一度だけの人生に
ひろ



 愛しきれない現実

諦めよ、わが心、獣の眠りを眠れかし。(C・B)

チェホフだったか・・・。

「八十八夜」のエピグラムに
太宰が引用したこの言葉。
主題は、だいたい同じような
ものだろうと思うのだけど、
僕は、この言葉は「春の盗賊」に相応しいような
気がしてならない。

僕は、未だに「春の盗賊」の中の太宰に
激しく同情し、溜息をもらしてしまう人間だ。

変わりたくない。
けれども、変わらねばならない。
変わらなければ、とてもいられない。

諦めよ、わが心、獣の眠りを眠れかし。

諦めよ

わが心





「私は、いやになった。それならば、現実というものは、いやだ! 愛し、切れないものがある。あの悪徳の、どろぼうにしても、この世のものは、なんと、白々しく、興覚めのものか。ぬっとはいって来て、お金さらって、ぬっとかえった。それだけのものでは、ないか。この世に、ロマンチックは、無い。私ひとりが、変質者だ。そうして、私も、いまは営々と、小市民生活を修養し、けちな世渡りをはじめている。いやだ。私ひとりでもよい。もういちど、あの野望と献身の、ロマンスの地獄に飛び込んで、くたばりたい! できないことか。いけないことか。」

『春の盗賊』


2004年04月25日(日)
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