銀の鎧細工通信
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| 2006年09月03日(日) |
Hella Good Hella GOD (エリクロ) |
誰かが居ればさびしくないなんて、なんて素直で なんて 虚妄。
「私は・・・仕方ないのであるよ」 目の上を掠めた擦過傷の手当てを施されながらクロウリーは寂しげに呟いた。 血色は凄まじく悪く、青白くこけた頬、ひょろ長い体躯を長いマントで包めばまさに吸血鬼。人好きする顔の造作ではなく、その低く弱々しい声音を聞くまでもなく人は彼を避ける。 (でもソレでいいって思ってるから、何も変えたくないから、アンタは) エリアーデはガーゼを止めるためのテープを切りながら、ぐるりと城を見渡した。高い高い天井、石造りで歴史ある建物はひたすらに物静かに威圧的だ。薄暗く、冷たい。 (諦めた振りして、逃げているんでしょう?) 湧いてくる苛付きと攻撃心を溜息で切り替えて、そっと細い指先で止める。繋ぎ合わせる、テープ。 (傲慢で、頑固ね) 「なぜそんな風にお思いになりますの?」 救急箱を片付けながら、意地の悪さを労りと無垢の白いベールで隠して問いかける。 「え、えっ?!それは・・・その・・・私は、風貌も醜いであるし、人付き合いも・・・うまく、できないである」 自己卑下の中にあるのは、かたく閉ざした殻。 美しい皮の中にあるのは、巧く隠した殺人兵器。 (私はこいつに何の本当のことも明かすつもりもないくせに、どうしてこいつの殻は壊したがるのかしらね) 下手を打てば、剥き出された本性の牙に晒されるのは命なのに。 自嘲気味に笑うと、「アレイスター様は本当に優しいお方ですわ、そうですわね・・・皆、このお城が由緒あって・・・とっつき難いのかも知れませんわね。御爺様は、村の方々とのお付き合いはどうなさっていたんでしょう?」と更に意地悪を畳み掛ける。 「う・・・お、御爺様も、変わり者とされて・・・村人との付き合いはほとんどなかったそうであるよ・・・昔から、この家の者は・・・そのようである・・・」 (だから自分も仕方ないって?ハ。) 普通の青年のような服装で、屈託なく表に出たところで異様な風貌は変わらない、どうしたって違和感を撒き散らすだろう。 取り繕ったり、努力しても尚受け入れられないならば、はじめからそんな傷付く真似はしなければいいのだ。 イノセンスは遺伝性のものではないと聞いたが、過去にこの家は適合者を出しているのではないだろうか。だから、身側のものを疑わず、身内の中からアクマを生み出さぬよう、この様になったのではないか。堅牢な拒絶。 「でも、私は知っておりますわよ。アレイスター様がお優しいことも、真面目で、ピアノが御上手で、植物を育てるのも御上手なこと」 にっこりと微笑めば、歓喜に涙目になるクロウリーに二の句を告げさせないように「お茶でもお持ちいたしますわ」と告げて踵を返す。
誰かが、一緒に居れば、さびしくないって、本当に思っている?
そう思いたいだけでしょう。誰も居ないから自分はさびしいんだって。 夜更けに抜け出し出向いた酒場。 ウェストはコルセットで締め、デコルテを強調したドレスで胸を豊かに盛り上げる。髪を巻いて、ショールを羽織り、靴は商売女に見られないようにローヒールの質素にして上等のものを選ぶ。 誰もが振り返る、男も女も。 元来の睫毛の濃さはそのまま活かし、淡い色の口紅をたっぷりと纏って。 瞬きの一つ一つに溜息が聞こえるよう。 (私は女だわ、どうしてこの皮は、こんなに美しい姿を持っていて尚、私を呼び戻したりしたのだろう) しばしば思わずには居られないが、レベル2になってからはもう思いだせない。 ただ呼び戻されたその苦痛と絶望の痛みを、人を殺す事で紛らわせるしか、エリアーデには出来ない。
うまいこと旅の男を捕まえて、その宿に赴いた。むしゃぶりつくように抱き締められ、がっつく男に戯れを仕掛けながら、笑う。 ああ、人と触れ合っていても、こんなに独りよ。 さびしくはないわ、私は人ではないもの。 でもねアレイスター、覚えがあるのよ。 スタンドの淡い影の中から見上げる男の顔は、己の快楽に没頭し、心底間抜けな表情をしている。時折愛しげに微笑みかけて、髪を撫でるけれど、何も変わらない。 そう、この体の中の異物。異物。異物が入っている感じ。 ああ他人ね、別の物体だわ。 体内に入り込み、さも愛しげに微笑まれても、強烈に自分では無いと痛感する。 締め上げれば男が快感に呻く、けれどその快感は私のものではない。 通じ合っているようで、それは別のもの。同じものなど感じるはずがない。 そもそも自分が感じるのは性感ではないのだろう、獲物を殺す前の悦び。けれどその欲望も性の欲望も同じ事だ。相手には関係がなく、相手に施す事も与えられる事も出来るけれど、結局は別のもの。 セックスしている時こそ、大笑いしたくなるほど自分が独りである事を実感する。 極めつけの間抜けな表情を目に入れた瞬間、エリアーデは牙をむく。ぐしゃりと脆い肉体を潰す。ぐちゃり、と爪を食い込ます。 自分の体の上から、全身に降りそそいだ血液や肉、臓物の破片を浴びながら笑いが押さえられない。あああ!なんて気持ちがいいの!! 「ふふ、うふふふふふ・・・あはははははははは」 笑いながら肉塊を押しのけ、立ち上がると股から液体が垂れてくる。指でぬぐい、スタンドの明かりに近づければ、白く濁った液体が粘着質に光った。 「ぶっ、ふ、くく・・・きゃはははははは!!」 何がおかしいのかなんて判らない。興味もない。 シャワーを使いにバスルームへと軽やかに歩み、気持ちよく血液や体液を洗い流しながら感じる高揚。 (きっと、そのうちレベル3になるわ・・・) でも、そうなったら、我慢できるかしら。 そこまでレベルがあがったら、もう私は、きっと人間の皮をかぶった姿で居る事に楽しさを感じなくなるかもしれない。こんな感情も、また忘れてしまうかも知れない。 ぶるりと震え、コックを捻った。 まだ考えまい。 まだ今は。 ・・・アレイスター・・・!
身繕いを整え、入った時と同じ様に姿を見られないようにして表へと出る。
森の中をひそひそと歩み、城へと帰る。 不意にガサリと木陰から大きな影が飛び出した、「きゃっ」と後じさる。 「エリアーデ・・・」 月明かりに照らされた顔付き、いつもと違う。低い声からは弱々しさが消え、艶を含んでいる。何よりも、その体から、牙から嫌な匂いがする。 同族の匂いだ。 (不思議ね、私が呼んでいる訳でもない、送り込まれているわけでもないだろうに、どうしてこの男は、どこでアクマを見繕ってくるのかしら・・・) 笑いに、どこか悲しげなものが混じった事にエリアーデは気が付かない。 「驚きましたわ・・・アレイスター様」 ショールを巻きなおす。 「私の方こそ・・・どうした?こんな夜更けに」 口調からして違う彼の変化。 一緒に居ても、さびしい。 一緒に居るからこそ、さびしい。 いつまで一緒に居られるだろう? これから、いつまで? こうして、一緒に。 「お酒が切れてましたの、慌てて酒場に・・・」 と云ってバスケットから酒瓶を覗かせて見せた。 「・・・アレイスター様こそ、・・・どうして・・・?」 伏目がちに微笑んだ、笑顔はわなないただろうか。さびしさと、恐怖と、歓喜と、絶望に。 「ああ・・・月がきれいだったものだから、散歩にな」 空など見上げないまま、云う。わざとらしく見上げれば、細い三日月は本当に美しかった。 「まあ・・・本当ですわね。急いでましたし、心細かったから・・・空を見上げる余裕なんてありませんでしたわ、きれい」 ふわりと微笑んだ時にこぼれた呼吸は白かった、随分と寒くなってきているのだ。つられたのか、アレイスターも穏やかに微笑む。 「めっきり冷えるようになってきましたわね」 無邪気に微笑みながら腕を取ると、滑り込むように腕を絡ませてぴったりと身を寄り添わせる。驚いたアレイスターが身を硬くした。 「あ、ああ。そうであるな」 口調が戻った、見上げた顔つきは、まだ、アクマを狩るエクソシストのものだったが。 「お城に戻ったら、熱いお茶を入れましょう。買ってきたお酒を垂らせば暖まりますわ」 今、頬をこの腕に摺り寄せれば、彼は牙を向くだろうか? 押さえきれなくなるだろうか? そうしたら私はどうするというの? 「それはいいな」 予想に反して、アレイスターはまたふうわりと穏やかに微笑んだ。
こうして、笑いあっている時の方が まだ孤独なんて感じないわ。 人といたら殺してしまう、あなたといれば、殺されるか殺すかしかない。 どうあってもアクマは独り。 誰とも居られないの、それは孤独ではないわ。さびしくもない。
でも、あなたは違うわね?アレイスター。 きっと一人じゃなくなるわ。 その時に、本当のさびしさを、思い知ればいい。 誰かと居ればさびしくなんかないって、そう思っていた今の愚直な素直さを。 そうして、思い出して。
わたしのことを。
END
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