管理人の想いの付くままに
瑳絵



 変わる理由

「ねえ」
「うん?」
「あなたは、私のどこが好きになったの?」
「……顔?」
「なんで疑問系? しかも、顔?」
「だって、人なんてまず顔からでしょう。顔が嫌いだったら、話したいとも思わないし」
「そうかな? ……そうだね」
「でしょう? で、いきなりどうしたの」
「うん、私の友人Aがね」
「友A(笑)」
「うん友人A。彼女は生まれてから十七年、彼氏ができずに悩んでるの」
「顔は?」
「可愛いよ。体型はちょっとぽっちゃりだけど、可愛い」
「なのに彼氏ができないの?」
「本人は性格の問題だって言ってる」
「性格、悪いの?」
「ううん、ハキハキしてるし優しいし、頼りになる」
「ああ、友人Aってあの子」
「そう、現在の待ち人友人A」
「進路の話であれこれ三十分戻ってこないけどね」
「うん。で、話戻すけどどう思う?」
「俺は可愛いと思うよ。でも、気の合う友人って感じ」
「そうじゃなきゃ私が困る」
「じゃあ、一生困らなくて大丈夫だよ」
「バカ……。で、あなたは私の性格好き?」
「好き」
「即答ありがとう。それじゃあ、最初っから好きだった?」
「う〜ん、いつの間にかって感じだね」
「だよね。私も」
「うん、もうなし崩しって感じで」
「なし崩しって……(苦笑)」
「だって顔で惚れて、一生懸命話しかけて、全部に惚れた」
「よくそんな恥ずかしい台詞言えるよね」
「君にだけだよ」
「だから、それが恥ずかしいんだって」
「そうかな」
「そうよ。じゃなくて、友人A」
「そうだったね、友人A」
「その友人Aが性格変える宣言しちゃって」
「はあ? あいつそんなに彼氏ほしいの?」
「いや、そういうわけじゃないみたい」
「なら今のままで問題ないじゃん」
「私もそう言うんだけどさ」
「大体、性格もひっくるめて好きになってくれる人探せばいいじゃん」
「私もそう言った。そしたら」
「そしたら?」
「『あんたみたいに上手くいくわけないでしょう!』って」
「そう言われるとね、」
「うん、だからどうしようって」
「放っておけば」
「冷たっ」
「だって、本人がやりたいなら仕方ないし」
「そうだけどさ」
「でしょ。それに、はっきりとした目標もないのに続かないよ」
「はっきりとした目標?」
「どんな風になりたいのか。ある意味、ダイエットより難しいよ」
「確かに」
「人なんて変わりたいって心底思った時にしか変われないって思う。その一番の例が恋じゃないかな?」
「恋は人を変えるって?」
「うん。どちらかと言えば、受動態より能動態で」
「つまり、自主的にって?」
「恋をして好きになってもらいたいから変わろうとするんじゃない?」
「あ、それは分かるなあ」
「うん、俺も。どうせ今変わっても後で好きになった人のためにまた変わるんだよ」
「なら、友人Aが今やってるのは無意味?」
「無意味ってことはないと思う。でも、必要性は感じない」
「それは、無意味じゃないの?」
「うん、無駄だって分かるならそれだけで意味があるんじゃない?」
「そっか」
「うん」
「じゃあ、放っておこうか」
「そうだね」
「……ありがとうね」
「なにが?」
「話、聞いてくれて」
「気にしなくていいよ。せっかく一緒に居るんだからさ」
「一人で悩むな?」
「そう、一人で悩まれて存在忘れられるよりは、一緒に悩む方がいい」
「いつも二人で?」
「うん、」
「できる限り」
「うん、一緒に居よう」
 この想いが、この世に続く限り。


――おまけ――

「この……バカップル!」
「あ、友人A」
「お帰り、友人A」
「ただいま……って、他人の話題でイチャつくな!」
「だって暇だったんだもん」
「私の話題は暇つぶし程度のものなの!?」
「そうは言ってないだろう」
「そうそう」
「だから、わざわざくっ付くな! 見つめ合うな!」
「「元気だね」」
「ハモるな!」
「おいおい、息上がってるぞ」
「本当だ。大丈夫?」
「もういい。何か悩んでた自分が馬鹿らしくなってきた」
「聞いた?」
「聞いたよ」
「もう、止めるみたいだよ」
「そうだな。これでもう悩まなくていいぞ」
「うん」
「じゃあ、帰るか」
「そうだね」
「って、私待ってたんじゃないの?」
「だから、三人で帰ろうよ」
「……私、独りで帰る」
「なんで?」
「そうだぞ、孤独に帰るの寂しいだろ」
「二人で仲良く手繋いでるのに一人で横を歩けるか! って、人の漢字変換なんで分かるわけ?」
「「気にするな」」
「だからハモるな! てか、どっちも気にするし。もう! 学校という公共の場でイチャつくな!」
「ひがみ?」
「ひがみだろう。ま、いいんじゃないか」
「そうだね」
「そうそう」
「「それでこそ友人Aだもんね」」

……強制終了



講義中の落書き其の二


2005年05月26日(木)



 必要なもの

「人が人であるために、必要なものは何だろう?」
 簡素な真っ白な部屋。その中に唯一ともいえる家具――並べられた三つのアンティークな椅子――に腰掛けた三人の男。その前に立つ一人の少女が問いかけた。
「それは、言葉じゃないの?」
 一番右端に座っていた男が答える。
「言葉?」
「そう、人として会話すること」
「じゃあオームは?」
「あれは、人の言葉を真似してるだけだろう、」
「それなら、赤ん坊はどう違うの?」
「……それをきちんと意味を理解して使えるかどうか」
「それじゃあ赤ん坊は人間じゃないの?」
「人から生まれたら人だよ」
「それじゃあ、生まれつき言葉を話せない人は?」
「だから、人から生まれたら……」
「その、人から生まれたってどうして分かるの?」
 男は、それきり何も言えずに部屋を出た。

「それは、恋をすることじゃない?」
 同じ問いに、今度は真ん中の男が答える。
「恋?」
「うん。それも遊びの恋、もしくは背徳的な恋」
「どういうこと、」
「つまり、本能に反した恋……愛かな?」
「本能に反した行動、想い」
「そう。とは言っても、動物に恋心があるかなんて分からないけど」
「……どうして、分からないのに分かるの?」
「は?」
「動物が背徳的な恋をしないって、どうして分かるの?」
「そんなの、生物学者にでも訊いてくれ」
「私は、あなたに訊いてるの」
 男もまた、部屋を後にした。

「ねえ、」
 今まで黙っていた左端の男が口を開いた」
「どうしたの?」
「君は自分が自分であるために何が必要なのか分かる?」
 逆に問いかけられて、少女は困惑した表情で首を横に振る。
「じゃあ、空が空であるために必要なものは?」
「分からない」
「うん。俺にも分からない。つまり、そういうことじゃないの?」
「……どういうこと?」
「自分のことですら分からないのに、人間なんて大きな範囲のことが分かるわけがないんじゃない?」
「じゃあ、みんな分からないのに答えてたの?」
「そうだね、みんな分からないって認めたくないんだよ」
「どうして?」
「さあ、負けず嫌いなんじゃないの?」
「あなたは、」
「うん?」
「負けてもいいの?」
「そうだね、俺にとってみれば分からないことは負けじゃないから」
「よく、分からないわ」
「それでいいんだよ」
「いいの?」
「いいの。この世から謎が無くなるなんてことはないんだからさ」
「謎は謎のままに?」
「そうだね」
「でも、それじゃあつまらないし、何だか悔しい」
「悔しい?」
「うん」
「きっと、みんなそうなんだよ」
「?」
「みんな悔しいから懸命に答えを出そうとするし、それを認めてもらいたいと思うんじゃないかな?」
「それが、あなたの答え?」
「そうだね、はっきりとした答えじゃないけど、今の段階ではそうだね」
「今の段階では、」
「うん。人も動物も植物も、この世に在る全てのものは変化するから」
「変わらないものなんて無い?」
「それは分からないけど、俺としては在ってほしいよ」
「曖昧なのかはっきりしてるのか微妙。強いて言うなら、あなた自体が曖昧すぎる」
「そうかな? ならきっと、それも俺を作るものの一つなのかもね」
「一つ」
「みんな色んなものが集まってできてるからね」
「単細胞生物も?」
「もちろん。色んな要因や物質が関係してるし」
「そうか」
「うん」
「何となく、分かんないけど分かった」
「そっか、」
「うん、ありがとう」
「どういたしまして」
 少女は微笑む。男も笑って部屋から出て行った。



講義中の落書き……(苦笑)




2005年05月25日(水)
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