妄言読書日記
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2006年03月14日(火) 『文藝春秋4月号』(小)

【文藝春秋】

今まで雑誌の感想などいちいちここで書いていませんでしたが、今回ばかりはどうしても
ど う し て も
書きたいので書きます。
この機会を逃したら書く機会もなさそうだし。
文藝春秋と書きましたが、書きたいのは今回載っている高村薫短編『カワイイ、アナタ』についてです。
他のページ、読んでませんが、文藝春秋、表紙どおり渋いです。
特集が「皇太子と雅子妃苦悩の決断」です。
なかなかおいそれと感想など言えるものではありません。

そんなわけで、高村薫短編の感想です。
何しろ高村女史なので、これが何時の日か本になるだろうなんて思っていたら、痛い目に合うことは目に見えているので、読みたい人はこの期に購入して読んだほうがよろしいかと思われますよ。

さて、この短編、某氏が某氏へ宛てた書簡という形式となっています。
高村ファンなら、どう考えたってどっからどう見たって、合田雄一郎から加納祐介に宛てた手紙以外の何物にも見えませんが、話しの中では誰から誰へというのは明確にされていません。
ただね・・・

「日々雑事に埋もれて心身が鈍麻しているかもしれない小生から、同じく多忙すぎて人間をやめているのだろう貴兄に」

と冒頭始まっていますが、こんな二人が、いかに高村キャラとはいえ、合田・加納コンビ以外に存在するってありえない。
こんな全力で後ろ向きな手紙を書いちゃう人が合田さん以外にいてたまるか、という気持ち。
そんなわけで、ファンなら勝手に午前2時とか3時に、ウイスキーのグラス片手に、几帳面な楷書で手紙をしたためる合田雄一郎を想像しつつ読まないわけにはいかないわけです。
読んでいる時はもちろん、義兄気分で。

で、肝心の中身なのですが、これがまたこれ以上ないというほどの合田節。
手紙って何かわかってるのか、雄一郎、とおにいちゃんに代わって問いたいくらい。
冒頭くらい、近況の報告とか、相手の近況をたずねてみるとか、そういう気配りなし。
もう、いきなりに、

「今日はあまり笑えない夜話を一つ書き送る」

とくる。
あまりに唐突だから、むしろ毎日毎日、この人は夜話を書き送っているのか、合田千夜一夜が加納家に溜まってるのか、と疑いたいくらいの簡潔さ。
おそらく、合田千夜一夜はどれ一つとして笑える話しはないのだろうけれど。
そして、また、その笑えない話と言うのも、直接には自分の話ではなく、どちらかと言えばまったく自分の話しではない、“小生”の先輩の取りとめのないような曖昧模糊とした胡乱な話しが綴られているわけです。
いったい、便箋何枚にしたためられていたのかわかりませんが、受け取った側が困惑するより他ない。

「はて、貴兄の感想や如何」

と最後に問われても、非常に困る。
この辺もまた、合田的無理難題という感じがいたします。
とりあえず、返事を書く場合は「カワイイ、アナタへ」でいいんじゃないでしょうか。そうするべきです(断定)。
そして、その後は手紙の書き方からもう一度レクチャーしてあげた方がいいように思われます。
そんな見知らぬおっさんの妄想交じりの話を延々と綴られても困るんだよ、自分のことを書きなさい、と。

そういうことは他所へ置いておいて、読んでいる間に思ってたのは、こういう中年以上のおじさんが若い女の子に抱く一種の妄想とかファンタジーって、受ける側にとっては物凄い驚きがあるよなぁと。
面と向かっているのにまるで別のものを相手が見ている違和感。
なにゆえに、高村薫が今、この話を書いたのかが気になるところ。

あとは、

「さあ、夜半の交番に初老のサラリーマンがふらりと現れ、椅子に坐り込んだ様子を想像してほしい。」

という一文がかわいいです。
久しぶりの、読み手を軽い混乱に陥れる高村文を読んだなーという気持ち。



蒼子 |MAILHomePage

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