銀の鎧細工通信
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| 2005年06月03日(金) |
アカシアの雨がやむとき (坂土) |
このまま死んでしまいたい。
俺を殺せ、俺を。 殺せ殺せ殺せ殺せ、俺の心を殺せ、俺の感情を殺せ、俺の想いを殺せ、 刀を握る腕と、走れる足と、あの人が見える目が、あればそれでいいから。 俺を殺せ。 俺の心を殺してくれ。 俺の口をふさいでくれ、もう何も云わずに済むように。 何も云わずに済むように。
まだ入梅も前だというのに、此処のところ夕立ちのような雨が降る。 にわかに曇り降り出す雨は地熱を乱雑に散らし、行き場の無い熱は 大気中でこもってどよりと沈んだ。 重ったるい湿気、重ったるい濡れたシャツ、土煙を巻き上げて夕立は乱暴に 土方の身を打った。 煙草がだめになる、と思って胸ポケットからズボンの前のポケットに仕舞いなおす、ここなら刀の柄で濡れにくい。 目を細めて顔を上げる、雨粒が痛い。
木陰に入って、ごまかし程度の雨宿りをする。
このまま死んでしまいたい。
すうと目を閉じた。 立ったまま、雨に打たれて、刀だけ抱えて、このまま。 帰らない自分をあの人は探すだろう、 湿気ばかり立ち込める冷えた空気の夜の中、冷たくなった自分を 見つけたらあの人は駆け寄って泣くだろうか。 ああ、涙を流すだろうな。 でも、それは違う。そうじゃなくて。
このまま死んでしまいたい。
緑の匂いが取り巻く、息苦しいほどに。 土方は溜息をつく。
ふと携帯が着信を知らせた、「坂本」の着信を知らせた。
「・・・もしもし」
「おう、土方、なんばしちゅう?」
「仕事中だよ。もっともこの雨の所為で今は雨宿りだ」
「じゃあ丁度いいきにゃ、ちいと寄っていかんか」
「お前のちょっとはアテにならねえからな、適当に切り上げるぜ俺は」
「構わん構わん、いつもの旅籠に居るがじゃ、寄っとうせ」
「・・・おう、じゃ−な」
電話を切ると、また溜息をついて木陰から空を見上げた。 もっとも、空は見えないし、葉から零れ落ちた雫が目の淵に落ちてきて、 土方は目を閉じる。頬を水滴が伝う。
・・・このまま、
するりと木陰から飛び出ると、夕立の中を土方は駆けた。
「おうおう、ズブ濡れじゃのう!」
「云ったじゃねーか、雨宿りしてたって」
「出来てないじゃのうか、あっはっは、まっとれ拭くもの持ってきゆう」
坂本はいつもにこにこしている。 人好きする優しさや寛容さを変えない。 それは、安心できるものではあったけれど、 土方の胸を酷く痛ませるものでもあった。
「ほれ」 とタオルを投げ付けられた、わしわしと髪から拭く。 どうせ隊服もズブ濡れだ、肩からタオルをかけて煙草を取り出す。
灰皿を前に置いてやりながら 「土方は不思議な奴じゃな」 と口角を上げながら云う。
「何がだ」
坂本は答えない。 ただ小さく微笑んでいる。
「放っておけよ」
ぽつりと呟く。
「放っておけよ、俺のことなんざ」
窓の外の雨音は優しい、 坂本と居る空間は優しい、 安心して、気が緩む。
でも。
放っておけない、と構われる事の 優しさは苦しい。 同情も憐れみも心配も要らない、要らなかった。 要らないのだと思いたかった。 すがりたくないから。 いつか突き放すのなら抱いてなど欲しくなかった。 否、それでも本当は良かった、 今安心して過ごせればそれだけでも良かった。 だからこそ欲しいのは、同情なんかじゃなくて、 泣き言なんて云いたくもないし、
土方の背後から坂本がぎゅうと抱き締めてくる。 力いっぱい込められた力に息をか細く吐き出した。
「濡れるぞ」
「構わん」
坂本は嬉しそうだ。 土方も嬉しかった、だからこそ痛む。 坂本の体温の高さがとても気持ちの良いことも、 自分の気持ちを知って尚抱き締めてくることも、
止めてくれ、
放っておいてくれ、
どうせ捨てるなら、
一人のほうがいい、
飽きられる人形なら、
知らない方がいい、
人の体温なんか、
このまま死んでしまいたい。
雨はやまない。
土方は何処にも行けない。
END
『悪夢症』シリーズ?にコメントを下さったアナタさま、 ありがとうございます。 あれね、本当に歌そのままなんですよ。苦笑。 それが私には沖土に聴こえたから、そうアレンジをしただけなんです。 沖田は、土方の心が近藤から離れない事を知りながらも「連れて行く」と 云えるから、まだ素直なのかも知れませんね。 他の誰も云えないでしょう、土方はましてや云えないでしょうねえ。
今回は浜田真理子の『アカシアの雨がやむとき』から触発。
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