明日は出勤ー。月曜日のために!(合言葉)
さて、前回の日記にて
「…といいつつ、近日中になにかあがっていたらすいません(爆)」
と書いたんですが、おいらがこう書くってことは
こういうことです
最期に遺すものは決めていた
空の軋みと歪める世界の無き、声
最強と謳われた家庭教師は
彼にしては珍しく、ほんの少し迷う素振りを見せると、それでも
今更なにを取り繕うことがあるのか、と自嘲して
「やまもと」
名前を、ひとつ、呼んだ
「んー…。今、剥き終るから、もう少しまってろなー」
帰ってきたのは、的をはずすにも程がある返事だったが
せっせと自分のために、林檎を櫛切りしている姿は、なんとも様になっているので
(日本人にしては少し規格外だが、均整のとれた細長い体躯を椅子から余らせて
それでも窮屈そうな感じはさせずに、小さな林檎をちまちま剥いている)
少し待ってやることにしよう
彼は慣れた手つきで、リンゴを八等分し、芯を取り除き、
わざと残しておいた皮に刃をいれると適度にカット。
その作業を八回
「よし」
そんなわけで、皿の上には、なんとも可愛らしいウサギが8匹
俺の口に運ばれるのを鎮座して待っている
別にウサギが好きなわけではないし、子供扱いされて嬉しいわけじゃないが
ここでふてくされて気を引くほど、ガキでもなければ、歪んだ性格もしていない
(むしろ自分のために手間隙をかけてくれることを喜び以外のなんといおう)
「Grazie」
感謝の言葉を口にして、ウサギを一つほうりこむ
素材も良いが、調理した人間の腕も良かったので、
瑞々しいながらも歯ごたえの良い食感と
つきぬけていくような甘さが舌に残った。美味い。
(林檎の皮むきくらいという声もあるが、それでも上手い、ヘタはあるもんだ
不慣れな刃は果肉を潰すし、鈍間な手つきは林檎を体温であたためちまう)
ひとつ食べ終わったところで
「山本」
「うん?」
もう一度、名前を呼んだ
今度はその意味も意図もわからなかったようで
(最初も厳密にいえば違ったわけなんだが)
小首をかしげて、こちらに注目する
その姿を目に留めて
「…ダメツナはどうした?」
「あぁツナなら、ディ…え、あー…いや、なんか?遅れてくるらしいぜ?」
出かけた言葉をのみこんで
見ているこっちが恥ずかしいくらいの照れ笑い
どうやら今日は、教え子が勢ぞろいするらしい
そんなことを思いつつ、目の前で、ドキドキしつつ見守る視線があったので
仕方ないなとあきれながらも
「そうか」
ほっと胸を撫で下ろしたのを確認
「山本、空が見てーぞ」
やっと本題
「え…あ…小僧、でも」
「心配すんな。今日は調子がいい」
そういって、自分から掛け布を捲くる
山本はほんの少し迷ってから、それでも
「わかった。ちょっとだけな」
仕方ないなという風に笑って、山本は俺を両手で抱き上げた
見た目にも、性格にも似合わず、それは丁寧で優しい動作
笑んだ表情は、まるで黙祷のようにも見え、酷く神聖
これはたぶん、俺だけが知っているであろう秘密で
これが、お気に入りの理由のひとつでもある
であった頃よりも、さらに空に近くなった定位置
眺めのよさは保証付き
高く、遠く、伸びていく視界
空がぐっと傍に寄る感覚
どれをとっても、お気に入り
「今日もいい天気だな」
小さな体が肩に落ち着いたのを確認すると
山本はそういって、窓を開けた
思わず目を閉じてしまったのは、舞い込む風のせいか
それとも…
「山本、俺のボルサリーノをとってくれ」
「お、これな」
コート掛の上においてあった、ソフト帽が頭上に移動
長年の相棒はしっくりきて、もう自分の一部となった影が
大量かつ無遠慮な陽射しを和らげてくれた
陽気が、空調で適温に保たれていた体温を少しあげる
それは眠りに落ちる時の温度に似ている気がした
最強と謳われた家庭教師は
ここにきて、やはり、考えていたことを口に出せなかった
林檎だ、空だと、理由をつけて
結局のところ、本題を言葉にすることができていない
なさけねぇなぁと思っていると
「いいぜ、小僧」
やわらかい、声
「小僧、なんかいいたいコトがあるのな」
聞いてやるよ、と、やはりやわらかい声がそういって思わず隣を見やる
山本は空を見上げたまま、なんだか満足そうに笑っていた
この普段は超とか激とかそういった字がふたつ、みっつは付くくらい鈍いくせに
慣れた頃に、気持ちいい程の裏切りを見せるから、面白くて仕方ない
だから、自分が公明正大な人間だとは思わないし思えないが、
その分を差し引いても有り余るほど
誰も彼もが(それこそ鈍い本人ですら)羨む程に、贔屓してきた
「っていうか、珍しいよな。小僧が迷うなんて」
いつもは問答無用で巻き込むのに、と非難めいたことを明るい調子で繰り返す
あぁ、そうだな。なんて、ぐにもつかないことを言葉にしながら
それでも、やっぱり、ギリギリ、迷ってしまうのは…
(俺の、わがまま、か)
いつだって、したいようにしたい、やりたいようにやってきた
こんな世界に生きる自分だから”誰かの為に”なんてのは考えちゃいない
それでもひとつ、ひとりだけ、意地を貫き通す相手がいるとするならば、自分に
世界中の誰をだましても、自分だけは誤魔化すまい
最期にせめて、悔いが残らないような生き方だけはしよう、と
「…昔話だ」
「おぅ」
小僧が古いことを話すのってめずらしいのなと、そんな彼の軽口を聞き流して
「むかし、海を越えた遥か遠い国に、ひとりの青年がいた。
そいつは誰よりも強く、どんな奴より優しかった」
空が高い、と山本は思う
「青年を慕って多くの人間が集まった。
青年は集まった奴らを大切にしたし、集まった奴らも青年が大好きだった」
まぶしい、とリボーンは思う
「青年は集まった奴らを家族と呼んだ。彼らは自分達のことを
コーザ・ノストラ(我々のもの)と誇りをもってそう称した
いよいよ大所帯になってきた頃、青年は自分と特に親しかった
六人の友に、揃いの指輪を配った」
思い出すのは、親友が、平和を願って壊した、ソレ
かつて隻腕の剣士と相対し、勝ち奪り、ついこの間まで、胸元で輝いていた
「その時から、青年の家族に悲しい雨は降らなくなったんだ」
恵みの、村雨
鎮魂歌の、あめ
「雨は全てを洗い流すんじゃなかったっけ?」
「戦いのな」
ここでいう雨ってのは、涙のことだ
小さな家庭教師は、子供特有の大きな瞳を細めて、そういった
それがまるで昔を懐かしむように見えたのは、自分の気のせいだろうか?
そんなことを思いつつ
「青年には、いつも笑顔が絶えない親友がいた
その親友に、指輪を渡すとき、こういったそうだ」
天気はいくつもある
雲ひとつをとって、晴れとするか曇りとするかは難しい
けれど降っているか、いないかは、誰でもわかる
だから、いつも笑っていてくれる君に”雨”を
”雨”の守護者が笑っているならば
それは悲しい雨ではないはずだから
「青年の願いをきいて、初代”雨の守護者”は
最期まで笑顔を絶やさなかったという」
どんな危機でも、どんな戦いでも
そう…年老いた青年が遠い東の果ての島国に一人で移り住んだ時も
彼の訃報が届き、家族全てが涙した時も
自分の瞼がとじる、その最後の最期の、刹那まで
「その話に習って歴代のボスも雨の守護者には笑顔が絶えない奴を置いてきた」
ボンゴレに雨が降らないように
ファミリーが涙を流さないように
もし、それでも降る時は
それは優しい雨でありますように…と
風が吹いた
わずかばかりの湿気を含んでいて
先ほどまでの暖かさが、いつのまにか、希薄になっている
輝いていた太陽は、水分をとおして、橙色
「だから、お前はいつも笑ってろ」
(ずっと、笑っていてくれ)
そう締めくくって、最強の殺し屋は、やはり少し考えた
考えていることと、思っていることと、言葉にしたモノは全てバラバラだと
たしかに
”守護者”候補として山本に目をつけたのは自分だ
天性の運動能力の高さ
持ち前の殺し屋としての資質
剣術家(時雨蒼燕流)としての血筋
無自覚だが、直感と機転は上々
おおらかな性格と包容力
どれをとっても申し分なし
だから、語った話に嘘はない
歴代の雨の守護者がよく笑う人間だったのは本当だし
それが初代の逸話に習っているというのも、真実
騙しもしていないし、ごまかしもない
…けれど
「あぁ、わかった」
けれど、本当は、ただ
(…好き、だ)
まるで花が咲くような、この笑顔が
ただ、自分が、好きな、だけ
それだけの理由
本音はシンプルで、簡素かつ明確
前述したことに嘘はないけれど
そんな難しいことを考えるよりも、ただ”好き”なのだと
好きすぎてわからなくなるほどに
よく笑うから”雨”のリングを渡したのか
それとも、笑っていてほしいから”雨の守護者”にしたのか
ずっと、笑っていて欲しい
そして出来ることなら、ずっと、その笑顔を傍で見守っていたい
それだけ
(遠回りした)
ただ、笑顔をみたいだけにしては、長い前振りだったな
なんだか失敗した気がして、仕方ない
だから、もうひとつ、なにか…
「ちょっと、寒くなってきたなー」
そういって、山本は窓ガラスに手をのばす
「やまもと」
「んー?」
「泣いてもいいんだぞ」
あぁ、思っていることと、いっていることが全然ちがう
話題にしたいことも、聞かせたいことも、そんなことじゃぁ、ない
「へへ、さんきゅーな」
「忘れていい。泣いていい…強くなくたって」
いいんだ
本当は
巻き込んでおいて、こんなこというのは、勝手だけれど
そんなことを、いう資格は、露ほどにもないと、わかっているけれど
「んー。でもな」
やはり、少し、後悔した
(後悔しないようにってのは、難しいもんだ)
さっきの話はするんじゃなかった
知らなければよかったのに
けれど、知ってしまえば
「俺が笑っていたいんだ」
ツナや、獄寺や、チビたちと
ヒバリに、骸たちに、スクアーロたちとも
俺が泣かないことで、みんなに雨が降らないというのなら
笑っているよ、と、山本は笑った
後悔、する
そう答えがくることなんて、わかっていたはずなのに
だから、今日の今日までそれは秘密にしていたというのに
「もちろん、小僧もな」
山本はそういって、窓をしめて、鍵をかけた
夕方の冷えた空気がさえぎられて
いつの間にか、低下しはじめていた体温が、とまる
あぁ…
沈む夕日に照らされながら、今、この瞬間でさえ、後悔している
いや、違うのか
似てはいるけれど、違う
後悔なんて、していない
これは、ただの
「心残り、だ」
「ん?」
笑顔が見たくて、するつもりのない話をした
優しい山本は、きっとずっと笑っていようとするだろう
そのことはたしかに、後悔しているのだけれど
今、胸を掻き立てられるこの感情
好き、なんだ
この笑顔が
この場所が
この時間が
この日々が
きみが、
愛しい
それだけの、なんとも、原始で、幼稚で、単純な、理由
分かれたくない
おいていきたくない
ずっと、傍にいたい
ソレはやはり、後悔ではなくて、心残り
なにも残せない自分が、置いていく、残酷さ
最期に遺すものは決めていた
「あぁ、…最期の時に後悔しねーようにと、生きてきたはずなんだがな」
いつだって、したいようにしたい、やりたいようにやってきた
こんな世界に生きる自分だから”誰かの為に”なんてのは考えちゃいない
それでもひとつ、ひとりだけ、意地を貫き通す相手がいるとするならば、自分に
世界中の誰をだましても、自分だけは誤魔化すまい
最期にせめて、悔いが残らないような生き方だけはしよう、と
だから、最期に遺すものも決めていた
…はずなのに
「いいんじゃねーか?」
その思考を、とめるのは、いつだって、柔らかい声
隣を覗き込めば、笑顔とぶつかる
見たい、みたい、と望んでいた、モノ
「後悔じゃなくて、心残り、なんだろ?」
いちばん、だいすきな
一等の、お気に入り
「なんていうかさ…小僧がなんの未練もなく、そっちにいっちまったんじゃ
遺された俺たちは…やっぱ寂しいのな」
だって、俺たちだけが、小僧と別れたくないと
こんなに願っているというのは
それは、ちょっと、不公平じゃないか?
やわらかい声
やさしい笑顔
あたたかい体温
おきにいりの場所
たいせつな、ひと
だいすきな、きみ
…
別れは、どちらが辛い、とかじゃなくて
どちらも悲しいし、苦しいし、嫌なのだ
置いていく自分も、置いていかれる彼らも
それでも、お前は、俺のために、笑ってくれるんだな
「ったく。ほんと、しょーがねぇなぁ」
俺の大好きな笑顔で
「まぁ、でも…」
愛しい
「なるほど、たしかにな」
いとしい
いとしい
「遺して逝くのは、悔いではなくて、心というのなら
それはお前らに預けてやってもいいのかもしれない」
離れたくない
置いて逝きたくない
ずっと傍にいたい
でも、それは、叶わねぇから
最期にせめて、この心だけは、残して逝こう
あぁ…
死にたくないと思いながら死ぬ日がくるなんて
けれど不思議と、満足、だ
「小僧?」
かすむ視界
けれど、その先には笑顔があるのだろう
もうよく見えないけれど、それだけはわかる
ありがとう
最期まで笑っていてくれて
すまない
遺していくことを、許してくれとは、いわない
でも、大丈夫
俺はちょっと先にいくだけ
これはお別れなんかじゃぁ、ない
いつか、また、あえるさ
だから…
だから、さいごに、ひとつ
「Arrivederci」
(それじゃぁ、またな)
やくそく、と
えがお が のこる ように
いしき しながら
め を とじ
た
空が軋み歪む世界に無き、声
「あぁ、またな」
「リボーンっ!」
扉は勢いよく開く
開いた沢田綱吉を先頭に、見知った顔が雪崩れ込む
その気配を背中で感じたまま
「し〜」
山本は、唇に人差し指をあてて、そう、いった
数年前から、もう日常となっている光景
雨の守護者の肩は、最強の殺し屋のお気に入りで
そこで眠る頻度は、一緒にすごせばすごすほど、多くみられた
彼も、この小さな子供が、お気に入りだったので
『リボーン、山本の肩をベットにすんなって!』
と、ツナが抗議すれば
『はは、気にすんなよ、ツナ。俺は平気だからさ』
そのたびに、笑顔で応え
『小僧がおきちまうから、し〜、な』
人差し指を唇にあて、ウインクをひとつと、お決まりの動作
ただ、ひとつ、ちがって、いたのは…
「リボーン…」
最強と謳われた家庭教師は、その瞼を、閉じて、眠っていた
その初めて見せる姿に、彼が二度と起きる事は、無い、のだと…
誰もが知る
部屋を飛び出す者
泣き崩れる者
言葉もなく慟哭する者
そして…
「ツナ。小僧から、伝言」
笑顔を絶やさぬ、者
ボタボタと、音をたてて、涙が、こぼれる
それでも気丈にひとつうなづき、言葉を受け取ろうとする、親友に
山本は、隣で眠る、安らかな笑顔と、おんなじ、えがお、で
「Arrivederci」
(それじゃぁ、またな)
空の軋みは、誰かが泣いているから
世界が歪んでいくのは、涙が溢れるから
声が無いのは、きみが…
きみが「またな」といってくれたから
さいごに、えがおを、のこして、くれたから
だから、へんじ、は
「…うん」
若き、コーザ・ノストラの、青年は
笑顔で彼を看取ってくれた親友に
不出来な弟子たちの為に、笑顔を遺して逝った小さな家庭教師に
「ありがとう」
家族を代表して、感謝の言葉を、くちにした