管理人の想いの付くままに
瑳絵



 半身

 探して 探して 探して
 やっと見つけたんだ。
 だから、引き寄せて抱きしめて、その温もりを噛みしめたのに。なのに、腕の中の愛しい存在は、激しく暴れて――拒絶した。
 抜け出した腕の中の温もりに、ただ呆然としていると、愛しい存在は遠ざかった。
 背を向けて、離れていく存在を、弾かれたように追い駆けて走り出した。
 走って 走って 走って
 少しずつ縮まる距離に、不安と安堵と歓喜、そして疲れに心臓はバクバクと大きな音を立てて早鐘を打つ。
 伸ばした指先が触れた刹那、その存在は更に遠ざかった。
 愛しい愛しい存在は、自分とは別の腕の中。しがみつくように自分以外の背に回された腕。守るように自分以外に抱き込まれた顔は、見ることは叶わず、ただ、震えた細い肩だけがまるで終わりを告げているかのようだった。
「ごめん……なさい―――」
(ああ、そうか)
 肩よりも細く震えた声に、心の中に諦めと、込み上げる熱い水。
「ごめんなさぃ……」
 繰り返される言葉に、想いに亀裂が入る。
(捨てられたんだ)
 割れて散らばってしまった想い。理解した瞬間に、涙腺まで壊れてしまったようで、止め止めなく、想いの欠片で傷ついた心が、透明な血を流した。
「さようなら」
 今度は自分から背を向けた。
 逃げて 逃げて 逃げて
 何の温もりも待たなくなった存在から、ひたすらに逃げ出した。

 そして、再び探し始めた。想いを組み立ててくれる温かい存在を。
 探して 探して 探して
 もし見つけることができたなら、その時は
 
 お願いだから抱きしめて、温めて欲しい―――

2004年10月31日(日)



 背中合わせの会話

「ねえ」
「うん、何?」
「あのさあ」
「だから何」
「いつになったら言ってくれる?」
「……何を?」
「だからさあ」
「はっきり言いなさいよ」
「うん、だからね、いつになったら言ってくれるのかなあって」
「だから、何て」
「好きだ、って」
「ああ……、好きだよ」
「……そうじゃなくって、」
「言わない」
「なんで?」
「だって、言ってもらったことないし」
「うそ、言ったよ」
「うん、さっきの私みたいにね」
「……」
「沈黙は肯定。
 私は、言いたいこと呑み込んで、伝えたいこと押さえ込んでる人間に与えてあげるほど優しくないよ」
「……知ってるよ」
「そう」
「うん、だから好きだよ」
「そう……偶然ね、私も好きよ」

 それは、二人だけの背中合わせの会話

2004年10月30日(土)
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