管理人の想いの付くままに
瑳絵



 代償(お題:18)

「URAKATA屋」番外編
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 代償


 そう、これは代償。
 選ぶことも失うことも出来ない愚かな私に降り注ぐ懺悔の痛み。


 瞳を見れば分かる、鈴理が誰を好きなのか。そして、その想いを伝えるつもりも無く、必死に感情を押し殺そうとしていることも。
 その事実が、とてつもなく胸を抉る。
「天音」
 名を呼ぶ幸せ。共に在ることの幸福。優しく触れる温もりを、失ってしまうことなんて想像出来ない。
 なのに、鈴理が諦めてしまうのが嫌なのだ。
 誰も知らない私と天音の関係。ばらしてしまえば良いのかもしれない。鈴理がそれを恨み、私を殺すなんてことは微塵も思わない。寧ろ、それが哀しいのだ。
 初めて人を殺した時に、全てを諦めてしまった鈴理。あの時の彼女の憔悴しきった顔が脳裏を掠め、居た堪れない気持ちになる。
「椛……」
 愛してる、や好きなんて言葉は貰わない。名前だけで良い。呼んでくれるだけで良い。
 でも、私はこの幸福をみすみす捨てる。いや、正確には捨てない。
 だって、私は信じてるから。天音が、生半可な気持ちで私を愛してくれているんじゃないってことを。だからこそ、安心して離れられる、待っていられる。
 今の彼に、私はどれだけ残酷な女に映るのだろう?
 見限られるかもしれない。
 信じているのに、消えることの無い不安に怯えてる。
「天音」
 どちらかなんて選べない。皆で幸せになりたいなんて、限りなく実現不可能に近い夢のまた夢。でも、失いたくない。
「やっぱり私達は付き合ってはいけないよ」
 胸が痛い。でも、これは代償。
 何も失いたくないと、そんな我が侭に対する代償だから。

「友人として、これからもよろしく」
 卑怯な私への、我が侭の代償。
 でも、代価を払うのはきっと私だけではない。私よりも天音の方が、鈴理の方が、重い痛みを患い、背負っているのかもしれない。



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「URAKATA屋」番外編
18.選ぶことも失うことも出来ない愚かな私に降り注ぐ懺悔の痛み
をしよう。「contend」05.秘密、の過去の椛サイド。
このお題で2つ目の「URAKATA屋」
短く、薄暗い・・・明るい話を書こうと思っているのに(泣)
またも独白に近いです。

お題8個目・・・頑張れ自分!

2004年02月29日(日)



 追放されし楽園へ(お題:28)

「毒を孕んだ林檎の夢」番外編
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 追放されし楽園へ


「会いたい」その言葉を紡ぐのは、とても怖くて、いつも咽喉の途中でつかえた。
 我が侭を言って嫌われでもしたら、きっと私は生きていけないから。だからいつも貴方の腕の中で、快楽に溺れながら涙を流し、心の痛みに耐えていた。
 だって、どんなに叫んでも、この痛みが貴方に伝わることはない
 痛みも切なさも全て快楽に変えて欲しいと願うから。


 貴方に触れることなく一週間が過ぎた。
 たった一週間なのに、私は平静を保つことさえ難しい。あの温もりに触れないだけで、私の心は酷く不安定になる。
 平日で、仕事に行かなければいけないと言うのに、全くやる気が出ない。何だかもう、どうでも良くなって、無断欠勤を決め込んだ。
 咽喉が渇き、水を飲みにキッチンへと足を向ければ、目に付く痛いほどの紅。昨日、隣の部屋の住人にお裾分けとの名目で、篭いっぱいに貰った林檎。
 毒々しいその色に、御伽噺が頭に過ぎる。
(ああ、これが毒林檎ならば、王子様が助けてくれるだろうか?)
 なんて、馬鹿馬鹿しい考え。あまりにも少女趣味な思考を嘲り笑う。
 第一、彼の人が己の王子様だなんて自意識過剰も良いところだ。
 人が楽園を追放される原因となったとも言われる果実。ならば、私がこれを食べれば、彼の人の下を追放されるのだろうか?
(それは良いかもしれない)
 王子様、なんて考えるより余程現実的だ。
 そんなことを考えながら、一口齧る。口内に広がる甘酸っぱい香り。
 一向に訪れる気配を見せない闇に、何を馬鹿げたことを、と再び自嘲する。
 今日の己がおかしいことなんて、目覚めた時から分かってる。
 そう、おかしい。ただ一口紅い実を齧っただけで、彼の人に電話をして見ようなんて気が起きるなんて。
 でも、心のどこかで分かってる。これは賭けだ。

 携帯ではなく、自宅の電話の番号を押す。
 数回の呼び鈴。もう、十回目のコールが鳴る。
(賭けに負けた、私は楽園を追放されたのだ)
 そう思った瞬間、
『もしもし』
 久し振りに聞いた愛しい声。
 どこか慌てた感じを受ける声。
「起こした?」
 心の中に広がる歓喜。
 今なら言えると、はっきりと分かる。やはり、あの果実のお陰だろうか。
「会いたい」
 初めて口に出せた言葉。
 最初で最後かもしれない言葉。
(会いに行こう)
 あの真っ赤な林檎を持って。愛しい人に。
 毒が付いてるか、なんて私には分からないけれど。付いていたとしても、それは甘美な毒。


 愛しい愛しい私の楽園、それは貴方の腕の中
 だから、そこで死ねたなら、それはどんなに幸せなことか
 さあ、楽園へ行こう
 一度は追放されし楽園へ



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「毒を孕んだ林檎の夢」番外編
28.どんなに叫んでも、この痛みが貴方に伝わることはない
 痛みも切なさも全て快楽に変えて欲しいと願う
を使用。本編の彼女サイド。
お題の中で一番薄暗いと思われる話……。
微妙に、R指定すべきかと悩んだんですが、あれくらい大丈夫でしょう。
前回が会話ばっかりだったのに、今回はほぼ独白。

お題7つ目……一番長いお題は終わった。

2004年02月24日(火)



 心を映すモノ(お題:03)

「祈りの言霊」番外編
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 心を映すモノ


 休日、恋人の部屋にて

「ねぇ、昨日担任が言った言葉覚えてる?」
「あ?あの、此の世には心を映す鏡が存在する?」
「そう、それ」
「それで、それがどうした」
「うん、もし本当にあるのなら、心を映す鏡は何処にあるのだろう、って」
「欲しいのか?」
「うん」
「なんで?もしかして、オレの心の中を覗きたい、とか」
「あ、良く分かったね」
「あのな〜、オレってそんなに信用無い?」
「まさか、ちゃんと信用してるよ」
「だったら、なんで……第一、心なんて形の無い物どうやって映すんだよ」
「あぁ、それもそうだね」
「だろ?それに、心は映すんじゃなくて、表す物だろう」
「わ〜なんかそれ恰好良いね」

 最早、少年は少女に対して脱力する他無い。

「でもね、ただ本当に、何処にあるのかなって、」
「まぁ、あるとしたら心の中だろう」
「心の中?」
「そ、現実の姿を映す鏡が現実にあるなら、心を映す鏡は心にしかないだろう」
「なんか、哲学的だね」
「そうか?それに、鏡なんて役に立たないよ」
「現実を映す鏡も?」
「自分の姿なんて他人にしか見えないからな。鏡が本当なんて自分には分からない」
「なるほど。でも、心は逆じゃない?」
「だからこそ、余計に役に立たないんだよ」
「あ、分かった気がする。心は本人にしか分からないもんね」
「そ、もし映せたとしても、それが本当だなんて見てる人間には分からないだろう」
「そっか」

 と、そこへドアの外から猫の声。少年の飼い猫だ。
 ドアを開けて中へ招き入れる。

「ねぇ、そう言えばこの猫(こ)拾ったのに、言霊信じてないよね」
「何言ってるんだよ、信じるって言ったじゃないか」
「そんな投げやりに言っても、信じられない」
「だったら、心を映す鏡でも持ってくれば?」
「さっき、役に立たないって自分で言った」
「でも、その前にオレのこと信じてるって言ったじゃないか」
「それとこれは別」
「だいたい、お前の言い分じゃ、信じてるって言葉に出してればその内信じるようになるんじゃないか?」
「……確かに」
「だったら、それが一番の証明だろう?」

 不満気な少女に、少年は勝ち誇った顔をする。
 そんな会話が続く中、猫は気持ちよさそうに、少女と少年に挟まれていた。



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「祈りの言霊」番外編
03.心を映す鏡は何処にあるのだろう
を使用。その後の2人の会話。
彼氏、猫を拾ったのに往生際悪く言霊を信じていない模様。
鏡については先日管理人が思ったこと。
ほぼ会話だけの文章って・・・書いてて楽しいけど、見難い(汗)

お題6つ目・・やっと5分の1消化

2004年02月23日(月)



 いたみ(お題:30)

「飛び出して溶け込んで染め上げて」番外編
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 いたみ


 人が飛び降りたことで、立ち入り禁止にされ、更にはフェンスまで強化されてしまった屋上に、ひっそり佇む少年の姿。
 誰かに目撃されてしまえば、すぐに連れ戻され、延々と説教をされるのは必至だが、幸いなことに目撃者は居ない。
 それもそうだろう、現在は授業中だ。体育もあっていないので、外は静だ。
 少年がどうやって立ち入り禁止の屋上に入ったのか、は至極簡単なこと。彼にはピッキングの才能があるのだ。と言うよりは、コツを教えてもらったのだ……この屋上から飛び降りた、彼の友人に。
「嫌な色」
 目の前に広がるのは、友人と最後に見た、友人を誘った忌まわしい色。
それは祝福なのか慰めなのか、空はとても青かった。
 多分、両方なのだろうと少年は思う。空になりたいと願った友人の、祈願達成の祝福。それと同時に、大切な友人を引き止められなかった己への慰め。

「なぁ、翼はやれないから、これで我慢しろよ」
 そうやって、両手いっぱいに抱えていた物を、思いっきり空に向かって放った。
 フェンスの間や、風に乗って舞うそれは、幻想的で美しい。
 だが、この行為によって少年は、自分が屋上に居ることを知らしめたことになる。
 だから、急いで屋上を後にし、階段を駆け下りる。


 窓から外を眺めていた者達は、その舞い落ちる綺麗な物に目を奪われる。
「羽?」
「違うよ、……花弁だ」
「本当だ、真っ白い花弁だ」
 教師の静止も気に留めず窓から腕を伸ばし、手に掴んだのは純白の花弁。
空から舞うその姿は、まるで羽のようで、ふわりと、軽やかに舞う。
 慌てて数名の教師が屋上に向かった時には、誰の姿も無く、扉にはきちんと鍵が掛けられていた。
 残っていたのは、舞うことの出来なかった無数の花弁。



 全力疾走で階段を駆け下りた少年は、友人が息絶えた場所へと足を進める。
 そこには、一番多く花弁が積もっており、ほんの少しだけ救われた気がした。
 地に落ち、傷んだ花弁を一枚拾い上げ、再び空へと放る。
 ひらひらと落ちるそれに、胸を痛め、なき友人を悼む。
「馬鹿野郎」
 青と白のコントラストの美しさに、己のしたことを呪いながら呟いた。



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「飛び出して溶け込んで染め上げて」番外編
30.それは祝福なのか慰めなのか、空はとても青かった
を使用。本編、「・・・馬鹿野郎」の直前のできごと。
ちょっと突っ込み所満載ですが、流して下さい(汗)
友人追悼話。タイトルのいたみが平仮名なのは、意味が重複してるから。
因みに、花弁はバラだったりします・・ゆりでも良いですが。
どちらも共通した花言葉は純潔。ただ、何となく空のイメージで・・。

お題5つ目・・道のりは長い。

2004年02月22日(日)



 永久不変(お題:02)

「URAKATA屋」
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 永久不変


「楊、お前に仕事だ」
 まるで、土産だ、と言って渡すようなノリ―本人にしてみれば、同じ感覚なのかもしれない―で渡されたのは、一人の男のプロフィール。
 楊は、それを静に受け取り、目を通す。
「―――っ!」
 小さく漏れた息に、渡された紙を持つ指先が震えた。
 そして、睨み付けるように渡した男を見据える。男の口には小さな笑みすら浮かんでいて、確信犯め、と憤りを露にする。
「なぜ、この男は殺されるのですか?」
「まぁ、依頼人によれば些か優秀すぎる探偵らしくてな、」
 邪魔なんだそうだ、と感情の篭らない声で続けられる。
「お前が嫌なら、鈴理に殺らせる」
「……貴方は、」
 どこまで知っているのか、との問い掛けを途中で切る。
 言って、何を?と返されるのを避けるためだ。
「期日は三日、殺ってくれるな?」
「・・・分かりました」
「そうか、ならもう下がって良い」
 失礼します、と小さく言って部屋の扉を閉める。暫くの間、その扉を……中に居る人間を睨み続けた。
 従うしかない自分の無力さに、ギリ、と強く唇を噛む。
 口に広がる鉄の臭いに、唇が切れたな、と他人事のように考える。
 手に握られた紙を、グシャリと握り潰した。

 楊が、殺しを始めて六年が経った頃、二十一歳の時だった。



「ご苦労、今回も見事な仕事だった」
「……」
 仕事を終わらせ、結果報告の場で、楊は男の労いの言葉にも何も返さない。
 男を、無機質な瞳で見つめ続けた。仄かに、侮蔑の色をちらつかせ。
 ただ、退室が命じられるのを待っていた。
「楊、お前はまだ分かっていないのか?お前の存在意義は殺すことにしかない」
「ならば、人殺しをしないオレは存在価値が無いと?」
「当たり前だ、何のために育てたと思っているんだ」
 もう、下がって良いと、待ち侘びた言葉が発せられた。
 楊は、一秒たりともこの空間に存在したくないとでも言うように、足早に部屋を後にした。



「間違ってる……」
「え、どうしたの、楊?」
 気が付けば、目の前には鈴理の顔。
 周囲を見渡せば、己が自室のベッドの上に居ることを理解する。どうやら転寝していたらしい。
 嫌な夢を見た、と心の中で悪態を吐き、そのままの体勢で、心配そうな鈴理の顔に手を伸ばす。触れた頬の温もりに、愛しさが溢れ出す。
「何が、間違ってるの?」
「いや、夢の話」
「ふーん」
 ま、良いや。と離れて行く鈴理に、僅かな寂しさを覚える。
 
 ずっと前から決まってる。己の存在意義は義妹である鈴理を幸せにすること。
 つまり、彼女を苦しめる男を殺すこと。
 だから、オレの存在意義は貴方を殺すこと。
 それをいつかあの男に言うことが出来るだろうか?
 言えたとしても男は冷笑を浮かべ、「出来るなら殺ってみろ」と言い放つだろう。


 オレの存在意義は貴方を殺すこと
 それは永遠に変わることの無い、一つの決意。永久不変の存在意義。



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「URAKATA屋」シリーズ
02.僕の存在意義は貴方を殺すこと
を使用。楊の過去と決意。
今回は番外編を付けませんでした。本編の一部みたいなものなので。
結構重要な話だったりもします(汗)
その内、詳しいことがきちんとした話で書かれるでしょう。
色々なことが絡んで来るんで・・・察した人も居るでしょうが。

お題4つ目、だんだん無理が出てくる・・・。

2004年02月19日(木)



 此れが己の人生論(お題:01)

「永遠の在り処」番外編(?)
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 此れが己の人生論


「俺に生きる目的を下さい。でなければ俺が死ぬのを止めないで」
「……何だ、それは?」
「なんだろう、ただ、言ってみた」
「お前、洒落になんねーって」
 そんな会話が交わされている場所は、他でもない立ち入り禁止にされている屋上だ。
「でも、俺が本気で言ったら、希はどうする?」
 問いを投げかけたのは裕の方で、彼の唐突さに、希は嘆息する。
 どうする?なんて言われて、どうすればいいのだろうか・・と言うのが今の希の心境だったりする。
 問われたのは仕方ないのだから…と、自分なりに答えを出してみる。
「背中を押す?」
「何それ。しかも、疑問系」
 その答えに、裕は面白そうに声を立てて笑う。そんな反応に、やはり言うんじゃなかった、と希は己の発言を呪った。
「ねぇ、背中を押すって、本当に背中を押すの?それとも、喩え?」
 促す、と言ったような意味に、背中を押すと言う言葉がある。
 本当に背中を押すのか、どちらなのかと裕は問うているのだ。
「実際に、本当に押す」
「それって、殺人だよ」
「分かってる」
「じゃぁ、何で?」
「分からない、でも、そう思った」
 インスピレーション、まさに直感だ。何となく、本当に何となくだ。
「じゃぁ、裕だったらどうするんだ?」
「俺?俺も希と一緒。希がそんなこと言ったら、俺が突き落とす」
「何で?」
 自分にされた質問を返してみる。
 単純に、裕がどんな答えを返すのかに興味があったからだ。
 彼の発言はいつも突拍子も無いのに、何故だか納得させられる。
「だって、自殺って彼の世で罪重そうじゃん」
「……こっちでの殺人の方が重罪なんじゃないか?」
「そうかな?」
「そうだろ」
「でも、いいんだ」
 二人でアスファルトに寝転がって、空を見ながら不毛な会話して。

「ねぇ、希は死は人生の完結だって思うか?」
「え?どう言う意味だ、裕」
「俺は、死は己の終わりであって、人生の完結ではないって思うんだ」
 こんな風に二人の会話が飛ぶのも日常茶飯事だ。
 最初の頃はその度に慌て、驚いた希も、今では馴れっこだ。
「終わりって、途中で中断されても終わりって言うけど、完結は違うじゃん」
 何となく、感覚的にしか理解できない希。しかしそれは、裕との会話の中では多く、はっきりとした形で理解できることの方が少ない。そんなことできるのは、担任の国語教師か、裕の恋人ぐらいだろう。
「完結って、きちんとそこで全てが終わったてことだと思う」
「でも、自殺はともかく、寿命で死んだ人間の人生は完結するんじゃないか?」
「しないよ。だって、発明家や科学者、作家達だってそうだ。彼らは死して尚、人生の一部が日常に流れてる」
 彼らが生み出したものは、受け継がれ、改良を重ねられても生き続いてる。つまりは、彼らの人生はまだ続いているのだと裕は言うのだ。
 一般の人だって、彼らが生きて来た道は、色んな形で残っている。

「あ〜俺、説明下手だから分からないよな」
「分かるよ、お前の説明が下手のは前から変わらないから」
 俺の理解力が優れてきた。と、希がからかう。
 酷いな〜、と言いながら笑いあう二人。これも人生の一部。

 希は思う。縁起でもない話だけど、もし明日にでも自殺なり事故なりで裕が死んでも、彼の言葉は己の中で生きるのだと。
 そうすることで裕は生き続ける……裕の人生は完結しない。


 この世界が終わるまで、決して人生は完結しない。
 そう、此れが己の人生論。



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「永遠の在り処」の番外編(?)
01.俺に生きる目的を下さい。でなければ俺が死ぬのを止めないで
を使用。日常の一コマ。
番外編の後ろに(?)が付くのは、「永遠の在り処」自体も番外編のようなものだから。
逆に言えば、この話も本編の一部だからです(汗)
つまり、シリーズのようなものです。
裕君同様口下手な管理人(泣)
タイトルのままです。コレは管理人の人生論です。すみません。

お題3つ目・・楽しいけど、キツイ

2004年02月18日(水)



 織られた言の葉(お題:24)

「千羽のラヴレター」番外編
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 織られた言の葉


 嬉しさと恥ずかしさ、それが今私の心に在る全てだ。
 部屋に散乱する色取り取りの色紙は、まるで逃げることを赦さないと主張しているかのようで、こんな面倒なことを考えた自分を恨みたくすら感じる。
『全国行けたら千羽上げる』
 なんて彼に告げたのは、更に逃げ道を無くすためだ。
 ”好き”の言葉を素直に言えない己の、精一杯の告白がしたくて、千羽鶴を織ることに決めた。一枚一枚に、好きの言葉を綴って。
 元々手先が余り器用ではないので、決して上手いとは言えない不恰好な鶴。
 今や、後悔の象徴でしかないその鶴を、一羽指先で弾く。


 彼は、またも全国への切符を、ほんの少しの所で逃してしまった。
 友人である剣道部のマネージャーに、どんなに落胆したかを聞かされて、自分の発言を呪った。
 我武者羅に練習する彼に、近付くことの出来ない自分が悔しい。
「……できた」
 最後の、千羽目の鶴。真っ赤なその鶴が、まるで彼のようだ。
 いや、ここにある全ての鶴が……。

 出来上がった鶴を、無造作に箱に詰める。紐を通すのは止めた。
 とにかく、彼に届けたかった。



 ドキドキと心臓が早鐘を打つ。前に一羽だけ届けた時よりも、更に早い心臓。一度、大きく深呼吸をした。
「どなたですか」
 出迎えたのはあの時と同じ彼で、違うのは、その表情に陰りが見えること。
 抱き締めたいと、心から思った。
 とにかく上がって、と言う彼の言葉に甘え、階段を上り部屋に入る。数分後、お盆にカップやお茶請けを乗せた彼が入って来る。
 降りる沈黙に、私は立ち上がった。
「どうかした?」
 訝しげに見上げる彼の背後に回り、私は箱の中の鶴を、彼の頭上からぶちまけた。
 鮮やかな鶴の雨。舞い落ちる鶴に、彼の顔は驚きしかない。
「これ、上げる」
「でも……オレ、」
 言いたいことは分かる。でも、この鶴たちの本当の意味は、
 私はそのまま背を向けて座り、彼の背中に寄りかかる。
「良いの、全国はただの口実。実際、千羽間に合わなかった言い訳だし」
 抱き締めたいけど背中合わせで、素直になりたいと思いながらもなりたくないと思う。折った鶴が憎らしいのに愛しいように……二律背反。
 矛盾した想いと、曖昧にしか伝わらない言の葉。

 普段、織ることの出来ない言の葉を、今この状態でなら織れるだろうか?

「ねぇ、好きだよ」
「……ありがとう」
 それで良い、これで良い。
 私達は、そんな矛盾した感情と、曖昧な言葉の中で生きてるんだから。
「来年こそは、頑張るから」
「うん、じゃぁ来年も折るよ」
 沢山の言葉を、想いを織り込んだ鶴を折ろう。
 唯一人、貴方の為に。



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「千羽のラヴレター」の番外編
24.矛盾した想いと、曖昧にしか伝わらない言の葉
を使用。県大会後の2人。
微妙にシリアスチックに仕上がりました(苦笑)
彼、負けちゃいました・・途中まで勝った設定だったのに・・。
ゴメンヨ、やっぱ人生そんなに甘くないと言うことで(脱兎)

お題2つ目vv書いてて楽しい♪

2004年02月17日(火)



 もう一つの意味(お題:14)

「花よりも美しく、咲き続けるモノを・・・」番外編
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 もう一つの意味


「雨、降りそうだね」
 二人で映画を見に行った帰りに、不意に足を止めた彼女は、空を見上げて残念そうに言う。
 朝、待ち合わせの頃から曇っていた空は、今にも泣き出しそうな濃い灰色の雲に覆われていた。

「本当だ、降る前に帰ろう」
「うん」
 差し出した手に、自然に重ねられた手。
 彼女の歩幅に合わせて、ゆっくりと、それでも心なし早めに足を動かす。せめて、彼女の家に着くまでに降り出さぬことを祈って。

「ねぇ、今日も幸せ上げられた?」
 帰りながら会話する。この問いは、僕が毎日必ず彼女にする問いだ。
「まだ、今日はまだ幸せ貰ってない」
「え、映画は?面白くなかった?」
 彼女の答えに、喜んでいたと思ったのは間違いだったのか、と不安になる。
「面白かったよ、でもそれは映画がくれた幸せ」
「……じゃぁ、今日のデート自体は?」
「それは、私が誘ったんだから、私が自分から掴んだ幸せ」
 だから、今日はまだ僕から幸せを貰ってないという彼女に、逞しくなったな〜と感心せずには居られない。
 彼女の家に着くまでの間、僕は彼女にどんな幸せを贈るか、懸命に考えた。
 そんな僕の顔を、心底楽しそうに眺める彼女にも気付かぬほどに。


「帰り、念の為に傘持って行く?」
 結局、何も思い付かぬままたどり着いた彼女の家。
 無事に雨が降り出す前に辿り着いたのは良いが、僕が帰り着くまでは待っていてくれそうに無い。
 やはり、濡れるのは嫌なので、その言葉に甘えることにする。
 貸してもらったのは、明らかに彼女の物と思えし綺麗な碧紫色の傘。
「綺麗な色だね」
「うん。あの花の色に似ていると思って」
「ああ、確かに似てるね」
 あの花、と言うのはもちろん勿忘草。三ヶ月前まで僕が毎朝彼女に贈っていた花。
 彼女に、幸せを贈ると約束して、もう三ヶ月も経つのだ。いや、まだ三ヶ月なのかもしれない。
「本当はね、あの花を贈ったのには、もう一つ理由があるんだ」
 ふと、思い出したように言ってみた。まぁ、実際思い出したんだけど。
 あの頃は、まだ重過ぎるかと思って言っていなかったもう一つの意味。
「なに?」
「……真実の愛、勿忘草のもう一つの花言葉」
 その意味も込めて贈ったんだよ。と言えば、彼女の頬がたちまち紅く染まる。
 こういう反応は変わってなくて、惚れ直す瞬間だったりする。
「あ〜あ、特上級の幸せ貰っちゃった」
 綺麗な笑顔で言った彼女は、やはり照れ臭いのか、玄関のドアを閉めてしまった。
 バタン、と無情な音を立てて閉まったドアの外で、彼女の笑顔が目に焼きついて、さっきの彼女に負けないくらい僕の頬も紅くなった。

「幸せだな」
 そんな僕の心情とは全く反対の、泣き出しそうな、情緒不安定な空を見上げて、僕は密かに呟いた。
 掌の中の鮮やかな傘。
 雨が降るのも、良いかもしれない……。



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「花よりも美しく、咲き続けるモノを・・・」の番外編
14.情緒不安定な空を見上げて、僕は密かに呟いた
を使用。その後の2人、です。
微妙に性格が変わってるかも・・得に彼女。
文中でも言ってますが、逞しくなりました(苦笑)でも、コレが本質です。
て言うか、甘いです!

やっと、お題一つクリア。前途多難です。

2004年02月16日(月)



 詩的な30のお題

さて、また管理人が無謀なことを始めました。
と言うか、始めます(死)

だって、見つけた瞬間、やりたい!って思ってしまったもので・・・。
思い立ったが吉日。なんて、勝手に納得。
まぁ、ココでやるのが少しセコイと思う方もいらっしゃるでしょうが(汗)
一応、管理人の想いの付くままに・・・だし。うん←一人納得。

で、詩的な30のお題!


01.俺に生きる目的を下さい。でなければ俺が死ぬのを止めないで
02.僕の存在意義は貴方を殺すこと
03.心を映す鏡は何処にあるのだろう
04.それはまるで傷跡にそった痛みのように
05.独りで暗闇に居た時、手を差し伸べてくれたのは貴方。
 その手をとってもバチはあたらないでしょう?
06.たたかうこと、いきること
07.想い、痛み、君を愛す
08.そこから流れ出るのは無機質な雑音(ノイズ)のみ
09.微かな痛み。けれどそれは確かな悲しみを携えて
10.傷と痛みと過去と現在(いま)
11.自分自身を救えなかったから、貴方を救いたいというのはオレのエゴですか?
12.えぐられた傷、それをみて貴方は嗤う
13.その痛みでココロを撃ち抜いて――?
14.情緒不安定な空を見上げて、僕は密かに呟いた
15.たとえばソレが貴方の為なら、
 世界の何処かで朽ち果ててもいいとさえ思ったんだ。
16.それでも私の目は貴方を映すことを拒絶した
17.そして僕は想いを伝える術を失くした
18.選ぶことも失うことも出来ない愚かな私に降り注ぐ懺悔の痛み
19.この痛みすら貴方が存在したことの証なら、それは至上の幸福になりうる
20.そして僕は悪魔の接吻(キス)に魅入られた
21.貴方の後ろ向きな想いが私を狂わせる
22.君が壊れる、音がした
23.羽ばたくことを畏れた鳥はゆるやかな死を待つだけ
24.矛盾した想いと、曖昧にしか伝わらない言の葉
25.あまりに鮮やかすぎる傷痕を、貴方が癒せと言うのなら―――
26.断片的な記憶の欠片が無言で私を責め続ける
27.ココロの痛みになど、気付かないフリをすればよかった
28.どんなに叫んでも、この痛みが貴方に伝わることはない
 痛みも切なさも全てを快楽に変えて欲しいと願う
29.もしもあの時貴方を信じなければ、
 この切り裂くような痛みが、胸を灼くこともなかったのだろうか
30.それは祝福なのか慰めなのか、空はとても青かった


以上です!
多分、SSが中心。もしくはSSSになると思います。下手すれば詩?
とにかく、そんなに長いのは書きません。あくまで多分ですが・・・。
一人称は変えても可との事でしたので、変えるかもしれません。


お題提供は
issue
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です。他にも色々なお題があるので興味を持った方は是非!
もう1つのお題共々、精一杯頑張ります!


2004年02月07日(土)



 恋愛温度

「貴方の想いは熱すぎる」

彼女が静かに言う。

「そう、まるでこの紅茶みたい。熱すぎて、私は触れることもできない」

白い、湯気を昇らせる紅茶のカップをゆっくり持ち上げる。
そっと口付けられた紅茶は、すぐにテーブルの上に戻される。

「だから、もう少し冷めなければ、貴方の想いにも触れれない」
「でも、君が触れれるような温度は、もう、恋じゃない」
「私は、火傷するような恋なんて要らない」

隣で、睨みつけるように見上げる彼女に、腕を伸ばす。
スプリングの利いた革張りのソファが、僅かに沈み、音を立てる。
いきなりのことに、彼女の手がテーブルに当たり、その振動で紅茶は波を立てて数滴零れ、テーブルに小さく広がる。

閉じ込めた腕の中、胸に頬を預けて、彼女は静に瞳を閉じた。

「やっぱり・・熱すぎる」

火傷しそうだわ、と静かな声に、更に腕に力を込めた。


この温度が心地良いと感じるまで
冷めることのない温度に、君が慣れるまで




2004年02月06日(金)
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