、あの、僕ら強盗じゃないんで…。
「ジャ、ガンバッテクダサーイ」
外人さんと奥さんは僕らより先に降りて行った。
降り際に再び奥さんと目が合ったので
「お大事に」
僕は奥さんに声をかけて2人を見送った。
「随分怪しいガイジンだったな」
「そうね…ハリウッドを観て育つとああなるのかしら…」
2人になってから、ヒソヒソと話す。
「でも、奥さん妊娠中だって言っていたけど、
それにしちゃずいぶん痩せてない?」
「え、あの女の人、奥さんじゃないよ。
全然別に電車に乗ってきたもん」
僕が1番怪しかったー!
アリガトウゴザイマシタ。
今日もアリガトウゴザイマシタ。