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2015年11月29日(日) 興醒めの「チャンピオンシップ」(Jリーグ)

28日、Jリーグチャンピオンシップ準決勝が埼玉スタジアム(浦和H)で行われ、延長戦の末、G大阪が浦和を3―1でくだし、決勝進出(対広島戦)を決めた。マスメディアからはこの試合について、熱戦、気合の入った白熱の戦い…等々の賛辞が贈られたようだが、本当にそうだったのか。筆者にはあらゆる面で、興醒めの興行にしか見えなかったのだが――

得点シーンはミスがらみ

試合の詳細についてはここに書かない。大雑把にいえば、前半終了間際(47分)、浦和DFのミスからG大阪(今野)が先制。そして後半(72分)、セットプレー(CK)からの混乱状態から浦和(ズラタン)が追いつく。延長後半、G大阪が信じられないバックパスでOGしそうになった直後、気の緩んだ浦和DFの間隙をぬってG大阪がカウンターを仕掛け、藤春が勝ち越しのゴール(118分)。タイムアップ直前、放心状態の浦和DFのミスから、G大阪(パトリック)が3点目をあげて終了といった具合だった。

120分(90分+30分)を通じて、両チームが攻撃の形をつくって得点を上げたシーンはゼロ。それだけ守りが固かった、という表現がメディアでは許されるのかもしれないが、120分で4点も入っている試合なのだから、堅守の戦いだったとはとてもいえない。前出のG大阪のOGが決勝点になっていたら、後世まで笑い話として語り継がれる「準決勝」になったかもしれなかった。 

意味のないイベント興行

この準決勝とは、いったいなんなのか。端的にいえば、「チャンピオンシップ」と銘打たれたイベント興行にすぎない。日本では、プロ野球が米国MLBのポストシーズン制度を真似たクライマックスシリーズ(CS)を開催して人気を博し、Jリーグがそれを真似て今年から開催するようになった代物。

「チャンピオンシップ」開催に合わせて、Jリーグは前後期の2シーズン制度を敷き、今年の組合せは、前期優勝の浦和と、年間勝点数3位のG大阪の対戦が準決勝、そして、決勝は、今回勝ち進んだG大阪と年間勝ち点1位(かつ後期優勝)の広島の対戦となっている。

欧州等のリーグでは1シーズン制が主流。リーグ戦で最も多い勝ち点をあげたチームが優勝者(=チャンピオン)であって、それ以外の優勝者は存在しない。あたりまえだろう。長いリーグ戦を勝ち抜いたチームこそが勝者であって、偶然性の高い一発勝負の試合の勝者をチャンピオンと呼ぶのは理屈に合わない。

ポストシーズンを生んだ米国の特殊性

そもそも、米国MLBでポストシーズンが考案されたのは、広い国土(日本の約25倍)に、30チーム(日本プロ野球のチーム数の2.5倍)が点在する、米国という特異なマーケット事情が背景にある。われわれは“MLB”と一言で使うが、米国の西地区と東地区では時差があり、風土も住民の意識も違う。だから、ポストシーズン制度に意味が出てくる。一方、日本や欧州諸国(イングランド、イタリア、スペイン…)のような狭い国土のサッカーリーグではポストシーズンを行う意義が見いだせない。

日本のプロ野球及びJリーグのポストシーズン制度は、フルマラソンの終わった直後に、1位から3位のランナーを集め、彼らに向かって、さらにグラウンドを一周しろと命じ、その勝者を「チャンピオン」と呼ぶのに等しい。そこで勝ったからといって、なんの意味があろうか。

一発勝負ならば、ACLで腕を磨け

「チャンピオンシップ」は、Jリーグの人気低落傾向に歯止めをかけるため、広告代理店とJリーグ事務局が合作したイベント型集金興行。冠をつけることによって、興行として高く売れる。広告代理店はメディアを使って、ナイーブ(うぶ)なサッカーファンを焚き付け、負けたら終わりの短期戦で熱狂させる。

メディアのサッカー解説者諸氏は、「こういう(緊迫した)試合を経験することによって、選手はまちがいなく成長しますね」なんて賛辞を惜しまない。しかし、Jリーグという鍋をいくらかき回しても、いい味は出てこない。中味(具、出汁)も調理人も同じなのだから。短期戦だから選手のモチベーションは高まるだろうが、相手はリーグ戦で知り得た、仲間のような存在。なれ合いとはいわないが、一度ついた勝負のあと、知ったもの同士が改めて場を設けられ競い合っても、真の成長は期待できない。「チャンピオンシップ」は井の中の蛙、Jリーグはガラパゴス的進化を遂げたいのか。

Jリーグがレベルアップを望むのならば、このような「国内イベント」で偽の緊張感を高めるよりも、ACL(AFC Champions League/アジアチャンピオンリーグ)にこそ力を入れるべきだ。ACLは予選リーグと決勝トーナメントで構成されており、日本のクラブはアウエーにおける緊張及びそれによって生ずる移動に対する耐久性を養うことができる。もちろん、負けたら終わりのトーナメントも経験できる。対戦相手も未知の場合が多いし、レフェリングもJリーグとは異なる。しかし、日本のJリーグ関係者及びメディアは、ACLには冷淡である。ヨーロッパサッカー界が、UEFAチャンピオンリーグ(UEFA Champions League)で盛り上がるのとえらい違いだ。

ACLで勝てないJリーグ勢

おもえば、この日の敗者・浦和レッズは、ACLで優勝したことがあった(2007年)。当時の浦和レッズは補強に積極的で、いい選手が集まっていた。ブラジル代表経験のあるFWワシントン、ドイツリーグで活躍したMFポンテの決定力は、アジア最強だった。

浦和もJリーグも当時上昇基調にあり、人気、実力ともアジアでナンバーワンを誇っていた。しかしあれから8年余り、Jリーグはわけのわからないポストシーズンで収入アップを図ろうとしている。もちろん、ACL優勝とは無縁状態が続いている。Jリーグ勢は、G大阪が浦和に次いで優勝した2008年を最後に、決勝進出していない(09年、○浦項―×アルイテハド、10年、○城南―×ゾブアレン、11年、○アルサッド―×全北、12年、○蔚山―×アルアハリ、13年、○広州―×ソウル、14年、○Wシドニー×アルヒラリ、15年、○広州−アルアハリ)。ごらんのとおり、東アジア地区では、韓国、中国、オーストラリアのクラブに歯が立たない状態が続いている。

日本代表にも悪影響

この先、「チャンピオンシップ」の開催によりJリーグのクラブが実力を高め、ACLの決勝に駒を進められるかもしれない。Jリーグに限らず将来の姿は誰も見通せない。だから、「チャンピオンシップ」の効果はこれからだ、と主張されるかもしれない。もちろん、その可能性を否定できない。

だが筆者は、「チャンピオンシップ」導入による悪影響の方に注目している。Jリーグ各クラブがいまの低迷を脱せる契機になるどころか、日程の過密化により、Jリーグ運営に支障をきたした。むろんその結果として、ACLへの取り組みに悪影響を及ぼした。困ったことに、各クラブへの影響にとどまらず、東アジア杯、W杯アジア予選等々の代表の公式試合にも悪影響を及ぼした。Jリーグの選手、そして代表選手の負担を重くしている。

Jリーグ関係者が「チャンピオンシップ」という即席の収入アップに目がくらみ、日本サッカー界において「金の卵」を産み続けている代表の強化ならぬ弱化を招く。その弊害は、Jリーグにとどまらず、日本サッカー界全体を脆弱化させる。筆者には、「チャンピオンシップ」は質の悪い麻薬のように思える。


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