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2007年03月13日(火) 裏金とは情けない。

オープン戦最中の日本プロ野球が揺れている。西武が希望枠予定の社会人選手に裏金を渡していたというのだ。希望枠というのは、球団と選手に同意が成立していれば、ドラフトに係らず自由競争で球団がアマ選手を獲得できる制度。日本プロ野球機構(NPB)の新人入団制度は、2005年から2年間の暫定措置として、社会人・大学生で希望枠を採用し、高校生と社会人・大学ドラフトの分離開催を実施してきた。この制度はドラフト制度の実質的な形骸化であり、完全ウエーバーを支持する筆者からみれば、読売主導の新人獲得手段にすぎない。

今秋のドラフトに関しては、NPBがすでに現状維持の方向を決めているのだが、急遽、西武球団の金銭供与が明らかになり、希望枠の存在が不正なスカウト活動の大きな要因ということで社会問題化した。

素朴な疑問がある。なぜ、これまで不正が明らかにされなかったのか。不正を行っていたのは、西武だけなのか、西武の不正発覚で、自由枠は廃止されるのか。

結論からいえば、日本の野球風土の不透明性を前提とするならば、自由枠は撤廃が望ましい。ドラフト制度もやめて、完全ウエーバーがいい。完全ウエーバーというのは、下位球団からアマチュア選手を指名できる制度。高校生、大学生、社会人の区別はない。高校生は未成年だけれど、スポーツ選手の場合、成人、未成年者の区別は意味がない。実力があれば相応の待遇と報酬が得られるのがプロというものであって、未成年を特別扱いする現行制度はおかしい。

日本がWBCで優勝した主因は、野球人口の多さ、選手層の厚さ、社会に浸透した野球文化の存在に求められる。とりわけ高校生という伸び盛りの者を、3年間という期間、きっちりと野球に集中させることができる高校野球の存在が大きい。極論すれば、日本には、プロ野球球団はわずか(NPBに属する12球団の一軍二軍計24球団及び四国リーグ・・・)しかないが、プロのルーキーリーグに対応する高校野球が日本の野球レベルを上げているといえる。さらに高校野球とプロ野球の間を埋める大学、社会人野球が存在する。日本の広義のプロ野球機構は、球団数、選手人口において、米国に勝るとも劣らない。

ところが、高校、大学、社会人の野球選手は「アマ」と規定され、「プロ野球」とは峻厳に一線が画される。その合理的説明はないのだが、この区分は、実態的には、「アマ」を支援する朝日、毎日の2つの新聞社と、「プロ」の人気チーム「巨人」を擁する読売新聞社の対立に起因するとみていい。新聞社の拡販手段の対立構造がプロ〜アマの対立構造に反映しているにすぎない。ということは、このたびの不正事件は、裏金で誘引して望みの「アマ選手」を自由枠で入団させたい勢力と、そんな外部経済をみとめたくない勢力の対立を根底としている。もちろん、今回の事件は、後者による、情報リークの結果である。

なお、誤解してもらっては困るが、朝日・毎日側がいう「アマ」とはもちろんプロであって、アマチュアのブランドを不当表示しているにすぎない。今回の事件では、希望枠の対象とならない高校生が、プロ側の西武球団から金銭を受け取っている。このことから、高校球界に「アマ」である高校生を「プロ」、社会人、大学に斡旋する、「指導者」という仲介者が存在することを窺い知ることができる。

ことの本質は、日本が構築してきた広義のプロ野球機構、すなわち、(プロ野球12球団等)+(「アマ野球」と呼ばれる高校・大学・社会人野球)の合理的で透明な運営方法の構築である。限られた球団が「アマ」と特定の関係を結ぶことは、経済的合理性及び法的透明性を欠く。「裏金」は不正である。できるだけ公正かつ透明に、日本の広義のプロ野球機構を作動させるには、「アマ」が育てた選手を公平に「プロ」に配分する仕組みをつくることだ。その方法は、完全ウエーバー制度しかないだろう。現状、3つの新聞社がそれぞれ勝手につくりあげた日本のプロ野球機構は、結果的に世界レベルにまで日本の野球水準を高めた。もちろん、この日本独特のプロ野球機構は、筆者の気に入るところではない。だが、すぐに壊すこともできないものでもある。ならば、自壊するまで、公正にかつ透明性を保持しつつ運営するしかないだろう。

今回の事件は、長年「プロ」に君臨してきた「読売巨人軍神話」消滅の終章の始まりを予告している。さらに、「アマ」を語る「プロ」の高校野球の仮面が剥がされ、プロ=ルーキーリーグに変身をはかれば、日本の野球界はすっきりする。裏金は氷山の一角、歪んだ日本の野球の崩壊の象徴にすぎない。


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