人生事件  −日々是ストレス:とりとめのない話  【文体が定まっていないのはご愛嬌ということで】

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2003年06月06日(金) それはとても晴れた日で

なにも、こんな晴れた日に。

午後、事務所内には私とMさんのふたりだけで、「いいお天気だわ〜。電話しても不在のおうちが多いし、今日はお出かけ日和なのかもねえ。こんな日は、何事もなく終わるといいわねえ」とゆったり仕事をしていた。
そんな中、若い女性がひとり、事務所に駆け込んできた。受付時間終了間際とか、そんなわけでもない明るくまぶしい日差しの時間に、何故か急ぎ足で。

「すみません、お聞きしたいことが」

少し、おかしな声音だった。丁寧に話そうとしているようなのに、どこか乱暴でヒステリックな響きを持っていた。

私は窓口に背を向けて事務作業をしていた。だから、同僚のMさんが直接対応した。
「どうしたの?」普段から、やさしいやわらかな声のMさんが尋ねた。

「あの、お腹の子……流産しちゃって、母子手帳もらってたから、どうしたらいいのかと、思って」

言いながら、女性は泣き出した。

今病院受診をしたら流産していたと。自分は流産していたことすら知らなかったと。明日お腹の中をきれいにするからまた来るようにと言われたと。なんでだめになっちゃったのかわからないと。
そう、泣いた。

市町村でもらった母子健康手帳は、どんなことがあっても返品しなくてもいい。妊娠した女性と、その赤ちゃんの為にあげた一冊なので、返してもらっても事務所側は破棄するだけ。持っているのもつらいのであれば返してくれてよいし、記念とひとつの生命の存在を忘れないために持っていてもいいもの。自分で捨ててくれたっていい。
女性は、持ち帰ることを選んだ。

しかし、医師は「お腹の中をきれいにするから」だなんてことばに置き換えているけれど、それは掻爬術のことだ。その字のごとく、金属匙などで身の内に残った児以外のもの、胎盤や羊膜をを掻き出す作業。
突然児を失ったかなしみにくれている元妊婦に、病院側はどう説明して施行し、その後どうメンタルケアしてくれるのか。心配になった。

私は何で、他人事ばかりじゃないことを人一倍見聞きする、この職業を選んでしまったのだろう?

女性が帰ってからも、私の気持ちはさざめいていた。


佐々木奎佐 |手紙はこちら ||日常茶話 2023/1/2




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