銀の鎧細工通信
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2005年02月28日(月) 痕跡 (榛名阿部:おおきく振りかぶって)


憧れなんて甘いものは何処にも無かった、
ただ苦い苦い砂の味、
ただ鉄臭い血の味、
ただ吐き戻した胃液の味、
ただ滝のように流れて滴る汗と涙の味、
全身全霊の残酷なセックスの様な関係。
信頼なんて何処にも存在しないバッテリー。


「おい・・・阿部、大丈夫か・・・?」
「・・・っす、へ、いきだから・・・、せんぱ・・・
帰って、いいす、よ・・・」
更衣室の横にある流しで、ひたすら吐き続ける阿部の背を
撫でているシニアの先輩は、その頑なな態度に、
心配を丸出しにした声で
「無理するなよ」
と云い残して帰って行った。

榛名と組んでから1ヶ月と半。
全身、特に腹部から胸にかけてが酷く熱を持っている。
触るとぐにゃりとした嫌な手ごたえで、鬱血が重く腫れているのが解る。
冷や汗をかき続け、くらくらと歪む視界、がんがんと割れそうな頭、
吐くものなど何も無くても、内臓ごと揺さぶられる様な吐き気に
逆らえない。
意識を手ばなしかけたその瞬間、
「あれ、何してんのタカヤ」
阿部の目が見開かれ、ぴりっ、と体が震える。

一人で自主練をしていた榛名までも帰る時間になっていた、
(何時間吐いてたんだ俺・・・)
「・・・んでもないっす」
意地だけで体を起こし、榛名の出てきた更衣室へふらりと向かう。
戸口に立っていた榛名は、近付いてきた阿部の顔を見て呑気に云う。
「うぅわ、すげェ顔色」

誰のせいだ、と思いながらも、それでもこの人の捕手を辞さないのは
自分の決めたことだ、と思いながら阿部は無言で擦れ違う。

もうロッカーを開けるのすらやっとの思いで、阿部は着替えに取り掛かる、
練習後にかいた冷や汗ですっかり体が冷え切っている。
あちらこちらが悲鳴を上げ、激痛が走るけれど
これ以上体を冷やす訳にはいかない。
ぎしぎしと歪む体で脱ぎ捨てたアンダーシャツは、床に落ちて
濡れた音をたてた。
「きったねえカラダ」
榛名がドアを閉めながら、室内へ戻ってきている。
チェシャ猫を獰猛にした様な顔で笑う。
「・・・戸、締り、しとく・・・んで、帰ったら・・・ど、っすか」
誰とも口もききたくない、一人にして欲しかった。

阿部は更衣室内にある小さな洗面台で、手と顔を洗い流し、
頭から水をかぶる。
排水溝へ流れ落ちる水は、黒く砂混じりで、時々血が赤く落ちた。
流すだけ流して、顔を上げると、洗面所の前にある鏡に写る阿部の
背後に榛名が立っている。
「?!」
振り向こうとすると、そのまま背中越しに鏡の横に両手を付かれ、
阿部は鏡を見据えたまま、洗面台と榛名に挟まれる体勢になった。


「なん、すか。濡れますよ」
精一杯何でもない振りを装う。榛名はニヤニヤ笑いをやめない、
目だけが残酷にぎらついている。

阿部の背後から、その首筋に顔を寄せて
「お前が壊れても、俺はほっておくぜ?」
と、冷たい声で囁く。

榛名の長めの髪が阿部の首と肩をするすると滑る、
まるで蛇が体をはっている様だと、ぞっとする。

「なあタカヤ、何でお前こんなになるまで体張ってんの」

榛名の指が、掌が、阿部の痣だらけの体を撫でる。
阿部の垂れ目が揺れた、すぐに負けん気の強い色に戻る。
「じ、ぶんのために決まってんだ・・・ろっ」
流しに付いた拳を硬く硬く握り締める。
顔を上げて、鏡に写った榛名を真っ直ぐに睨みつけた。


「俺、の他に、あんたの球捕れる、キャッチはいねェんだ!
それを、忘れんな・・・っ!!」


榛名がニイ、と笑った。酷く満足そうに。
「やべ、勃っちまった」
「!?・・・元希さ・・・っ」
強引に阿部の体を振り向かせると、自分の投げた球で傷付いた
痣をひとつひとつ舐め、強く吸って痕を付ける。

ただでさえ熱を持って腫れて痛む痣に、鋭い痛みがチリリと走り、
阿部は脱力しかけるが、榛名の腕がそれを許さない。
「い・・・って・・・つ、・・・う」
ゆるく抗い、身を振るわせる阿部に榛名は云い放つ。


「お前は、俺のモノだからな。忘れるな、タカヤ」




榛名と、最悪のセックスをしはじめたのはその日からだった。
痣と傷に、更に痕跡を付ける榛名。
「俺を無視するな」という主張。
榛名の全身が、阿部の全身に刻み込まれる。
切り刻まれて、叩き込まれる。
痛みも快感も訳が解らなくて、ただ必死なセックス。



故障で使えなくなったら見向きもされなくなったエース、
その壁になって向き合った捕手。
二人とも退けない。
野球でもセックスでも、互いを飲み込みあう。
その痕跡が消えない位。




END

『おお振り』初です。
3巻をようやく買ったのですが、あまりにミハベでハルアベだったので、
もう辛抱堪りませんでした。
「阿部君には 俺が 投げる」は最高にエロかったですよ!!!
榛名も阿部君意識しまくりだしで、もう阿部モテモテ。
痛々しい受けとしては、高校生にして土方をも超えるかも知れない。笑。


『おお振り』をご存じない方ごめんなさい。

★れす★
28日ゆいさま
沖土感想有難うございます!というか、いつも有難うございます。
いやあ、ドキドキするシチュですよね。周りに人が居るってのは、笑。
まどろみながら、ある意味では弱っている沖田と土方、
思い出しても、忘れられなくても、胸をよぎっても、もう帰れない場所と
いうのは切ないですね。
攘夷組にしてもそれは同じだと思うのですが、真選組は別に刀を捨てないで
済めば、警察でなくても良かったわけなので、幕府の犬というのは
息苦しいんじゃないのかな〜と勝手に妄想しています。

ジャンプSSじゃないので、こちらでレスをお返ししても
気が付かないのでは?!と今気付きました。・・・うう・・・。







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