銀の鎧細工通信
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| 2006年02月28日(火) |
腰抜けの姿勢 (銀土) |
「何コレ、イヨカン?」 起き抜けの銀時の目に飛び込む鮮やかな橙色。 つやつやと日差しを受けて輝く果実が小山を作っている。 「あ、おはようございます。デコポンですって、姉上が店で貰ったっていうんで」 既に皮を山積みにして貪っている神楽の横で、茶をすすりながら新八が応える。 「甘くて美味しいアル」 云いながら差し出す神楽の指先が黄色い。 「お前なぁ、ミカン喰い過ぎると黄色くなるんだぞ」 受け取りながらも、ほのかに香るそれはミカンのものとは違った。ふわりと微かに甘い。 「姐御が家に帰る前に二日酔いにもいいから、って置いてったアル。感謝しるネ呑んだくれ」 またひとつ、と手を伸ばしながら云う口ぶりは少しも甘くない。 「朝から酸っぱいこと云うなよ・・・」 ぼりぼりと頭をかきながらでっぱった蔕とは反対の部分に指を押し込み、瑞々しい果実の感触を楽しんでいるというのに、若い2人は「もう昼ですよ」「もう昼アル」と口をそろえて応える。 「あーあ、すっぺーすっぺー」 もそもそと口に含み、噛み締めてこぼれる果汁は、何となく春の気分がした。 神楽の過食で山が減った処で、「出しましょうか」と新八が腰を上げる。 「まだあんのかよ」 と驚けば、引き戸を開けた台所には、ゆうに5キロは入っていそうなダンボールがあった。 「これ・・・かかえて来たの?仕事明けに?」 朝焼けの道を両手で柑橘の詰まったダンボールを抱えてくるお妙の姿が浮かび、ありがたいような凄まじい光景のような、と複雑な心境になる。
とにかく量が量なので、傷んでしまう前にお登勢には新八が、平賀の爺さんには神楽がおすそ分けに行った。というよりか銀時が無理矢理追い出した。 「株上げて来いよ!」と怒鳴りつつぴしゃりと戸を閉める。
「・・・さて」 それでもまだ底が見えない箱を横目に見下し、「着替えよ」と銀時はひとりふらふらと部屋をうろつく。 ビニル袋にごさごさと放り込み、窓の外を見れば随分と曇っている。 近頃は曇りが続き、雨も多い。かと思えば少しばかり汗ばむくらいの陽気になる日もある。三寒四温たぁよく云ったもんだ、と思いながら転がったブーツを履く。
正門から入る事は先ず無い。 「どっから忍び込みやがった」と開いた瞳孔で静かに切っ先を突きつけられれば、大抵が「おたくのゴリラが門限過ぎに帰るときに使うんだ、って云ってねー」などとのらくらとそれをかわした。 実際は沖田がサボる際の出奔など、出入りできる箇所は複数把握している。
「んで、何の用だ暇人め。くれてやる仕事なんかねーぞ」 無愛想極まりなく煙草に火をつけながら隊舎に戻っていくのの後に続く。 「何その、めぐんでやる的云い方はさー。ほんっと礼儀を知らないよね土方君は」 あれ以来妙なところで母ちゃん口調が出てしまう自分に、銀時は複雑な顔で笑む。眉が下がるような、情けない、けれど脱力した緩やかな気持ち。 キレツボを心得ているので、口を挟ませる前に続ける。「めぐんでやりに来たってーのによ」 「頼んでねぇ」 と予想通りの答えを返すので、嫌がる土方を引き摺るように山崎の下へ連れだ出せれば、「わあ!デコポンだ!いいんですかこんなに頂いちゃって、わー美味そうだなー立派だなー」と満面の笑みを浮べる、真選組の母ちゃんが居た。 すぐさま「はいどうぞ、副長」と手渡される。 眉根を寄せて「なんだよ」の「よ」を云いきる前に、「ニコ中にはビタミンCが大切なんですよ」と、いつものおちょくっているの真剣なのか判然としない顔で応えられる。 ほれ見たことか、ニタァ、と見ずとも解る銀時に目を向けず、ポケットに入れてばつが悪い風に退散する。それに銀時がだらだらと付いて行く。 「何で付いてくんだ」 曇り空の風は少し冷たい。そこに混ざる香りに目を向けると、白梅が咲いているので「えー・・・ここの、梅が綺麗だなーと」と言い訳丸出しの口実。 ふいと顔を上げる仕草ひとつにも凛とした佇まいが滲む。 「ああ、・・・」黙りこむ口元に、穏やかな、笑い。 「思いだし笑いですか、うっわームッツリ」 何となく面白くなくて、冷ややかな茶化しをしてしまう。まるで子どもだ。でもこれはちっとも面白くないな、と心の中でごちる。 「違ぇーよ、去年に総悟とあの梅見てたな、と思い出してな。全くどっかの疫病神のせいで一年が早いぜ」 ますます面白くない、と思って「年なんじゃねーのか、単にそれは」と土方の吸いかけの煙草をむしり取る。 くつくつと土方が笑うので、いよいよ不快感を露骨に表して何だよ、と問うた。 「お前、きまり悪いと人の煙草取るの、自覚あるか?」 妙に得意げに、しかも眼差しなんか気持ち悪く優しげで、色々云い返してやりたい土方の癖たちは飲み込んだ。所詮、主に近藤絡みのものばかりだ。 「偶然だろ、おめーの妄想だよ」と、咥えたままふがふがと返すのみ。 「で、何が座り悪かったんだ?」 更に面白そうに畳み掛ける。覗き込んでくる目は、曇天の下では濃い黒と灰色だ。 調子に乗りやがって、「あんたと同じ理由じゃねぇ?」呟いた。 肯定しているのと同じ事だったが、少なくともこれでおあいこだ。
言葉を飲み込むため。 溜息を誤魔化すため。 他、いろいろ。
痛いところを突かれれば、また煙草に火をつける。それを制すように、いきなりポケットに手を突っ込む。 うお、何だてめぇ!!という怒声は無視してデコポンを取り出す。 「はい、こっちにしなよ」
同じ飲み込むでも、甘く優しいものの方がいい。 何かを誤魔化し、遣り過ごすなら、前向きなものの方がいい。 何かが実際に進むわけではなくても。
渋々ではあったが、どちみち食べる気づもりはあったのだろう。土方は大人しく皮に指先を食い込ませた。 去年に沖田と白梅を眺めて、非番の日を過ごした縁側に腰掛ける。銀時もそれにならう。 「おら」 ぶっきらぼうに突き出された、半分この果実。
(俺にも飲み込めって云うわけ)
今の何もかもが生温く、無様で、みっともなくも切実な、壊したくない関係と反比例する想い。 それに踏み込みきれない、同じく無様でみっともない曖昧な関係性。
(腰抜けは御互い様か)
受け取りながら、差し出された手を引き寄せて口付ける。
甘ったれた現状に、ふさわしい酸いを。 利口な振りして、臆病なだけの願いに、似つかわしい苦さを。 薄く儚い花びらでも、ほころぶ花の力に。 その力強い枝に、幹に、無骨な様に。
「こんな所で何考えてやがる!」と振りかぶられた拳を受け流して、クロスカウンターでもう一度口付ける。 「減るモンでもあるめーし、何をカマトトぶってんだか」 少しだけ顔を離し、微かに唇を触れさせたままぼそりと呟いた。 3回目はキスではなくて頭突きを食らわせ、何が何だか混乱して真っ赤になったり真っ青になったりしている土方を尻目に、房を口に放り込む。 「お」 西瓜でするように種を噴いた。 植え込みに紛れて落ちた。 「芽が出たら、いーよね」 平静を装おうとする動揺を押し殺し、「そりゃ、いいな」と云って土方も放り込んだ房から種を飛ばした。 「あ、こりゃ美味ぇや。もう少し貰って来るかな」 素直な反応で立ち上がる。 「俺も」 と立ち上がれば「土産にありついてくなんてホンット図々しいな、てめーは」と厭そうに毒づいた。 「んだと、またチューするぞマヨネ野郎」 肘鉄が鳩尾に入る。 前かがみで呻く視線に、植え込みが飛び込む。
(腰抜けの芽が出たら、何か変わるかねぇ)
自分の発想のセンチメンタルさに気色が悪くなり、 「あーあ、すっぺーな、オイ」 と云って大股で土方を追い越す。
曇り空に梅の香り。 指先からは柑橘の香り。
END
Coccoの「音速パンチ」より触発、かつ梅見に実際に行ったので、去年も沖土と近高で書いた「白梅」「紅梅」を踏襲しつつ、今年は銀土にしてみました。 てことは、カップリングを変えて紅梅も書かねば?(妙な生真面目さ) て、ことで「紅梅」も浮かびました、三寒四温です、皆さま御自愛くださいませ。
BGM:Cocco「音速パンチ」MAXI
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