.第6話:『Teenage Walk』 

「たーにーむーらーっ」
体育祭が終わり、次は文化祭の方へみんなの気持ちが向かいつつある10月のある日。
妙ににこにこした藤崎が近寄ってくると、『企画書』と書かれた紙をあたしの机の上に置く。
「・・・・・『学内有志によるファッションショー』。で、これが何か?」
「俺と谷村もメイクスタッフで協力する事になったから、よろしくなっ」

なにーっ!?

「何でそんな事勝手に決めるのよ!」
「だって俺一人じゃ無理だし。谷村以上に腕のいいやつなんて他に知らないし。」
やけににこにこしてすりよってきたのは、こういうわけか・・・あたしは思わず頭を抱える。
「それにほら、俺達だけじゃなくて、牧島や相川たちもスタッフに入ってるし」
企画書のスタッフ名簿に目をやると・・・確かに。たのもしき仲間達が名を連ねている。

『ポスター作成・・・相川梢(3−B) 写真部・美術部』

『企画・構成・・・ 市原愛子(3−C) 藤崎千尋(3−B) 牧島瞳子(3−B) 手芸部3年生』

『音楽・・・富田夏樹(3-D) 海藤絵里(3−B) 森本楓(3−D)    軽音部・吹奏楽部』

『メイク・フィッティング 藤崎千尋(3−B) 谷村麻衣(3−B) 笹原美和子(3−D) 手芸部1・2年生』

進学校なのに、自由な校風の城山高校。
全員が必ず部活動をするきまりになっていて、一定の条件を満たせば新しい部や同好会が作れるから、この学校にはいろんな部活がある。

藤崎の話によると、手芸部の部長が文化祭にファッションショーをしたいと実行委員会にもちかけて、その話に乗った実行委員でもある藤崎・とーこさんと手芸部長の市原さんを中心に各部に協力を要請して、このメンバー集結となったらしい。

「手芸部、ってゆーとなんか古臭く聞こえるけどさ、作ってるもんはすげーぜ。これ見てみろよ。」
企画書にくっついていた作品のポラを見ると、和も洋もいろんな服が、しかも結構素敵なデザインのものが並んでいた、自分でも着てみたいと思うくらいのものが。
「手芸部の面子って、将来服飾関係に進みたいやつが揃ってんだって。結構レベル高いだろ?・・・・なあ、面白そうだと思わない?」
「・・・まあ、ね」
「よっしゃ!きまりだな!!がんばろーぜーっ」まるで子供のように喜ぶ藤崎。
「ちょっと!まだスタッフやるなんて言ってないわよ!!」

そう叫びつつも、こういうイベント大好きなあたしは、もうすでにやる気満々だったのだけど。
 
「・・・ふーん、有志によるファッションショー・ねえ。面白そうじゃない」
仕事が終わって戻ってきた由衣姉に、企画書を見せつつ、協力を頼む。
さすがに素人じゃこなしきれないので、由衣姉か誰かに協力を頼めないか、と藤崎が言い出したからだ。
「いいよ、当日あたしも休みだし。
でもやっぱ城山って必ず学年に1人はこういう面白いの出すやつがいるよね、進学校なのに、堅物のがり勉ってあんまりいないよねぇ。」
OGである由衣姉が現役の時も、文化祭や体育祭はかなり盛り上がったらしい。
「それにしても麻衣、あんたいよいよやる気になったんだ。絶対この仕事やらないっていってたじゃない。親父が聞いたら喜ぶよ〜」
由衣姉がニヤニヤしながら言う。
「それとこれとは話が別!第一今回だって藤崎ってやつが勝手に決めちゃったんだから」
「どっちにしたってやる気になったってことでしょ?あんた素質はあるんだからやっぱりこっちの方へ進めばいいのに・・・ま、それはともかく、お手伝いさせてもらうわ」

やっぱりそういう目で見られてしまうんだなあ・・・・
由衣姉が自分の部屋に引っ込んでから、あたしは小さくため息をついた。
親も当然美容師になって店に入ってくれるもの、と思ってるしなあ。
なんだかんだ言っても、将来OLとかしてる自分が想像できなかったりするんだよねえ・・・。
                  (『Teenage Walk』Δ紡海)

2002年10月31日(木)


.第6話:『Teenage Walk』 

 「本当にごめんなさいねえ」
 店長さんらしき人が何枚ものタオルと着替えを貸してくれる。
「あ、ドライヤーも貸してもらえますか?」
頭からつま先までびしょぬれになったので、髪も乾かしたかったのだ。
店でドライヤーとブラシを借りて、さっそくブローに取り掛かる。
とは言え、もう家に帰るだけだから髪が乾きさえすればいい。
あっという間にブロー終了・見苦しくない程度に髪を束ねたあたしの動きが、いつのまにか店にいた人たちの目についたようだ。
「あ、ごめんなさい、邪魔でしたか?」慌てるあたしを制しながら、美容師さんのひとりがいう。
「いいえ、すごく上手だなあと思って・・・ついつい見とれちゃったの、こちらこそごめんなさいね」
「そりゃ、器用さは血筋じゃない?だって彼女、『Tiara』の娘さんだもん」 お茶を運んできてくれた藤崎がこともなげに言う。
「ああ!谷村先生のお嬢さんなんだ!だったらうまいはずよね」店にいた人たちが口々に言う。親父さんは美容学校の講師をしてるから、知ってる人もいるのだろう。
「じゃあ、あなたも美容師になるのね?」店長さんの言葉に、あたしは首を振った。今のところその予定はない。そういったあたしに、
「もったいねえ。せっかく一流美容師の娘と言う血筋も、環境も、腕や素質もきっちり備わってるのに。俺からすればうらやましいくらいだぜ」藤崎の言葉にかちんと来て、思わず
「それはあんたも一緒でしょ?医者の息子なのに、素質は十分あるのにその道に進まないんだから」そう言ってしまった。
 当の藤崎はまあな、と苦笑いしただけでそれ以上は何も言わなかったけど。

 どの試験でも学年1位か2位しかとったことのない、うちの学年の不動の2トップ(もうひとりはとーこさん)を誇る彼は、地元でも有数の大病院の息子。
当然、誰もが彼は医者になるものだと思っている。
「おふくろの弟が実家のある神戸で美容師やっててさ。あっちにいくたんびに叔父さんちに遊びにいってはずーっと仕事を見てたんだ。少なくとも俺には医者よりも魅力的な仕事だと思った。でも医療関係に進まないのなら学費は出さん!って親父に言われてさ。だからあそこの店で修行と軍資金稼ぐ為にバイトしてたんだ」
藤崎からその話を聞いたのは、その日からずっとずっと後のことだった。

 「・・・ところで、この時間におしゃれして歩いてるってことは、デートとかじゃなかったのか?だとしたら悪かったな」
乾いた服を差し出しながら藤崎が言う。
「いーよ、どうせ、ふられちゃったし。家に帰るところだったんだ」別に隠すこともないのであたしはあっさりと今日のことを簡単に説明する。
「・・・そいつ、同じ男として許せんな」あたしの話を黙って聞いていた藤崎がぽつりと言う。
「だって本当なら彼氏がおまえに謝るところだろーが、その妊娠した彼女にもそんな真似させねーよ。普通は。ひっぱたいて正解だぜ、谷村。俺なら叩くだけじゃたりんだろうけど」
「彼女いなけりゃひっぱたくだけじゃすまなかったよ」
「まあ、そんなつまらん男は彼女(おばちゃん)にくれてやれよ!俺たちゃまだ十代だぜ?これからいい奴といっぱい出会えるって!」
藤崎の言い方に、思わず吹き出すあたし。
 
 その日を境に、藤崎への印象が「がり勉の嫌な奴」から「結構いい奴」に変わっていくのに、そう時間はかからなかった。
 あたしにはない「自分の夢を追いかける」ことをちゃんと実行している藤崎が、うらやましかったんだ。     
                (『Teenage Walk』イ紡海)

2002年10月12日(土)


.第6話:『Teenage Walk』 

「ニチヨウ10ジ イツモノバショデ シンヤ」
ポケベルに刻まれた次の約束のメッセージ。
 あたしの彼・沢村信也さんは、7歳年上の社会人。最近彼の仕事が忙しくて会えない日が続いていたから、当日・わくわくしながら彼の到着を待つ。
 ところが。待ち合わせに現れたのは彼ひとりではなかった。
 おそらく彼と同じ年位の女の人が、彼の後ろでこちらをじっと見つめていた。
こう言ったら失礼かもしれないけど、おとなしそうな、まじめさだけがとりえの地味な女、そんな感じ。あたしが彼に近づくと、すっと前に出てきて、まっすぐにあたしを見つめて言った。

「おねがいです。沢村くんと、別れてください」

はぁ!?

 あたしが彼のほうを見ると、彼は気まずそうに煙草をふかしている。ただひたすら無言で。
「彼が、女子高生のあなたなんか相手にするわけないでしょ!?」
その言葉にかなりかちんときた。
「・・・何が、言いたいんですか?いきなりしゃしゃり出てきて、別れろなんていわれてはいそうですかなんて答えると思ってんの!?
社会人やってる割には物の頼み方も知らないんですね」
あたしは精一杯怒りを抑えてしゃべる。そしたら彼女の顔が泣きそうな表情に変わる。そして、土下座でもしそうな勢いでこう言った。
「お願いします!あなたはまだこれからいろんな人と出会えると思うけど、あたしには彼しかいないの!!・・・あたし、妊娠してるの。もちろん沢村君の子供よ」

なんですと!?
思わず彼女ではなく彼のほうを見る。彼はそれでも無言のまま、そっぽ向いている。

「・・・ば、っかじゃないの!?」

 さすがのあたしもきれてしまった。彼女にではない。彼の態度に。
 彼女は必死で、プライドかなぐり捨ててもいいような勢いであたしに接している。それは自分の中に宿った好きな人の子供の為にも、普通なら絶対したくないであろう、10歳近く年下の子供に頭を下げている。
 それなのに、自分はまるで関係ないかのような彼の態度がすごく腹立たしかった。
 彼女とあたし、どっちが先に彼と付き合い始めたのかわからないし、どっちが本気でどっちが遊ばれてたのかなんて知りたくない。腹が立つのはふたまたをかけられたという事実よりも、無関係・無関心と言わんばかりの彼の態度。
もし、あたしが逆に彼女のようなことをしても、彼は同じ態度をとるのかな、って。

「こんなやつ、あんたにくれてやる!どうぞお幸せにっ!!」

あたしはそう叫んで、彼に歩み寄りほっぺたをひっぱたく。
そして、くるりと背を向けて歩き出す。
くやしかった。
彼はもっと大人の人だと思ってた。
本当に好きだった。
でもこんな最悪の終わりかただなんてね・・・。

あたしはとにかく歩きつづける。腹立った勢いでとにかく。
そのとき
「あー!やっちまった!!」
誰かの叫び声と同時に降って来たのは、大量の水。
避ける間もなくずぶぬれになったあたし。

・・・もう!今日はほんとに踏んだりけったりだ!!

「すみません!大丈夫ですか!?」タオル片手に駆け寄ってくる犯人?を思いっきりにらみつける。

「あれ?谷村?」
「・・・あ!?藤崎?」

「なんであんたが(おまえが)こんな所にいるのよ!?(いるんだよ!?)」

道端でにらみあったあたしたちは同時にそう言っていた。

あたしに水をかけたのは、クラスメイトの藤崎千尋。
彼は目の前の美容室の制服を着ている。

でも、彼の家って確か・・・・。

                 (『Teenage Walk』い愨海)

2002年10月04日(金)


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