管理人の想いの付くままに
瑳絵



 偽りの裏側 −8−

「アワラ、俺たちも逃げなきゃ火にのまれる!」
「そうだな」
 短いやり取りをして、出口に向かう2人の前に立ちはだかった1つの影。言わずと知れた、ルヒトだ。
 刑事の顔をして立っているルヒトを見て、2人は連れて来たことを今更ながらに後悔する。
「・・・理由はどうあれ、お前達のしたことは犯罪だ」
「邪魔をするなら、アンタも殺すよ」
 鎮痛とも取れる表情で言うルヒトに、間髪入れずに返答したスズロは、ご丁寧にも銃口をルヒトの心臓に向ける。
 2人の銃の扱いの上手さを、十分に目の当たりしたルヒトは、一瞬たじろいた。
「死に急ぐなよ」
 その言葉と同時に、ルヒトの右太腿に激痛が走る。発砲したのは、アワラの方だった。
「這い出してみろよ、ココから。その脚で」
 不敵な笑顔で言い放ったアワラは、言葉とルヒトを残し部屋を出て行く。
 スズロは、アワラに何か言いたげだったが、結局は何も言わずにアワラの後を追う。その背中に、ルヒトは問いを投げかけた。
「・・・結局、何が偽りで、何が真実だったんだ?」
「「・・・・・全てが、偽りであり、全てが、真実だよ」」
 見事に揃えられた2人の声。後に残ったのは、どこか寂しげな表情。
 ルヒトは痛む脚を引き摺り、懇親の力を振り絞って1階へと上がった。脱出時を考えてか、火の手はまだ届いていない。それでも、煙は充満しており、いつルヒトの元に来るか分かったものではない。
 近くの部屋に入り、窓を破って外へと脱出したルヒトの意識は、そこで途切れた。

 数時間後、怪我を負っているルヒトが、”応急処置を施された状態で”警察病院の前に放置されているのが発見された。
 一体誰が、と疑惑の飛ぶ中で目を覚ましたルヒトは、1つの決心をした。
『街から跡形もなく姿を消した2人組を、捕まえるまで追い続ける』と・・・。

 丘の上の教会で、神父は慈愛に満ちた顔で1つの墓前に佇んでいた。その掌の中には、忌まわしき地下室の鍵。回収できなかった亡骸の代わりに、と愛しき女の髪で編まれたストラップを引き千切り、墓の中へと埋める。
(ありがとう・・・)
 精一杯の感謝の気持ちを込め、今は行方の掴めぬ、鍵を渡してくれた2人の少年を思う。



「さて、これからどうする」
「そうだな、俺、死んでることになってるからな・・・家にも帰れないし」
「じゃぁ、このまま2人でどこかに行くか」
「あぁ、それは良いかもな」
「だろ!じゃぁ、決まりだ」

 大切なモノ達を忘れぬよう、黒き服に身を包み

「それにしても、アワラあの刑事のこと、結構気に入ってただろう?」
「な、何だよ。藪から棒に」
「別に、助けたってことは、そう言うことかと思ってな」

 追って追われて進んで行こう

「し、知らねーよ!」

 邪魔なモノは薙ぎ倒す、それが俺達の生き方(やりかた)
 目に見えるモノも見えないモノも
 信じるのは、己の心と大切な人
 手を取り合って 歩んでいこう

 偽りの裏側を・・・・・・――――――




 <完>

2003年11月27日(木)



 偽りの裏側 −7−

 ゆっくりとアワラの傍を離れ立ち上がるスズロの瞳には、暗黒の焔が煌いていた。人をも殺しかねない、強烈な瞳。表情からは全く温度が感じられない。
「まぁ、最初っから殺す気だったけど、楽には死なせない・・・」
「ふっ、できるものなら・・・」
 やってみろ。そう続くはずだった言葉は、銃声によって行き場を失った。滴り落ちる紅い液体。放たれた銃弾は、見事にレネダンの掌を貫通していた。レネダンの顔が苦痛に歪み、拳銃の落ちる無機質な音が木霊する。
 舌打ちし、動こうとしたレネダンは、再度鳴り響いた銃声によって動くことすら叶わぬ状況に陥った。
 ピンポイントで狙われたのは、右足首。
 崩れ落ちるレネダンを見て、スズロは冷徹な微笑を浮かべた。
「まだ息の根は止めない。余興が残ってるからな」
「よ・・興、だと・・・」
 地に平伏して、切れ切れにしか言葉を紡ぐことのできないレネダン。だが、その口端には笑みが浮かんでいる。何かを隠し持っていることなど、一目瞭然だ。
「こ・・の程度の傷、どうって、ことはない・・・」
 そう言って、スーツの内ポケットから小さなビンを取り出した。中には透明な液体が波打っている。
「これは、昨・・年の、内に花から摂・・・取した蜜。・・これさえ飲めば、怪我なんてすぐに・・・」
「はっ、誰がさせるかよ」
 言葉の後に、パリン、と無残にも小ビンは音を立てて崩れていく。液体はそのまま地へと染み渡る。
 だが、レネダンを驚かせたのは別の事実だった。銃弾が飛んできた方向は、明らかにスズロとは違う。レネダンの瞳の先には、起き上がり、土埃を掃うアワラの姿があった。
 ルヒトも、レネダン同様言葉を失う。ただ一人、スズロだけは眉一つ動かさずにアワラを見つめていた。
「スズロの話を聞いてなかったのかよ。言っただろ、まだ余興が残ってんだ」
「お、前・・・死んだはずじゃ・・・」
 やっとのことで言葉を発したレネダンを、アワラは嘲笑する。
「冗談も休み休み言えよ。何のためにこんな動きにくいメイド服を着替えなかったと思ってるんだ。ブラがプロテクターになってんだよ」
 どう言った目的でこれを作ったかは知らないが、アワラは当分あの姉には頭が上がらないな、と苦笑する。
 バカな、と半ば放心状態で呟くレネダンに近づき、アワラは先ほど弾の貫通した掌を踏みつける。その顔は無表情で、先ほどのスズロと同じく、人を傷つけることに対し、何の戸惑いも罪悪感も抱いてないようだった。
 良くできた殺人マシーンのような2人。
 ルヒトは、背筋が凍るのを感じた。
「見てろよ」
 アワラは、レネダンから木(コクカ)へと視線を移す。それに導かれるように視線を移したレネダンは、信じられない光景を見た。
 黒々と輝いていた木が枯れているのだ。全ての葉を散らせ、実も全て地へと落ちている。枝も力なく垂れ下がり、幹はぐったりと折れ曲がっている。瞬く間に枯れた木。
「三年樹の名前の由来には、3年で成熟し、3年過ぎると朽ち果て、更に3年眠った後に再び芽吹くからだ、と言うのがある」
 つまり、3年間存在した後、3年間眠り、また3年間存在する。それを未来永劫繰り返すのだ。
「こんなこと、あんたが読んだ本には書いてなかっただろう?当たり前だよ。銀髪、黒眼の持ち主にだけに伝えられてきたんだから」
 修道女は言った。いつか、自分にもしものことがあれば朽ちている間に木を燃やしてほしい。根から燃やせば木は再生しない。でも、葉が茂っている内に燃やすことはとても危険だから。と。
「だから、すぐにでも殺しに来たかったのに、3年も待ったんだ」
 その暖かい、落ち着ける存在がとても好きだったから。だから、2人はその約束を果たすため、今回の作戦を考えたのだ。
「この木はよく燃える。それに、屋敷の至る所に時限発火装置を仕掛けた。着火まで、もう一分をきった」
「・・・使用人達まで殺す気か?」
「まさか、従業員”だけ”は神父の指示で逃げ出してるさ。組織のやつらのことは知らないけどね。一番喰えないのは、あの男だよ」
 言いながら、アワラはポケットから取り出したライターを木へと投げつける。瞬間、炎上し、真っ黒な木は紅く染まり、美しく燃え上がる。
「あんたも、ここで燃えな」
 やめてくれ、と命も、赦しも請えぬままレネダンの眉間に打ち込まれた銃弾。目を見開き、うっ、と短く呻き声を上げて息絶え、ピクリとも動かなくなった身体。
 あまりにも呆気ない幕切れだった。




2003年11月26日(水)



 時間


  怒って 叫んで
  笑って 泣いて

  みんな今を生きている
  でも、ふと思うんだ

  自分は本当に今を生きてるのかな?

  ”今”は次の瞬間に”過去”へと変わり
  見つめていた”未来”は”今”となる

  自分が生きているのはどこなんだろう?

  今を生きれる人なんていない
  今を生きれない人なんていない
  矛盾だらけの世の中だから
  だから今を生きるんだ

  生きて 生きて 生きて

  掴むことのできない今に立ち
  触れることの無い過去を想い
  見ることの叶わぬ未来を願う

  ”時間”は証
  生の証

  眼には見えぬ証の上を人はただ歩いて行く






2003年11月01日(土)
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