妄言読書日記
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2006年07月30日(日) 『疾走 下』(小)

【重松清 角川文庫】

久しぶりに読書の重みを体感したような感じです。
ありふれた不幸な話しではあるけれど、シュウジの生きた姿はそんな言葉を受け付けないものがありました。
強いわけでもないけれど、卑怯でもなくただ真っ直ぐな子だったな、と思います。

疾走というのは、風を切る爽快感ではなく、全速力で走る息苦しさと、その先に一瞬だけ訪れるランナーズハイを思い起こさせるタイトルです。
この小説で特徴的なのは、地の文の三人称が「おまえ」と綴られていることですが、私はほとんど最後まで語り部が誰なのか気づけませんでした。
いや、本当はもっと早い段階で気づけていたはずだとは思うのですが、それが誰かということに気づいてしまうと、どうにか幸せになってもらいたいと思っているシュウジの物語の結末までも見える気がして、あえて追求せずに読み進めていました。
「おまえ」という語り口は時折、まるで自分のことを語られているような気持ちにさせられます。

上巻ではただひたすらに兄の罪に始まる不幸に、巻き込まれ流されていたシュウジが、下巻では初めて自分から行動を起こし、その結果、人を殺してしまう。
どこまでもやり切れなく、人を殺してしまったシュウジが幸せな生活に戻ることもできずに物語は終わってしまいます。
けれど、この話しは罪や罰の物語ではなく、ひとりの少年の彷徨の物語だったように思いました。



蒼子 |MAILHomePage

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