「隙 間」

2012年06月23日(土) 「図書館戦争 革命のつばさ」

最近すっかり、やさぐれていたのである。

まったくたちが悪い。

「こころは永遠の中学二年生!」

無理のある「ピーターパン症候群」である。

空想に逃げ出すのではなく、中途半端に目の前の現実に逃げ込んでいたともいえる。

あろうことか。

「一日一文」

ですら、うっちゃっていたのである。

ぐだぐだと一ヶ月以上前のことを綴っていたりしてるのは、本能のささやかな抵抗かもしれない。

しかし、どれも現実社会の必要な仕事であったり、幼稚な趣味嗜好や気分転換や暇潰しだったり。

どれもこれも、あれもそれも、ただ虚しさが後で膨らんでのし掛かってくるばかり。

七月一日の映画サービスデーが日曜日だから、そのときにはしごするひとつに入れよう、と思っていた。

劇場は渋谷か新宿か、はしごするならやはり渋谷だろう、と。

ああ。

気がついたら地下鉄に乗り、神保町から新宿三丁目に着いていたのである。



「図書館戦争 革命のつばさ」

角川シネマにて。

差別的表現などから人権を護るために制定された「メディア良化法」
それは同時に、「図書による表現の自由」を奪うことになってしまった。

「図書による表現の自由」を護るために組織された「図書隊」は武装することを選び、自らが「正義」であることを捨てる選択をしていた。

「正義ではない正義」の矛盾を抱えながら、それでも「図書による表現の自由」を護るために、図書隊は無法とも思えるメディア良化隊による「図書の検閲・没収」と戦っている。

そんな折、原発テロが起こり、それがとある小説を参考にして犯行が行われたとされ、「対テロ特措法」が適用されて「作品」のみだけでなく「作者自身」にまでその対象が及んでしまった。

勿論、「図書隊」は作者を護り、戦う。
裁判による法的な戦い。
しかしそれとは別に、武力によって作者の身柄を奪還しようとする良化隊との戦いも同時に始まる。

「前例が出来てしまったら、それが元になり、国家による作家狩りが始まってしまうかもしれない」

「だから、共に戦ってください」

「検閲」問題をよそ事のように思っていた作者がいざ我が身に降りかかってきたとき、そのあまりの現実に挫けそうになる。

作者奪還に、やがて手段を選ばなくなってゆく良化隊を相手に、護衛についている図書隊は、最後の行動に向けて動き出す。

作者の「亡命」

決行は、おそらく敗訴とでるだろう裁判の判決が出たその直後。

国際世論を巻き込み、「メディア良化法」自体を見直す流れを作り出す。


これは「歴史的な革命」

「革命のつばさ」を、無事大空へと羽ばたいてゆかせることができるのだろうか。



有川浩の「図書館戦争」シリーズ最大にして最高の一冊が原作。

これまでの話の流れだとか、人間関係だとか、まったくわからなくても何の問題もない。

そういった構成で、ちゃんと映画は作られている。

もちろん。

登場人物たちの物語こそが楽しみの方々にも、応えてくれている。

やさぐれた気持ちが、やすりかカンナで削がれてゆくようである。
削がれたおかげか、己が本当に必要だと思ったことの姿が現れてきたのである。

「書を捨て、街に出よう」

捨てはしないが、街に出よう。

「日常のなかに小説を書くことがあるのではない。
小説を書いてる日常に、日々がある」

目に見えないが勝手に引っ張っている境界線を取っ払おう。

「物書きなど、ど阿呆である。
まともなら、まともな仕事と生活と女を追っかけ、または追われていろ。
わたしなど、月末に借金の返済に追われてばかりである」

阿呆なのは既に認めている。

放蕩でもある。

他人のちょっと斜め下をゆく。

それでも。

まだ、羽根は動かせる。



2012年06月10日(日) 「灼熱の魂」

大分経ってしまったが、わたしの日常世界であるギンレイへ。
なんだかふわふわと定まりきらないものを、地につけるため。

「灼熱の魂」

をギンレイにて。

中東からカナダへ移り住んでいた母が、遺言状で双子の姉弟に、

「あなたたちの父親と兄を探しだし、手紙を渡しなさい」

と遺す。
ふたりの父は内戦で死に、さらに兄などいないはずだった。

母の遺言を果たすため、父と兄の消息を追いはじめる。

しかしそれは、母が決して語ることがなかった母と自分たちの凄惨な歴史に直面させられる苛酷な旅路であった。



若かりし母は、難民の男との間に子どもを身籠ってしまう。

男は撃ち殺され、母は一族を汚したと子どもを生んだ直後に村を追放される。

「大学へ行き、知識を学びなさい。約束するなら、他の者に一族の恥をすすぐために殺されないよう、わたしが手配する」

祖母との約束。

やがて大学に入るが内戦が激化し、大学が閉鎖される。
我が子は生んだ直後に、南部の孤児院に預けられていた。
その南部が、激しい攻撃にあったと聞き、生まれたばかりの我が子にした約束を果たしに、現地へ単身で向かう。

「きっと、迎えにゆくから」

しかし孤児院はおろか、村もほとんど焼け野原と化していた。
子どもたちは、全員別の街に連れて行かれたらしい、と知らされる。

それはやがて洗脳し、戦士として育てられることになる。

母はその後、活動家として党の党首を暗殺し、投獄される。

「唄う女」

苦しくても辛くても歌を唄い、拷問に決して屈しない者として監獄でも有名になっていた。

そんな母に、とある拷問人があてられる。

男は母を数年間にわたり、レイプし続ける。
やがて男の子どもを孕ませられ、監獄内で双子を出産したのである。

「あなたたちの父と兄を探しなさい」

姉弟は父と兄を探してゆくうちに、これまでただ寡黙で変わり者だと思っていた母の過酷な過去と初めて直面してゆく。

そして父と兄の所在がついにわかる。
自分たちと同じように、カナダに移住してひっそりと暮らしていたのであった。

二通の手紙を渡し、無言で姉弟は立ち去る。

「息子よ、一日だってあなたを忘れたことなんなかない。
連れてゆかれた児童院に、すぐにでも連れ戻しにゆこうと思った。

何があっても、たとえ離ればなれのままであっても、私はあなたの母として、愛してます」

「私はあなたの罪を許しません。
しかし、あなたにもあなたを愛してくれた父と母がいるように、このふたりの子にとってあなたは父親です」

二通の手紙を続けて読む男。
男はただ苦しむしかなかった。

母は、息子と双子の父親が同一人物だとわかっていたのだろうか。

息子は出産後、目印になる入れ墨の点がいれられていた。
亡くなる直前、現在住んでいるカナダの近所のプールでその入れ墨の入ったかかとの男を、偶然、見つける。

だから、双子の子どもたちに「あなたたちの父親と兄を見つけて、この手紙を渡しなさい」と遺言を残した。

「それができなければ、私をうつ伏せに、墓碑銘には何も入れないで埋葬すること」

とまで、遺したのである。

復讐の念か、母の深き愛か。

いったいどちらなのだろう?

あらためて「灼熱の魂」という邦題が、チリチリと胸を焦がしてゆく。

わたしは親ではない。
ましてや母親でもない。

そもそも。
どちら、などと分けることが愚なのかもしれない。


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