先月、プロ野球西武の調査委員会は、高校・大学・社会人の監督ら延べ170人や契約前の5選手に不適切な金銭供与があったと公表した。高校野球が純粋な「アマ」でないことを筆者は何度も書いてきたのだが、このたびの裏金問題は、不適切な金銭供与があった者の名簿を開示することが、問題解決を大きく前進させる。すべての報道機関は、このたびの裏金問題の根源的解決方法の1つとして、プロ側から金銭等を受け取った者の名簿を開示するよう、西武側に求めるべきだ。
それに反すかのように、最近、A新聞が高校野球を巡る「悪の」キャンペーンを開始した。記事の内容というか傾向は、純粋な野球高校生の周囲に蠢く悪い大人たち――という構図で貫かれている。しかし、野球高校生で最も金儲けしている張本人がA新聞なのであって、スカウトやウ裏口入学斡旋業者等はA新聞の派生物にすぎない。
さて、一般論では、贈賄・収賄はセットになっている。ある目的のために賄賂を贈る者がいて、(それが賄賂だと知りながら)受け取る者がいる。贈る者は悪いが、相手がそれを受け取らなければ成立しない。賄賂を贈ろうとしたことを告発すれば、贈ろうとした者には制裁が下る。
贈られた賄賂を黙ってポケットに入れれば、そこで収賄が成立する。このたびのプロからアマに向けた金品の贈与に対して、それを受け取った側の顔が報道から見えてこない。受け取った者の数が多すぎて報道しきれないのか、報道するとその影響が大きすぎるから報道しないのかのどちらかしかないのであって、筆者は後者だと確信する。「アマ」の指導者として社会的地位が高い者が実は、プロから金品を受け取っていたのではないか。おそらく、野球好きの人なら、あれ〜あの人が・・・というくらいの人物ではないか。
西武球団を叩くのは簡単だ。西武側は金品の贈与を認めているからだ。西武の謝罪が足りないとか、調査が不十分だとか新聞に書く記者がいるようだが、そんな駄文を書く前に、西武等のプロ球団から金品を受け取った「アマ」の指導者を実名報道したらいい。金品を受け取った理由、それについてどう考えているのか、金品授受が発生する構造は何か・・・野球好き、野球嫌いを問わず、だれもが、このたびの問題の本質を知りたいはずだ。新聞記者ならば、その核心を取材して報道してほしい。
これまで、筆者は推測を書いてきた。その一端を繰り返せば、裏金の発生の原点は、「アマ」の指導者が果たしている役割に比して、彼らの収入が低いことだ。指導してきた「球児」たちは、卒業してドラフトに係りプロ球団と契約すれば、一般高校生が就職して得る年収の10倍以上が契約金として入手できる。ところが、指導者の年収はせいぜい、学校の職員もしくは教員よりもましくらいなものだろう。もしも、指導者が学校職員等に比して以上に高い収入を得ていれば、指導者は「アマ」でなくなる。そもそも、「アマ」の建前では、高校野球は高校生の部活(サークル活動)のはずだから、特別な(プロフェッショナルな)指導者が存在すること自体が不正に当たる。
普通の高校における部活指導は、名目的な顧問の教師が一人いて、先輩がその任に当たる。筆者が高校時代(公立高校の場合)に属していた格闘技系の部活の場合、現役及び卒業した先輩が指導者であった。対外試合の場合であっても、顧問教師が引率することはない。公式の大会予選等の場合だけ、顧問教師が引率した記憶がある。もちろん、顧問教師に特別な手当てがあった話は聞いたことがないし、先輩が高校から手当てを受け取ったこともない。指導料、交通費・用具用品等々に係る経費はすべて自己負担だ。とにかく、こうした環境からは、プロですぐ活躍できるようなスポーツ高校生は育たない。
普通の高校生の関心事としては、受験勉強、恋愛、読書、音楽、ボランティア活動・・・そして、スポーツとしての「野球部」がある。もちろん、高校生活を「野球」に絞り込む高校生活もある。そのうえで、スポーツの天才の存在も否定できない。高校生として必要な学力を身につけ、そのうえで、部活としての野球をやり、卒業後、プロ球団と契約できるようなスーパー高校生もいないとはいえない。いないとはいえないが、いまの「甲子園球児」がそうでないことは明白だ。「甲子園球児」というのは、レベルの高い野球中学生を野球専門高がスカウトし、彼らに専門の指導者をつけて集中して練習をさせ、対外試合・練習試合等の過程でレギュラーと補欠を選別し、選ばれた精鋭が予選大会に送り込まれ、そこで勝ち抜き甲子園大会出場を決めた者なのであって、特別の才能、特別な環境、特別な指導・・・の下に野球をする高校生たちなのだ。
特別な指導と書いたところで、このたびの裏金問題に戻る。裏金問題の片側の主役・収賄側の指導者たちは、特別な役割を果たしながら、自分達が育てた「球児」が多額の契約金でプロ球団に入り込む様子を片目で見ながら、心の中では自らの報酬の低さに愕然としているのではないか。報われない清廉なる「アマ」精神を馬鹿馬鹿しく感じたのではないか。もしそうならば、その胸中を取材者に語り、収賄の構造を明らかにしてほしい。その瞬間、大新聞のアマ野球担当者の偽善報道が無に帰すはずだ。
日本の「アマ」ほど、いびつな世界はない。本音と建前の際立った乖離のなかで、限られた者が富を独占する。その一方、「アマ」に押し込められた当事者は、その建前の中で喘いでいる。
冒頭に記したとおり、西武球団は裏金を渡したことを認めているが、裏金がだれに渡したかを明らかにしていない。西武は、裏金を受け取った側が自ら名乗り出ることに期待をしているのだろうか。A新聞がやるべき仕事は、まず、西武球団がもっているリスト(金品を受け取った者)を公表することだ。そして、加熱する甲子園報道を中止すること――高校野球を普通の高校生のクラブ活動に戻すことだ。そうすれば、甲子園野球界に蠢くという裏口入学斡旋業者等は自然に一掃される。
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