銀の鎧細工通信
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| 2006年03月07日(火) |
楯 (陸奥山崎→土方) |
りりん。
黒電話の音に設定してある(といっても初期設定のままなのだが)携帯電話が鳴る。仕事用のものではなく、私物だ。 着信を告げる番号は、見慣れないものだった。 折角のオフ日だ、無視しようかとも思ったが、しつこくコールを続ける玩具のような電話になんとなく出ようという気になったのは、陽気のせいかもしれなかった。
「はい」 ぽつりと声を出す。 「山崎か」 向うから響く声は意外な人物からのものだった。高くも無く低くも無く、どこから出ているのか、どこから聴こえてくるのか(相手がどこからかけているかという事ではなく)、今ひとつ不鮮明なのに声だけが耳に残る。 「陸奥さん、こっちに来てるんですか」 口をついて出た言葉は、「戻る」ではなく「来る」、であった。 それほどに坂本の舟は宇宙に居る期間が多い。また、陸奥本人が地球を「戻る」場所、帰る場所と認識していない気がしていた。 「すまんな、勝手に訊いてしもうた」 無愛想な声音だが、教えても居ない番号に電話をした事を詫びる気持ちは伝わってくる。少し微笑んで「いいですよ、隊の誰かに訊いたんでしょう」と応じた表情が「土方に訊いた」、と告げられれば硬直する。 普段は非番の日でも隊舎に居り、細々した事をして過ごす山崎が外出をしたことには理由があった。 知ってはいた、あの人、とはまた違った想いで彼を気にかけていることなら。密な関係があることも。 ただでさえ強硬に出られない感情を抱える中で、奔放好き放題に振舞う沖田に棚上げで苛立ちを感じる事があった。その上更に、土方を振舞わす存在に、頭の中では「どうとでも解放できるならばいいことなんだろう」と理屈付けては「いい加減にしてやってくれ、そっとしておいてやってくれ」とも思う。これも結局想いを伝えただけでなあなあにしたままでいる自分の踏ん切りの悪さを棚上げてはいると、解っている。よく解っている。 だからといって、キスシーンなど見て平然としていられるほどに、物分りも良くは無かった。 貰い物の柑橘を追加で届けに行った際に、見てしまった景色。今更動揺などしない、それでも気分のいいものではない。 自分を裂いてでも近藤に尽くそうと決めてしまっている土方へ、他人が何かできるなどとは思えなかった。当人が告げることも叶うことも無いと解りながら、それでも想う気持ちに苦しむのを、ただ側で見ていることしか出来なかった。気を紛らわせても、一瞬だけ。それでもいいと思っていた。否、いいとは思っていない。けれど、肩代わりできる荷物は隊の事でしかないのだ。 今は何もできない。今となってはもう、何もできない。 戻れるなら、と希っているのは土方自身だ。 それでももう気付いてしまった感情を無かった事にできない事も知っている。 「山崎?」 黙り込んでしまった者を呼び戻す。 「あ、はい。聴こえてますよ」 電波障害の振りを装うものの、そんな事が通じる相手ではない。 それでも「おまん、今日は非番だそうじゃな」と気にとめずに応じる。痛みが走り、心の中で、詫びる。 「ええ、買い物ですか、手伝いましょうか」 見透かされている。細い電波を通して息が笑いを伝えた。 「相変わらず、頭の回転が早い奴じゃな」 嫌味ではなかった、揶揄するものでも、でもそこに込められたものはシンプルな意味ではない。 「今どこですか、向かいます」 泣き笑いの表情と声音で答え、落ち合う場所を決めて電話切った。 昨日の曇天とは打って変わった淡く薄い青空が春を教える。 柔らかくも染み入る日差しに、手をかざす。 何も、できない、じゃないか。 云い聞かすように呑み込んで、待ち合わせへと歩く。
男物の濃紺の絣の着物にからし色の帯、わざと出した兵児帯に似た帯揚げは萌黄色。爪は紅梅のような色で丁寧に塗られている。それを淡くしたようなストールを首に巻いて、陸奥は立っていた。 金灰の髪に、その紅梅の色はよく映えた。 「御久しぶりです」 会釈しながら横に立つ。「ああ」と応える陸奥はいかついブーツを履いているためいつもより少し背が高い。 「この間、陸奥さんに似合いそうなコンシーラー見つけましたよ」 陸奥が歩き始めるのに連れ立ちながらあっさり云うと、「何でおまんはそがぁなもん見ちゅうがか」と厭そうな顔で云われるので、「仕事で女装をしてたんで、そん時に」と苦笑する。 「ほがぁな事云って、コンシーラーまで完璧に見繕ってする必要なかろ」 今のは、仕事への無駄なまでの真面目さを誉められたのだ、と判って少し嬉しくなる。 「どこのんじゃ」 緩んだ頬のままで「あっちの路面店のですね、自然素材の店なんです。俺は日頃から化粧してるわけじゃないから、塗りたくると肌がかゆくていけませんよ」今度は山崎が先導する。 「わしが塗りたくってるちゅう事がか、昼飯はおまんの奢りに決定きにゃ」 云ってませんよそんな事、と云いつつ「じゃあ行ってみたい店があるんで、イタリアンですけどいいですか」とも続ける。 (この人といるのは、楽だ。全部判ってて何も云わない) 虚しい安堵にすがる。
奇妙なまでの好奇心と探究心から、オールジャンルで情報通な山崎はよい買い物の連れだ。犬のように素直についてくるけれど気は効くし頭の回転も早い。 (どいつもこいつもばかばっかりじゃな) 少し強い風で髪がなぶられるので、ストールに顎を埋めて思う。 (人のことばっかり気にしちゅうて、自分は裂けてもいいとばかり思っとるきに) 口にする気は更々無かった。
山崎の連れて行った店で陸奥はコンシーラーを2本買い、山崎は「あ、これいいなぁ」と云ってテスターで試したハンドクリームを隊で雇っている給仕のおばちゃんにと買った。 何となくうろうろと買い物をし、混雑時を避けて少し遅めの昼食にする。 ワインを頼んだ陸奥に出された突き出しを味見させてもらい、「あ、これはアレンジすれば作れるかも」などと云い出す。 オレンジピールの添えられたクリームチーズの和え物。柑橘を抱えて立ち尽くし、てくてく踵を返して歩いた廊下を思い出す。 局長のために声になり頭になり足になり手になり楯になり、刀にもなる、それで自分が裂けてもいい、と、そう想うあの人に、何が出来るのか。 時折、大して強くもない酒を一人あおる彼に、こんなことしか出来ないのか。 しかも、それで、何の意味があるのか。 「あまり辛気臭い顔するな、飯が不味くなるろー」 遠慮の要らなさが、心情を露呈させてしまう失態に恥じ入り、それでも陸奥は「ほれ、これ喰ってみゆう」といつの間にか小分けにした皿とフォークを差し出す。 また(ごめんなさい)と心の中で唱える。もう誰にへかは分からない。楯にすらなることが叶わない自分に、土方のために出来る事など。 食後に出されたコーヒーには梅の小枝が添えられていた。 「お、紅梅。今日の差し色ですよね」 思わず笑んで、陸奥に手渡す。朽葉色の帯止めに差し、それから自分のソーサーにあったものを山崎の髪に差す。 「恥ずかしいんですけど」 黙殺し、「腹ごなしに梅でも見に行かんか」と紅梅色の爪で白いカップの縁をなぞって窓外に目をやる。 よく晴れている。うららかな昼下がりだ。 「いいですね」 コーヒーをすすりながら応じる。 (陸奥さんは、いつも待っていてくれる)
(・・・襲撃もするけど) 耳の上にかかった梅を気にしつつ、取り払う事が出来ない。怖いし。
かぶき町の外れにある、ささやかな公園にささやかな梅林がある。 6部咲きと云ったところの梅の中で、ふたりは小さな売店の甘酒をすすった。 からん、と紙コップをくず入れに投げ入れ、陸奥は大きく伸びをする。 「自分で、伸びが出来る人って、安心します」 小さく折りたたんだコップを捨てながらぽつんと溢した。 ふん、と鼻で笑って「自分のことばそっちのけで、こがぁな些細な事も忘れゆう莫迦どもが羨ましいぜよ」。 口元だけで笑い、「俺は、しますよ。自分で」と応えれば 「それも自分のためゆうんがか、他の奴を守るためにしちょるんがじゃろ」 ああ ああ ああ 違う。けれど違わない。 自分のためで土方のためで、隊のためで、土方の想う局長のためで、そんな分類など出来ない。 ふいに鼻先を陸奥の頭が掠めて、足をぎゅうぎゅうと踏みつける。 「ほれ、宇宙ば向かって手ぇ広げるんは、気持ちいいがぜよ」 本当に、空の向うの宇宙に手を伸ばすように、手を広げてのばす陸奥の手は伸びやかで、他愛の無い行為なのに清々しい。 重ねるように手を伸ばし、広げ、思い切り伸びをする。
「叫ぶなよ」 猫の様に目を細め、伸びをしながら陸奥が云う。虹彩が光の加減で金緑に光るさまは本当に猫のようだ。 「何をですか」 怪訝な声で訊けば、「惚れてるヤツの名前とか」などとしゃあしゃあと云うので、 「云えるもんですか」 (今は何にも出来ないんだから、俺は) ぷいと顔を空に向けなおす。 低く笑う声が耳に入ってくるので、思わず閉じかけた瞼を見開き、睨むように真剣に空を見つめた。 (いつか、ね) 紅梅のあわいに、視界の端の陸奥が溶け込む。
END
またやってしまいました。どうにも陸奥と山崎って好きです、私。 白梅鑑賞の銀土、裏バージョンの紅梅感傷の陸奥山→土。 BGMは倉橋ヨエコの『楯』です、はい。 山崎もこの歌だし、土方もこの歌、ああ銀魂の青年は私が書くとどうしてこうおぼこいのかしら・・・。
メッセージを有難うございます!本当にうれしいです。
3月2日 ぱのらまさま 御元気ですか?私は花粉に咽いでおります。仕事柄での忙しい時期と引っ越しが重なり、この体たらくでございますが、元気にしております。 お気遣い、本当にありがとうございます。 アニメですねぇ・・・深夜にでもして欲しかったです、ええ。下ネタもですが、色々と大丈夫なのかと思うネタが多いので、どの様なストーリー構成にされるのかが気になるところです。
3月4日のアナタさま ここのところ銀土を書いておらず、申し訳ありませんでした。 何だか本編で萌え心が満たされてしまっていて・・・。他ジャンルで時間を食いましたが、心の基本は銀魂です。そして銀さんのいい男ぶりにメロメロになりつつ、土方を愛でております。 久しぶりに書くと、本当に楽しい銀魂。 一番お好みなのは銀土でらっしゃいますか?このように土方受け総当りですが、コンスタントに銀土→近のもっともベースの萌えは放出したいと思っております。 喜びの御声、光栄です!本当に有難うございます。 何かご希望のシチュエーション、設定などおありでしたらどうぞ御気軽にお聞かせくださいね。
3月8日のアナタさま アナタさまのメッセージのおかげで、この作品が生まれました。 最近に山崎を書いていたわけではなかったので、旧作を読んで下さったのかと思うと光栄で嬉しくて。 結局報われては、いないですが、山崎のあらゆるもやもやを抱えつつ見守り側に居続ける強さは、土方よりも柔軟で、だからこそ思い切り妄想爆発で陸奥と絡めて、少しでも報われて楽になって欲しいと、自分で書きながら自分の書く山崎には思います。苦笑。 メイン書いているわけではないキャラクターで、かなり偏った視点で描いているキャラクターへの心のこもったメッセージ、本当に嬉しかったです。 有難うございました!
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