J1開幕戦では、4強(鹿島・浦和・G大阪・川崎)のうち、勝点3を上げられたのが、鹿島のみという、不穏なスタートとなった。とりわけ内容が悪かったのが浦和だ。ワシントン放出、長谷部、小野の移籍、ポンセ、三都主の故障が重なり、攻撃が中盤から前線につながらず、豊富な攻撃の駒がまったく機能しなかった。昨シーズンも浦和はこういう悪い試合が少なからずあったのだが、ワシントン、ポンセの個人技で勝点を稼いできた。内容は悪くてもワシントンの個人技で得点を上げて引分や勝利を手にしてきたのだ。ところが、エジミウソン、高原にはワシントンの代役は務まらない。
高原については、既に当コラムで何度か書いたように、彼は前線で攻撃の基点になるタイプではない。ブンデスリーガにおける彼の役割は、ゴール前に飛び込む動きやこぼれ球に反応する動きで得点に絡むことだった。彼はJリーグでは大型ストライカーだが、ドイツではアジリティーに秀でたFWである。だから彼の得点は、一瞬の隙を突いた場面や、混戦状態、守備の裏をとった場面、GKとDFの間に飛び込む動きから、あるいは、素早い反転力で得点を取るケースが多い。
それに反して、昨年、浦和の得点源となったワシントンの場合は、ペナルティーエリア内でボールを受けると、その体力で相手DFを飛ばす力をもっており、強引に個の力で得点シーンを切り開いていった。日本のDFの多くはワシントンの重量の使い方に不慣れなため、やすやすと、ペナルティーエリア内で彼に仕事をされ、失点につながった。
横浜は、高原に中澤をつけ、さらに、小宮山、松田までが潰しにかかって高原から自由を奪った。ワシントンなら跳ね飛ばされた横浜のDF陣も、高原なら互角である。逆に高原が中澤に跳ね飛ばされるシーンすら見られた。浦和がワシントンを失った穴を埋めるには、トップ下のポンセのキープ力と判断力を必要とする。そして、昨年までの「ワシントン、よろしく」式の攻撃パターンを脱して、高原、エジミウソン、ポンセのコンビネーションを熟成させ、さらに、サイド攻撃との関連づけを高度化しなければならない。昨年のように、サイドからのクロスをワシントンが受け止め、相手DFを振り払ってシュートという、単調な得点シーンは期待できない。
たとえば、サイドがボールを奪ってライン沿いに上がってクロスを上げた場合、バイタルエリアでボールを受ける役割は、基本的に高原なのか、エジミウソンなのか、それが決まっていれば、エジミウソンが前ではらなけば意味がない。高原がやや下がり目で動き回り、ポンセの代役の山田もしくは梅崎が2列目というポジションが基本形となろう。ところが、筆者の印象では、エジミウソンが得意とする攻撃の形は、ポストプレーよりも、ペナルティーエリア付近でパスを受けてドリブルからシュート、もしくは、スルーパスに反応して相手DFの裏を取りゴールに向かうという印象をもっている。
ポンセが負傷してその代役となった山田は、もともとサイドの選手。使うタイプではなく、使われるタイプである。ポンセの故障の穴を山田が埋めるという起用は難しい。ポンセの故障は昨シーズン後半からわかっていたことだが、浦和首脳陣は長谷部、小野を放出してしまった。梅崎をポンセの代役として獲得したというのならば、開幕戦で梅崎を先発起用しない理由が説明できない。
いうならば、浦和首脳陣に慢心があったのだ。ACLを制し、クラブW杯に出場してACミランと戦ったことで、「世界的クラブ」と錯覚をしてしまったのか――日本のマスコミの誇大報道が浦和首脳陣に慢心を誘い、高原、エジミウソンの獲得、三都主の復帰で、用意万端と錯覚してしまったのか。
では、ポンセが復帰するまでの期間、浦和はどのような態勢で臨めばよいのか。換言すれば、ポンセの穴を梅崎で埋めるか、それともほかに妙案があるのかということになる。前提として、ポンセのみならず、三都主も故障でしばらくは復帰できないとする。
第1案となるのは、梅崎のトップ下起用である。この場合、システムは4−4−2のほうがよい。CBに坪井、闘莉王、SB(左)相馬、(右)平河、MFはボランチに阿部、鈴木、第二列目として、(左)梅崎、(右)に山田、FWは高原・エジミウソン。
第2案は、最強のポリバレントプレイヤー・阿部をトップ下で起用する。阿部は、ジェフ時代にトップ下の経験があるはずだ。この場合も4−4−2で、第1案の梅崎の位置に阿部が入り、阿部の位置に内館もしくは堀の内が代わりに入る。
第3案は、 開幕戦と同様3−5−2のシステムで、DFに坪井、闘莉王、堀之内、MF(ボランチ)阿部、鈴木 攻撃的MFに相馬、平川 、山田、FWにエジミウソン、高原となり、この形が熟成するまで敗戦覚悟で我慢する。
いずれにしても、浦和のコンビネーションが熟成するまではしばらく時間がかかる。浦和がもたもたしている間に、他のクラブが浦和から勝点を稼げれば、浦和の優勝の確率は低くなる。今シーズンはどのクラブも故障者が多い。手堅い鹿島が、序盤で貯金をするようだと、筆者の予想が外れて、鹿島独走の芽も出てきた。
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