一度だけの人生に
ひろ



 幻灯

「恋をしたのだ。そんなことは、
全く初めてだった。それより以前には、
私の左の横顔だけをみせつけ、私の男を売ろうと
焦り、相手が一分間でもためらったが最後、
たちまち私はきりきり舞いをはじめて疾風の如く
逃げ失せる。けれども私は、その頃全てにだらしなくなっていて、
ほとんど私の身にくっついてしまったかのようにも
思われていたその賢明な、怪我の少ない身構えの法を
持ちこたえることが出来ず、いわば手放しで、
節度のない恋をした。好きなのだから仕様がないと言う
嗄れた呟きが、私の思想の全部であった。
25歳。私はいま生まれた。生きている。
生き、切る。私はほんとうだ。
好きなのだから仕様がない。」

太宰治 『ダス・ゲマイネ』より


恋。恋?
まさか?と言う感じです。
どうでしょうか?

22年間生きてきて、自分から、
人を好きになることは、ほとんどなかったし、
その数少ない経験も、もう何年も前の話である。
恋?恋かしら・・・わからない。

他人から「本当に好きなん?」
って聞かれて、思わず「好き・・・だね」と
言ってしまった。そう言いながらも、
「好き・・・なのかな・・・」
と言う疑念が沸いてきて・・・。
「好きってなんなんだ?」と言う
わけの分からない所まで行ってみたり・・・。

「冗談で好きって言ってんじゃないよね?」
僕の普段のキャラクターを考えれば、
そう思うのも分かるような気もする・・・。
それに対する僕の答えは我ながら、
実に意外な、本当にビックリするような一言、
「冗談で好きなんて言えないよ。」
不意に出た自分の言葉に驚いて、思わず、
自分で確かめるように二度繰り返す。

「冗談で好きなんて言えないよ。」
「冗談で好きなんて言えないよ。」

勝算の薄い恋である。
それは、分かっていた。
打算の非常に強い僕が、それを分かっていて、
それで思わず出た言葉が、「好き」。

『好きなのだから仕様がないと言う
嗄れた呟きが、私の思想の全部であった。』

恋、でしょうか・・・。


2002年12月06日(金)
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